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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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ミル×救出×解放

 テメレイアがイルガリに止めを刺し、後はイルガリの躯から神器を取り出してミルを戻してやる。そうすればすべて終わりだ。

 ウェイルが氷の剣を使って、イルガリの躯を解剖し始めた。


 ――ウェイルはプロ鑑定士の技術の一つである、“検死”を行うことができる。


 治安局の依頼があれば、事件現場に赴いて死体を解剖、鑑定することだってあるからだ。

 検死、現場検証、その他遺留品の鑑定など、事件の捜査にはプロ鑑定士の力が必要不可欠なのだ。

 無論、そんな事件は多くなく、慣れているわけでもない。

 検死なんて、ほとんどしたことがないのだ。当然気分も悪くなるが、ミルを元に戻すためには仕方がないと、ウェイルは黙って刃を入れていく。

 ほどなくして神器らしく指輪を発見し、テメレイアに手渡した。


「ごめん、ウェイル。こんな殺し方をしちゃって」


 テメレイアの方法は、それこそ惨いの一言。


「いや、助かったよ。ありがとう」


 でも、ウェイルは感謝していた。テメレイアの咄嗟の行動がなければ、今頃自分は精神操作されていたはずだからだ。


「これが……ミルを操っていた神器……!!」


 テメレイアはその指輪型神器を、躊躇うことなく中指にはめる。

 指輪が汚いとか気持ち悪いとか、そんな感情など、とっくに捨て去っている。

 ミルのことを考えれば、全てのことは後回しだ。


「ミル、元に戻って……!!」


 テメレイアは指輪に魔力を込めた。

 そうすると、神器発動者は洗脳対象者の感情を垣間見ることができる。

 ここに介入することで対象者を操ったりできるわけだ。

 ウェイルには、テメレイアはただ神器を発動して、祈っているだけのように見えているが、テメレイアは今、ミルの精神の中にいる。


「今、解放してあげるから……!!」


 心を覆っている黒い靄を、そっと取り去ってやる。

 優しく、水に浮かぶ泡を取り除くように。

 異変はすぐに起きた。


『…………んん……』


 力の抜けた声とともに、ミルドガルズオルムの体は、龍の姿から少女の姿に戻っていったのだ。

 浮遊力を失ったミルと、足場を失ったウェイルとテメレイアは、そのまま重力に従っていく。


「フレス!」

『よくやった、ウェイル、レイア!』


 重力に従い落ちていく三人をそっと拾い上げたフレスベルグ。

 これでようやく全てが終わったと、ウェイルもフレスもほっとしたものだ。

 背中側にいるテメレイアは、泣きじゃくっていた。

 ぐちゃぐちゃに泣く姿を見られるのは誰だって恥ずかしい。 

 だからウェイルは、出来る限り目を逸らしていたのだが、それでも声は聞こえてくる。


「ミル、僕だよ、ミル! 目を開けて!」


 ミルを抱きしめて、テメレイアは泣いていた。

 ようやく、それこそ自分の全てを賭けて、ミルを助け出したのだ。

 長年の悲願の達成に、テメレイアの涙は止まらない。


「……れい、レイア……?」


 ゆっくりと、ミルは目を開ける。

 ミルの瞳の真正面には、涙を浮かべるテメレイアがいた。


「レイア……? どう、して、泣いて、おる……?」

「……ミル!! よかった、無事で……!!」

「こ、こ、は……?」

「ミル……!!」


 意識を取り戻したばかりのミルの言葉はたどたどしかったが、それでもこれはちゃんとミル本人の声で、テメレイアはようやく胸を撫で下ろすことが出来たのだった。

 さすがは龍というべきか、すぐに言葉も元に戻っていく。


「い、痛いぞ、レイア、よせ」

「もう、ずっと会いたかったんだよ、ミル!」

「わらわも会いたかったのじゃ。でも痛い」

「少しぐらい我慢して」

「う、うむ……」


 これ以上ないほど力一杯抱きしめるテメレイアに、ミルは息苦しかったのだが、その反面、久しぶりに嗅ぐ懐かしい匂いに、安心したのだった。


「……レイア、そろそろ勘弁して欲しいのじゃ……」

「あ、ああ、ごめん、つい、ね」


 さすがにもう満足したのか、テメレイアは腕を話し、改めて向き直った。


