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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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ステイリィへの頼み

 テメレイアの戦闘開始予想日まで、残り二日となった。

 ウェイルとフレスは、とある頼みを聞いてもらう為、治安局のステイリィの元を訪れていた。


「ステイリィ、お前の力を借りたい」

「なぬ!?」


 

 それほど驚く内容でもないだろうに、露骨に驚愕するステイリィ。

 目を見開き、開いた口が塞がらないといった、そんな表情であった。


「どうしてそんなに驚く……」

「だって、だって!! ウェイルさんが、私を頼っているんですよ!? これって滅多にないことじゃないですか!?」

「そうか? クルパーカーの時にも頼んだ気がするが」

「そうですが、あの時とは事情が違うじゃないですか! だって今回はプロ鑑定士は事件に直接関係がないんですよ!? つまり私的な頼みってことになるじゃないですか!」

「そうなるのか?」


 ステイリィ曰く、ウェイルが私用で自分を使うことなどこれまでほとんどなかったという。


「そうだったかな……」

「とにかくそうなんです! 私はウェイルさんに頼られたことが嬉しくて嬉しくて! つい権力を振りかざして何でもやってしまいそうです」

「そりゃまずいでしょ……」


 ぽつりとボヤくフレスを、キッとステイリィが睨みつけた。


「あんたはいい身分ですよね! いつでもウェイルさんの傍にいられるんだから!」

「言いがかりだよ……。そりゃ弟子なんだから師匠の傍にはいつもいるでしょ」

「それが幸せだといいたいんです! いつまでも一緒にいる気ですか!?」

「……え……」


 ステイリィが嫉妬に燃えて、喚き散らしているだけではあるのだが、思わずそのセリフで固まるフレス。


「……いつまでも、か……」


 その響きが、フレスにはどうも重く感じたのだ。


「おい、ステイリィ、もうその話はいいから」

「うきゃー!! たまには暴れさせてください! ただでさえ先日、ついつい吐いてしまっていたウソがばれて部下からの視線が痛すぎるというのに!! こうなったら既成事実を作ってしまってウソをホントにするしかない!」

「話を進めるぞ。とにかく力を貸せ」

「この人まで私を無視ですか!?」


 こうなったステイリィを相手するのは正直面倒くさい。

 ウェイルは深く感嘆すると、ステイリィの頭にチョップをかまして、元に話題に無理矢理戻した。


「治安局はソクソマハーツおよびアルクエティアマインに厳戒令を敷いているな?」

「……うう、痛い……。はい、両都市の警備は非常に厳重でして、神器や武器を持った治安局員が常に監視しています。特にソクソマハーツ側には、入ることも出ることも厳重なチェックがなされます。ソクソマハーツのアルカディアル教会の信者を、人っ子一人外に出すわけにはいかないですからね」


 現段階で、治安局はアルカディアル教会に所属している信者を、すべて第一級テロリストとして手配している。

 故にソクソマハーツに出入りする人間は等しくテロリストと同扱いとして、厳重なチェック、場合によっては逮捕の対象にすらなりえる。

 テメレイアがどうやってソクソマハーツに戻ったかは分からないが、テメレイアには強大な神器を操る力がある。易々と戻ることができたはずだ。

 しかしながらウェイルはそうはいかない。

 潜入するに際し、治安局の目を騙す方法など思いもつかない。


「合法的にソクソマハーツに入りたい。どうにか手を貸してくれ」


 思いついたのは、堂々と潜入する手だ。

 治安局に協力を仰ぎ、潜入を手伝ってもらおうというのだ。


「ソクソマハーツに入る!? 正気ですか!? ソクソマハーツはこれから間違いなく戦場になんですよ!? 明後日には治安局本部がソクソマハーツ制圧に乗り出す予定となっているんです! 自殺行為以外何物でもないですよ!!」

「自殺行為か。だよなぁ」

「何しみじみと言っているんですか!?」

「いや、お前の言うとおりだと思ってな」


 考えても見ればステイリィの言う通りではある。

 テメレイアの頼みということ以外に、この度の事件、ウェイルには直接関係はない。

 フレスにとってはミルという気になる存在がいるというが、それはフレスの問題だ。


「だが、俺は行かないといけないんだよな」

「本当に他人事みたいですねぇ……」


 テメレイアを裏切ることは、ウェイルには何があってもできないと思っている。

 無論テメレイア以外の知り合いにも同じことは言えるが、ある意味でテメレイアは特別だ。

 同い年で、同じ職を持ち、同じ趣味を同じレベルかそれ以上で語り合える。

 これほど貴重な存在は、他にいやしない。


「友人を助けたい。ただそれだけだよ。だからソクソマハーツに行きたい」

「……こうなったウェイルさんは頑固ですからね……」

「うん」


 珍しくステイリィとフレスの意見が合致。

 しばらく悩むステイリィだったが、恋い焦がれるウェイルの顔のことだ。

 強い信念と意思がそこにあるのは火を見るよりも明らかだった。


「仕方ありません。ただし約束です。必ず生きて戻ってくださいね」

「当たり前だ」

「もちろんだよ」


 そう言ってウェイルに寄り添うフレスを見て、ステイリィは嫉妬以上に安心感を覚えた。

 フレスの正体は薄々とだが気が付いている。

 幾度となく命の危機に晒されてきたウェイルが、ここまで無事であったのも、彼女がいたおかげだと、ステイリィは内心では確信していた。


「それでは上に掛け合ってみます。おそらくは大丈夫でしょう。この度の陣頭指揮は、レイリゴア氏ですからね」


 治安局最高責任者レイリゴア。

 彼が陣頭指揮を執るということは、このアルカディアル教会鎮圧作戦は、治安局史上最大規模となることを証明している。

 この度の事件の大きさを、改めて実感するウェイルとステイリィだった。


「お二人は明日の明朝までにソクソマハーツ北の治安局駐屯地へおいで下さい。そこで部下を待たせますから、彼の指示のもと、ソクソマハーツへ入都して下さい」

「今すぐに言っていいのか? 許可もまだだろ?」

「許可なら何があっても手に入れます。たまには私にドーンと頼ってくださいよ!」


 ステイリィが、その薄い胸を誇張させる。

 普段のステイリィであれば非常に心もとないセリフであるが、このような緊急事態の場合、彼女はできる女へと早変わりする。

 それは部下もよく知っているからこそ、彼女は慕われているのだ。


「任せる」

「ええ」


 部屋から出ていくウェイルとフレスの姿を見て、ステイリィは複雑だった。

 彼はどうしてこれほどまでに事件に首を突っ込みたがるのか。

 命が惜しくないのか、そう思うことさえある。

 でもステイリィは知っている。


 ――ああ見えてウェイルは、誰よりも慎重なのだと。 


 だからステイリィは、その後ろ姿を黙って見送った。

 一人と一匹が、これから起きる大事件に、どのように関わってくるか、興味すらある。


「さて、指紋が擦り切れるほど練習した揉み手を使うときが来ましたか」


 ステイリィはその足で、レイリゴアのいる最高責任室へと向かったのだった。




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