カウンターをぶちかませ
炎上する超弩級戦艦『オライオン』の姿を、満足げに見ていたのはナムルとサグマールであった。
「やりましたな、ナムル殿。転移系神器をこういう風に使うとは、私には想像もできませんでした」
「なに、サグマール殿の協力があってこそ。頑強な結界を持つオライオンには、もうこの方法しか反撃する術はないだろうと思いましてな」
サグマール達の作戦とは、敵の力をそのまま返してやるという、大胆かつ最も効率的なものであった。
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話はテメレイアがプロ鑑定士協会を訪れた翌日に遡る。
テメレイアからオライオンがどのような状況になっているかを聞いた二人は、その足で治安局を訪れていた。
治安局、そして治安局と共に事件の捜査にあたっていたデイルーラ社の社員から、オライオンに関する情報を手に入れ、その情報とテメレイアがもたらした情報を照らし合わせていた。
その中で気になった情報、それは戦艦防衛システムについて。
実はこの超弩級戦艦オライオンだけでなく、弩級戦艦ドレッドノートについても同様な事項ではあったが、これらの戦艦には、強力な結界を張る神器が搭載されていることが分かったのだ。
何とか結界を破る術を考え、いくつかアイディアも浮かんだ二人だったが、結界神器の性能を知らされるとすぐにその考えを改めることになる。
宗教都市サスデルセルに張られている結界よりも堅い結界だということが判明し、打ち破るのは困難だと知れたからだ。
だが、弱点も見つけることが出来た。
オライオンは、自らが攻撃する際、砲撃を行う少しの間、結界を解除するのである。
そこに目をつけたナムルが考えた作戦は、カウンターであった。
敵が攻撃する瞬間にしか攻撃が効かないのならば、敵の攻撃をそのまま返してやれば話が早いと言うのだ。
無論、それは通常のやり方ではなす術はない。
だが相手と同じく、こちらも神器を使えばいい。
ナムルが取り出したのは、プロ鑑定士協会においてあった転移系神器『異次元窓』。
ウェイルとアムステリアが世界競売協会に潜入した時に使った神器である。
ナムルの作戦とは、『異次元窓』のような転移系神器を使い、敵の攻撃をそっくりそのままオライオンに向けて転移させてしまおうというものであった。
異次元窓の様に規模の小さな神器では、オライオンの砲撃を転移させることは不可能であろうが、幸い味方にはラルガ教会がいる。
ラルガ教会は半径数十キロ程度は余裕に転移できる巨大な転送神器がある。
ナムルはこれを使おうと言ったわけだ。
サグマールもその計画に驚きつつもすぐに賛同し、手筈を整えていたのだ。
そしてオライオンの二発目の砲撃の際。
サグマールはラルガ教会の持っている大規模転移系神器『幻視瞬転』を用意し、オライオンにその転送口を向ける。
『幻視瞬転』は起動すれば、辺り一帯に巨大な次元の歪みを発生させる。
渦上に広がる次元の歪みの中心から、あらかじめ設定した場所へと転移させることが出来るのだ。
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「準備は完了いたしました。後は敵の爆撃を待つだけです」
サグマールは全ての点検を終え、ナムルに報告する。
オライオンは再びアルクエティアマインの都市を火の海にすべく、砲撃の準備を始め、主砲が輝き始めた。
「サグマール殿。発動は私がやります、どこか安全な場所へ隠れていてくだされ!」
「何を言いますか、ナムル殿。鑑定士としての先輩を一人残すわけにはいきますまい。いざという時は共に、です」
「……私はいい後輩に恵まれましたな」
「……来ます!」
敵の砲撃が始まるようだ。
オライオン中央に備えられている巨大な象砲手が輝き始め、先ほど見せた都市を火の海にする砲撃を、容赦なく発射しようとしていた。
砲撃の際、オライオンが纏っている結界は解除される。
結界が砲撃の妨げになっては困るからだ。
結界が解除された瞬間、次元の歪みがオライオン船首へ現れた。
だがその歪みには誰も気づかない。
思い描くは再び巻き起こる都市の大爆発。
まさか敵が転移系の神器を使ってカウンターをしてこようなど、それこそ思考の範疇外なのだ。
すでに発射のボタンが押されていたその砲撃は、爆発を生じさせる莫大なエネルギーを打ち放つ。
「ナムル殿!」
「うむ……!」
敵の砲撃を正面に、ナムルとサグマールは臆することなく、神器の発動スイッチを押した。
予め出現してあった次元の歪みが、凄まじい轟音を立てながら引き裂かれていく。
敵の砲撃は、ナムルとサグマールの立つ場所から目と鼻の先のところで、突如として姿を消した。
引き裂かれた次元の裂け目に飲みこまれ、転移されたのだ。
そしてその転移先は、超弩級戦艦オライオンの船首。
結界のなくなっている今、オライオンは無防備状態だ。
そこへ敵の攻撃をそのまま返してやった。
作戦は見事に成功。
オライオンの船首は、自身の砲撃により大爆発を起こし、黒煙を上げて、徐々に失速していったのだった。
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「あれでオライオンの動きが止まるといいのですが」
「あの程度ではちょっとした時間稼ぎがいいところ。結局、我々はテメレイアやウェイルに任せることになるでしょうな……」
二人の視界には、黒煙を上げるオライオンと、その上には光り輝く青き龍がいたという。