「君は驚くかもしれないけど、君を助けてくれたのは彼らなんだ」

「彼ら……?」


 ミルはキョロキョロと周囲を見回すと、ある一点で顔が固まる。

 徐々に表情が険しくなっていくミル。


「サラマンドラ……!!」

『久しぶりだな、ミル』

「レイア! わらわを助けたというのは、このたわけものか!?」

「こら、ミル。恩人に対してなんて口の聞き方だ」

「ふん! 別にわらわはこんな焦げ臭い龍なんぞに助けて欲しくはなかった。レイアだけでいい!」

『ふん。相変わらず失礼な奴だ。それに助けたのは私じゃない。お前の下を見てみろ』

「下……? って、なんじゃ!? 空の上ではないか!?」


 今頃気づくミル。そして自分の乗っている存在にも気が付いた。


「フレス!? フレスまでおるのか!?」

『そうだ。ようやく会えたな。ミル』

「う、うむ……」


 サラーには強気なのに、フレスに対しては素直なミルである。


「なぁ、レイア。イルガリはどうなった?」

「……死んださ」

「そうか。レイア、わらわはイルガリに操られていたのじゃな?」

「そうだよ」

「それをレイアが助けてくれた。そうじゃな?」

「僕だけの力じゃないけどね。ここにいる皆の力があって、初めて君を助けることが出来た。感謝すべきだよ、ミル」

「う、うむ……。レイアがそう言うなら。助かったぞ、フレス、サラー。ありがとうなのじゃ」

『よもやミルに礼を言われる日が来るとはな。長生きはするもんだ』

『右に同じ。悪い気はせんがな』


 変に皮肉垂れるサラーとフレスだが、改めて礼を言われるのがこっ恥ずかしかったようで。


「あらあら、サラー。ここに来る前と変に態度が違いますねぇ」

『黙ってろ、イレイズ』

「はいはい」


 龍の姿でも、この二人は相変わらずであった。

 ミルも無事救いだし、一息つく一行だったが、そんな中、更なる危機を感じ取っていたのがウェイルとフレス。


『ウェイルよ。オライオンの様子がおかしい』

「実は俺もそう思っていたところだ」


 未だ宙に浮かぶオライオンだったが、どうやら様子がおかしい。


「先程から、ピクリとも動いていない」

『魔力の供給が切れたのか……?』

「それだとすでに落ちているはずだが」


 しかしオライオンは間違いなく徐々にだが下降していっている。


『ウェイルよ。あれがこのまま落ちてはまずくないか?』

「まずいな……。確か治安局からオライオンの装備や性能を詳しく訊いた時、こういう話があった。オライオンには強力な自爆装置が積まれてあると。レイア、当初の計画であった、オライオンの自爆装置の件、どうなったんだ?」


 その話を聞いて、テメレイアも顔色を変えた。


「……忘れていた。あの軍艦にはそれがあったんだ……!!」


 オライオンが搭載しているという強力な自爆装置。

 テメレイアも当然それがあることは承知していたし、元々のテメレイアが立てていたオライオン墜落計画では、オライオンの自爆装置の機能解除後に、一気に墜落させる予定であったのだ。

 だがミルが精神操作を受けたこと、それによってオライオンが巨大な樹木に包まれたこと、そして暴れるミルやイルガリとの決戦のことで手一杯になり、そちらのことに集中し過ぎていた。

 今の今まで、ミルの救出に全てを賭けていた為、そのことをすっかり失念していたのだ。

 オライオンに現れた巨大樹木が邪魔をして、装置の解除にすらいけない状況であった。

 テメレイアが言うに、その装置はオライオンの中心部分に存在し、おそらくは今もその機能を失っていないという。

 そもそも自爆装置なぞ最後の最後で使う装置なため、ある意味では最も厳重で頑強な設計となっている。

 ミルの張った樹木にも耐え、その力を起動しようと、刻々と待っている状態だ。


「あれは一定の衝撃がオライオンに直接加わった時起動する。転移系神器でオライオンにカウンターを喰らわしたけどあの程度の衝撃では発動しない。だけど、もしこのオライオンが墜落したとすれば、その衝撃であれば間違いなく起動してしまう……!!」

『……自爆装置が起動したらどうなる……?』


 あれだけの武力を搭載しているオライオン。

 その自爆装置となれば当然のこと。

 もしあのままオライオンが墜落し、自爆装置が移動すれば――。


「――アルクエティアマインは……崩壊する……!!」

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