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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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地下室とピッキング

「いくか」

「早くしないとミルが心配だよ」

「しかし禍々しい雰囲気だな……」


 螺旋状に闇へと伸びる階段は、先行こうとするものを本能的に畏怖させ、拒絶させていた。

 ウェイルは手元のベルグファングを見る。

 先程倒したバジリスクの血に、輝いていた刃も黒く変色している。

 何度も魔獣と対面してきたウェイルだったが、あのような神獣を見るのは初めてで、無事切り抜けられたことにホッと胸をなでおろしていた。

 しかし油断はできない。

 この先は敵の最重要機密のある場所。

 バジリスク以上の強敵が、いつ現れないとも限らない。


「行くぞ……」


 ベルグファングを構え、ウェイルは先陣を切る。

 薄暗い階段に、コツコツと二人の歩く音だけがこだましていた。


「深いね」

「だな。ますます怪しい」


 朧に浮かぶ蝋燭の灯を目印に、二人は進む。

 それからすぐに、二人の目の前に扉が現れた。


「鍵がかかっているな」


 ドアノブはびくりとも動かない。


「レイアに鍵を貰ったんだよね?」

「ああ。今試している」


 テメレイアから託されたいくつかの鍵。

 すでに裏口侵入の際に使用したのだが、ここでも使えるか試してみる。


「……ここの鍵はなさそうだ」

「判った。ボクに任せて」


 フレスは腕に水を出現させると、それを飴細工の要領でこねくりだす。

 水あめのような粘度を水に持たせると、水を鍵穴に突っ込んだ。


「えい!」


 掛け声をスイッチに、水が一瞬で氷へと豹変。そのままくるりと回すと、簡単に扉が開けた。


「お前にピッキングをやらせれば大陸一だな」

「そんな泥棒みたいなことしないよ!」

「前科があるじゃないか」

「あ、あの時は……緊急事態だったんだもん! それにあれは鍵穴式じゃなかったから開けられなかったもん!」

「なんだその理屈は……」


 プロ鑑定士試験に、どうしてもお金が必要だったフレスは、ウェイルの金庫をピッキングしようとしたことがある。

 なるほど、フレスが隣にいてくれさえすれば、これから先、敵のアジトへ侵入するときに、鍵の心配をしなくてよさそうだ。


「ウェイル、何か変なこと考えているでしょ」

「悪い目的に使用する気はない」

「やっぱりボクにピッキングの才能があるとか思ってたんだ!?」

「フレス。入るぞ」


 ひんやりと、そして 重いドアノブを回して、ついに地下室の扉を開いた。


 テメレイアのメモにあった場所は、間違いなくここのことだろう。

 それは地下室に入ったウェイルとフレスが一番理解できていた。

 何故なら、二人の前に現れたのは、異様な光景であったからだ。


「ウェイル、なんなの、これ」

「惨いな」


 その暗い地下室の床に落ちていたのは、アルカディアル教会の信者たちが被るフード。

 そしてそのフードには、白骨化した遺体がそのまま残されていた。

 それだけじゃない。

 フードを被っていない白骨した遺体も、そこら中に転がっている。

 そんな地獄絵図と表現するに相応しい光景の中、ギラギラと怪しく黒く光るものが、中央の机の上に置いてあった。

 その形状はまるで手錠。

 黒く輝く鎖が、幾重にも絡まりあり、鎖で人の形を成した神器であった。

 人間の手、足、首に相当する場所に、巨大な錠があり、それらの錠は、一本の鎖で星型に繋がれてある。


「あれ、神器だよな。不気味すぎるぞ……」

「あの神器って……っ!!」


 フレスの目の色が変わるのが見て取れた。

 あの神器に見覚えがあるのだろうか。


「フレス。あの神器がなんなのか知ってるのか?」

「うん、知ってる。よく知ってるよ」


 そうつぶやくフレスだったが、突如翼を2対出して、飛翔した。


「この神器があるなんて思わなかった。ここで壊さないと!!」


 唐突のフレスの行動に、ウェイルは理解を追いつかせるのに必死だったが、一つ判るのは、あの神器が善いものではないということだ。

 フレスがあそこまで嫌悪を示す神器とは、一体――いいや、それはもう想像できている。


「ミルを解放しなきゃ……!!」


 フレスは急いで、その神器に向かって氷の塊を打ち放った。

 巨大な氷塊は、周りの芸術品すらも粉々に粉砕しながら、その神器に突っ込む。


「この神器は世界に存在しちゃいけないんだ」


 後に残ったのは、氷のかけらとともに砕け散った神器がある。

 砕けた後も、おびただしい量の魔力を霧散しながら動き回る鎖は、ただただ不気味であった。

 未だカタカタ動く鎖の一つを、フレスは忌々しげに手に取ると、そのまま握り潰した。


「これ、『魔王の足枷』って神器なんだ。主に神獣を縛るときに使う神器で、旧時代の神器だよ」

「それがミルを縛っていた神器ってか。……しかし禍々しい姿だったな。この部屋の雰囲気といい、死体の山といい、見るものが見たらトラウマもいいところだ」

「ウェイル、ここにある死体って、この神器に生命力を吸われた人達のなんだよ」

「神器が、人の生命力を吸うってのか……?」

「正しく言えば魔力なんだけどね。人は皆、多少の魔力を使って生きているから。『魔王の足枷』は貪欲に魔力を吸わなければ能力を維持できない」

「『アテナ』はテメレイアの管理下にある。ここの連中はこの神器をテメレイアに隠していたわけだから、そこからの魔力は期待できない。だから人間を犠牲にしたというわけか……!!」


 とことん腐っている。この教会はあまりにも危険だ。

 ソクソマハーツに来てもう何度目だろうか。頭に血が上りすぎて頭痛がするのは。


「今、ボクがこれを壊したから、もうミルは自由になっているはず。ウェイル。次はどうするの?」

「一刻も早くレイアの元へ向かおうと思う。約束だしな。それにレイアの奴、何か危ない気がするんだ」

「それ、隣で話を聞いていたボクも何となく判ったよ。レイアさん、自分一人でまたしょい込みそうだった」

「それも心配だし、レイアは大事なことに気が付いていない。果たしてミルはこの魔力のみに縛られていたのだろうか、ということだ」

「他に何かあるの?」

「さてな。だが行ってみれば判る」


 ウェイルには一つ予感があった。

 テメレイアは今、一途に盲目的だから。

 少し考えれば違和感はあったはずだ。

 果たしてミルを縛っていたのは、本当に『魔王の足枷』だけだったのかと。


「……急がなきゃな」


 ソクソマハーツ入りしてすでに5時間。

 目的は達した。すぐにでもここを発たなければ、間に合わなくなる。

 何せここはこれから治安局の介入が始まる。

 外には神獣やそれを操る信者も。

 大きな戦闘になることは間違いない。


「フレス。とにかく外に出よう」

「うん! ――って、うわぁ!?」


 突如走る振動。

 建物全体が揺れるほどの地鳴りと共に、猛烈な轟音が響き渡った。


「ウェイル、この音って!?」

「……もしかすると隠れていたオライオンが動き出したのかもしれない……!!」

「だとしたら急いで追わないと!!」


 二人は礼拝堂にたむろする魔獣やらを軽くいなしつつ、外へと向かった。



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