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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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仲間ハズレ

 オライオンは炎上し、徐々に高度を下げていくも、未だその機能の全ては死んでいなかった。

 アテナにより供給されていた魔力は膨大で、船首を破壊されて尚、浮遊することの出来るオライオンは、空中要塞と呼ぶに何の躊躇いもない。

 今尚、治安局、並びに『セイクリッド』の面々は有効な手段を取れず、地上から手をこまねくことしか出来なかった。


 しかしながら船首にある巨大象砲手を破壊することに成功したおかげで、しばらくは敵の攻撃は休まると言っていい。まさに今がこちらの攻め入るチャンスである。

 むしろ逆に言えば今しかチャンスはないというわけだ。

 だが敵には結界がある。こちらの砲撃は通用しそうもない。

 だから攻撃はもう、外部ではなく内部からしか出来ないとサグマールとステイリィは判っていた。

 空中に浮かぶオライオンへ向かうには、此方も空から行くしかない。

 その手段を、サグマール達は持っている。

 たった今オライオンの砲撃をカウンターした神器『幻視瞬転』(ワイプ・アウト)

 敵の攻撃が一段落した後、治安局はこの神器を使って、局員をオライオンに送り込もうという計画を立てていたのだ。

 この計画に乗っ取り、治安局本部は、すぐさま作戦の決行を、ステイリィへ命じていたのだが、そのステイリィはというと、その作戦決行を渋っていた。


「ステイリィ上官! 本部からの命令です! オライオンに行きましょう!」

「……待て、今は止めておいた方がいい」

「しかし! 今がチャンスなんですよ!? アルカディアル教会を制圧する機会は、もう無いかも知れない!」

「お前、あの龍の姿が見えないのか!?」

「あれが例の龍姫という奴でしょう! こちらには豊富な神器も戦力もあります!」

「バカ言うな。あの龍は敵じゃない。それに龍は私達が総力を挙げても叶う相手ではない。今はまだ様子を見ろ」


 ステイリィは感じていた。

 あの龍――フレスベルグがあの姿であそこにいるということは、まだ全てが終わっていないということを。

 敵の本丸、龍姫との死闘は、これから始まると確信していた。


「我々もステイリィ殿の意見に賛成だ」

「サグマールさん!?」


 治安局のテントに入り、ステイリィの元にやってきたのは、サグマールとナムル。

 治安局の作戦を知っていた二人は、今は時ではないと、進言しにここに来たのだ。


「ステイリィ殿。上の命令というのは判るが、ここはプロ鑑定士協会の責任ということで構わない。もう少しお待ちいただきたい」

「ええ。安心してください。私はいつでもウェイルさんを信じていますので。まだ時じゃないんですよね?」

「ステイリィ殿もあれを見てそう思いましたか。察しが良くて助かります」


 フレスベルグの姿があるということは、あそこにはウェイルもいる。

 事前にウェイルは、オライオンのことは任せろと言っていた。

 おそらく、何らかの手段を使って墜落をさせるつもりなのだ。

 サグマールらも、テメレイアの作戦を聞いている。

 龍姫を救いだし、自爆装置を解除した後、オライオンを墜落させると。

 サグマール達、そしてステイリィは、ウェイルとテメレイアに全てを託そうと、そう決心していたのだ。

 ならばここで治安局員をオライオンに送り込むことは、二人の邪魔になり得る。

 そもそもあそこには龍姫がいるのだ。

 龍同士の戦いとなれば、治安局員の存在は邪魔でしかない。


「オライオン周辺では、これからアルクエティアマインを賭けた死闘が始まる。我々のような力のない一般人が立ち入ってはいけない。行ったところでオライオンは空中にある。脱出するのも難しいのだから帰ってこられる保証はないし、セイクリッドですら龍には力不足だろう。我々はただ邪魔になるだけだ」

「そんな受け身でいいんですか!? この機を逃すと、また敵に勢いがつくかも知れません!」

「ばかもん、何も手をこまねいて何もしないというわけじゃない。オライオンはプロ鑑定士協会に任せればいい。我々が優先すべきは都市部に侵入している敵信者達の逮捕だ。鉱山は未だに敵に狙われている可能性が高い。徹底的に守り、敵を殲滅せよ」

