ウェイルの上司 サグマール
――コンコン。
フレスが戻ってくるのを待ち、目的地である廊下の一番奥の部屋の戸を叩いた。
…………。
「……反応が無いね」
「まあな。あいつはいつもこうだ。少し下がっていろ」
ウェイルは先程の重力杖を持ち出し、その光をドアの方へと向けた。
「――」
重力の力を得たウェイルの渾身のキックがドアに炸裂する。
――――ズガァァァァァン!!!!
強烈な粉砕音と共に扉は木っ端微塵になった。
「おい、サグマール! いるんだろ!?」
「……おい、ウェイル。いつもの事とはいえ、もう少し静かに入ってこれんのか?」
ウェイルが叫ぶと、少しばかり間をおいて返事が返ってきた。
「普通のノックじゃ出ないだろ?」
「……まあな……」
部屋の奥からノソノソと動く影がある。
「話はある程度ラルガ教会から聞いているよ。サスデルセルで起きた事件の報告だな」
ウェイルがサグマールと呼んだ巨漢は身を埋めるほどの大量の資料の中から必死に抜け出してきた。
「まあこっちに座れ」
「ああ。フレス、このおっさんがサグマール。プロ鑑定士協会本部の本部長だ。仕事の報告は基本的にこいつに行う」
「へー、そうなんだ!」
「ウェイル。お前が報告に来るなんて珍しいだろう……。それよりも誰だ? その子」
「こいつは俺の弟子だ。フレスという」
「初めまして、ボク、フレスです! ウェイルの愛弟子です‼」
「ほお……。ウェイルに弟子とな。珍しいことがあるもんだ。明日あたり金の価値が大暴落するんじゃないのか?」
サグマールは自慢の髭をいじりながら皮肉を垂れた。
「全く、それは言い過ぎだろう?」
確かに今まで弟子なんて考えたことも無かった。
フレスと出会った時だって、口が滑って言ってしまっただけだ。
「ウェイルが頼んできたんだよ? 弟子になってってさ」
「何? 冗談だろ?」
それに関しては否定できない所もある。
口が滑ったとはいえ、それに近いことを言ってしまったのは事実。
「がははは、人は変わるもんだな! なぁ、ウェイル」
サグマールは巨大な腕でバシバシとウェイルの背中を叩く。
「サグマール、そんなことはいいから。さっさと報告させてくれ」
「分かった分かった。待ってろ、今報告書を用意する。おい、エリク。報告用紙持ってきてくれ」
サグマールが手を叩くと、部屋の奥からエリクと呼ばれた女が現れた。その姿は見るからに秘書ですと言わんばかりで、掛けている眼鏡がきらりと光った。
「持ってまいりました。どうぞ」
「うむ。……よし、さあ何があったか、事細かに語れ」
エリクはフレスの方へ一瞥したが、何も言わずに踵を返して下がっていった。
それからしばらくの間、ウェイル達はサスデルセルでの事件の詳細を語った。