「……了解しました! 我々は都市部へ、他の部隊は鉱山へ行け」

「「「はっ」」」


 ステイリィの指示に、局員達は騒々しく動き出す。

 ステイリィは、一度フゥと嘆息すると、テント内の椅子に腰かけ、頬杖をつき、そして呟く。


「お互い苦労しますね。振り回される方は、毎回疲れます」


 その隣に、サグマールとナムルが腰を掛けた。


「ウェイルの奴、事件に巻き込まれるのが趣味みたいなもんだからな……。事後処理をするこっちの身にもなってもらいたい」

「ハッハッハ、若いうちはそれくらいで良い」


 げんなりするステイリィとサグマールに対し、ナムルは大きな声で笑っていた。


「ナムル殿、あいつは暴れすぎなのです。それでいて報告はいつも全て終わった時でして。たまには手伝わせろと言いたい」

「ほんと、私達っていつも仲間ハズレですよね。サスデルセルの時もそうでしたけど」

「マリアステルの時なんぞ、足手まといだから来るなと言われたくらいだ」

「お互い、損な役回りですね」

「何を言う、君は得しかしてないだろう?」


 ステイリィの出世っぷりは、サグマールの耳にも聞き及ぶほど。


「確かに!? てか私、高所恐怖症なのでオライオンには行けないのですけどね!」

「行ったところで、また足手まといになるんだろう。どうせワシらは裏方よ」

「いいじゃないですか、裏方。旦那を支える美人な妻となる私にはピッタリ」

「君は本当に幸せだな」

「……だからそれ、一番傷つく一言なんですって」


 そうして二人は、またしても嘆息し、宙に浮かぶオライオンと、フレスベルグの姿を見る。


「我々はウェイル達が無事帰ってくるのを祈り、迎えるのが仕事だろう」

「ですね。いつも通り、気合を入れて出迎えしましょうか」


 アルクエティアマインを賭けた戦いが始まるというのに、一人の老人と一人の女局員は、しみじみと、戦いの行く末を見守ることにしたのだった。








 ――●○●○●○――







 ステイリィやサグマールの制止で、オライオンに局員を派遣する計画は延期されることになった。

 この計画延期は、結果としてテメレイア達にはありがたかった。

 先程の爆発で、オライオンは至る所から火の手が周り、信者達は消火活動に手いっぱいとなっていた。

 そんな炎上するオライオンを下に、フレスベルグと、その背に乗る二人は、静かに敵の動向を見守っていた。


「このまま終わるわけはないよな」

「もちろんさ。もっとも、僕もこのままオライオンが落ちていくのは困る。僕の目的はミルを救い出すことだからね。ミルが救えないなら、ここに来た意味もない」

「だよなぁ。ミルのことを放っておくなら、お前はとっくにアテナの力でオライオンを落としているはずだもんな」


 アテナの力を握るテメレイアは、その気になればオライオンを落とすことが可能だろう。

 重力晶に膨大な魔力を送り込み、容量オーバーで破壊してしまえば、オライオンは宙に浮いてはいられない。

 無論、敵の妨害は入るだろうし、どんな神器を敵が持っているかも判らないため、失敗する可能性だってあるが、オライオンに火の手が周り、混乱の渦中にある現状、テメレイアの行動を邪魔するほど余裕のある敵もいないだろう。


『ウェイル、テメレイア。ミルドガルズオルムの気配が変わったぞ。気をつけろ』

「ああ」


 ウェイルも、そしてテメレイアも僅かながらも感じていた。

 オライオンの船長室から感じる覇気が、ピリピリと肌に刺さっていく。

 畏怖すら覚えるほどの巨大な力が、徐々に膨らんでいるのを。


「ウェイル。そしてフレスちゃん。最初に言っておく。僕はミルを絶対に助ける。だから、殺さないでくれ」

『約束は出来ん。奴はもう自我を失っている。手加減すればこちらが死ぬ。相手は龍だ。絶対は無い』

「それでもだ! 例え僕が死のうとも、ミルだけは殺さないでくれ!」

「……レイア、どうしてミルのことをそこまで」


 考えてもみれば、テメレイアのこれまでの行動は過剰だ。

 ミルに同情したのは判る。

 だが、言ってしまえばたかが同情程度で、シルヴァンやラングルポートで事件を起こすなんて、狂気の沙汰としか言いようがない。

 ミルのために、命どころか人生まで掛けているようにも見える。

 そこまでしてミルのことを想う理由も動機も分からない。

 ウェイルに問われ、テメレイアは、理由は単純だと話す。


「ミルの境遇はね。そっくりなんだ。僕の過去とさ」

「過去……?」


 それから一呼吸置き、神妙に語り出す。


「大切な人から命を狙われ、殺されかけた。フレスちゃんは知っているかもね」

『…………』


 フレスベルグは黙ってテメレイアの次の言葉を待ったが、それは知っているという暗黙のサインであった。


「僕も同じような経験をした。でもミルと一つだけ違うところがある。僕には、救世主が現れ助けてもらい、ミルは誰にも助けてもらえなかったということ。だからミルには僕が救世主になってあげたい」


 それを語る時のテメレイアが、チラリとこちらを見て微笑んだのをウェイルは少し不思議に思っていた。

 逆にそんなウェイルの表情を見て、テメレイアは苦笑する。


「……というのは建前でね。いや、もちろん本気ではあるさ。だけど、僕はただ親友を助けてあげたい。そう思っただけさ。これ以上、君に理由は必要かい?」


 親友の為に、動いただけ。

 一見、とても格好の良い理由で、それでいて偽善的な理由にも感じられるが、テメレイアのこれは本気なのだろう。

 でなければここまでのことは出来ない。出来るはずもない。


「いや、お前らしい」


 ウェイルとて立場が立場なら、ましてその対象がフレスやギルパーニャであるなら、似たようなことをしたのかもしれない。

 今の会話を聞いてか、フレスベルグは笑っていた。


『我ら龍族に対し、ここまで想ってくれる人間が現れようとは、時代は変わったのだな。我々にとっては僥倖だ』


 そしてフレスベルグは一呼吸置き、決意したかのように宣言してくれた。


『ミルドガルズオルムは何とかしよう。我の出来る最大限を持ってな』

「ありがとう、フレスちゃん……!!」

『ミルのことは龍族の問題でもある。礼はいい。……さて、そろそろか』


 フレスベルグが睨む先は、オライオンの船長室。

 先程から感じた嫌な気配は、ついに魔力となりてフレスベルグを挑発していた。


『ウェイル、レイア。しっかり掴まってろ……!!』


 突如としてフレスベルグは翼をはためかせ、空を優美に飛翔し始めた。

 その直後のことである。

 船長室並びにその周辺の部屋の窓から、巨大で鋭い木の枝が、フレスベルグ目がけて伸び始めたのだ。


「ミルの力だ……!!」


 この場にいる全員は、龍姫ミルの真の力を、この後知ることになる。




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