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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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テメレイアの潜入情報

「これからどうすればいいか聞こう」


 テメレイアに手を貸すことにしたウェイルは、早速ソクソマハーツ付近の地図を取り出して、机の上に広げた。


「ウェイル~、連れてきたよ~」

「ああ、入ってもらえ」


 ウェイルはフレスを使いに走らせ、二人の人物をここに呼びつけていた。


「なんだ、こんな夜中に……。俺は別にいいが、ナムル殿には迷惑じゃないか」

「いや、ワシはまだ起きておったからな。問題ないぞ。それにウェイルからの呼び出しとあれば、窺わないわけにはいかまいて」


 扉を開けて入ってきたのは、サグマールと、そしてナムルだった。


「深夜なのに済まない。入ってきてくれ」


 用意した椅子に二人を案内する。

 そこでナムルが目を見開いた。


「て、テメレイアか……!? どうして、ここに……?」

「ナムルさん、お久しぶりです。お元気していましたか?」


 笑顔で手を振るテメレイアに、ナムルが驚き詰め寄った。


「ぶ、無事だったか、テメレイア。心配したのだぞ! 定期連絡がなかったからな……!!」

「それについてはお詫びします。色々とあったもので。ですが見ての通り無事ですのでご安心ください」

「ナムル殿、まあ席につかれては」

「おお、そうだな……」


 サグマールがナムルを宥めて、ひとまず落ち着かせる。


「いやはや驚いた。テメレイア、潜入はどうなった?」

「現在も続けていますよ。もっとも霊感商法については確固たる証拠を得ましたから摘発はすぐにでも可能です」

「うむ、それについてはひとまず置いておく。ワシが気にしているのは、現状についてだ。噂に聞いた。君があのラングルポートで大暴れしたオライオンの上にいたと」

「俺も聞いたぞ。テメレイアよ。君があの事件を起こしたのか?」


 サグマールもテメレイアを問い詰めた。


「ええ。あの事件は僕が主導でした。アルカディアル教に潜入している以上、上の命令は聞かないと不自然ですからね」

「そ、そうか……」


 やはりそうであったかと、ナムルは落胆する。

 ナムルは責任感が人一倍強い鑑定士だ。

 事件の原因はテメレイアではなく、テメレイアを潜入させた自分にあるとそう感じているのだろう。

 これほどまでに責任感が強いナムルだからこそ、テメレイアはナムルに従ったし、鑑定士としても一流であるのだ。


「ナムルさんの責任は皆無ですよ。この事件はアルカディアル教会と、そして僕に責任があるのですから」


 テメレイアとて、例えそれがミルを助けるためだとしても、ラングルポートを混乱させたことに対しては正面から向き合うつもりだ。

 全てが終わった後、罪を償うと心に決めている。


「ナムルさん、サグマールさん。今はそのことは置いておいてもらえませんか。それよりも重要なことが目の前にあるので。ウェイルに頼んでお二人を呼んでもらったのは、これからのプロ鑑定士協会の行動に助言をするためです」


 それからしばらく、ウェイルとテメレイアはこれまでの経緯を簡単にだが二人に話した。

 すでにサグマールにはフレスの正体がばれている。

 したがって龍、とりわけミルについても包み隠さず話した。


「ラングルポートで現れた空中艦隊を潰したのは、やはりフレスであったか」

「うん。あの時、試験を勝手に抜け出しちゃって、ごめんなさい」

「なに、あの時の解答は鑑定品を持たずに外に出ることが正解だったからな。倉庫に鑑定品がないと睨んでいたのだろう?」

「倉庫を色々と調べたけど、鑑定品は全然見つからなかったんだよ。だからもしかしたらここにはないのかもって。でも確信はなかったよ。リルさんとギルのおかげかな。ボクの背中を押してくれたからさ」

「あの二人も実に素晴らしい鑑定士となるだろう。イルアリルマに至ってはすでに色々と行動しているようだしな。まあその話は後日しよう。それでテメレイア。あの空中艦隊を操作していたのはお前だというのだな?」

「ええ。その通りですよ。僕が三種の神器の一つ『アテナ』の力を使ってオライオンに魔力を供給して動かしていました」

「三種の神器か。まさか本当にあるとは」


 長い間鑑定士をしていたサグマールですら、その存在の有無すら突き止められなかったという。

 伝説の代物の突然の登場に、サグマールは驚いていた。

 しかし隣に座っているナムルの反応は薄い。


「実はね、ウェイル。シルヴァニア・ライブラリーの厳戒令の解除は、ナムルさんに行ってもらったんだ」

「……なんだと? どういうことだ?」


 ナムルはここにいるテメレイアを見て驚いていたはず。

 テメレイアがオライオンを奪取した事件に関わっていたと聞いて落胆すらしていた。

 それなのに、どうしてテメレイアを庇う行動をとったのか、ウェイルの疑問はそこだった。


「実はな。我々プロ鑑定士協会はアルカディアル教会の動向をずっと探っていたのだ。テメレイアから聞いたかとは思うが、奴らは霊感商法に手を染めていた。それだけじゃない。鉱山都市アルクエティアマインに対しての色々と裏工作をしていてな。金の値段を下げて損失を与えようとしていたり、ソクソマハーツに謎の病を流行らせて、それをアルクエティアマインのせいにしたりとかな。その証拠を探るために、テメレイアを派遣していた。潜入するテメレイアが求めることを我々は最大限叶えてやっていたのだ」

「僕はナムルさんに頼んで厳戒令を取り下げてもらったんだ。アルカディアル教会の行動を探る上での一環としてね」

「それがまさか三種の神器に関することだとは思わなんだが」

「騙す様な真似をして申し訳ないと思っています。ですが、僕としてもあの本だけは手に入れておきたかったですから」

「……まあ強大な力が敵の手に渡るのを回避したと思えば、ある意味良い判断だったかもしれん」


 テメレイアがいなくとも、敵は図書館に侵入したであろうから。


「サグマールさん。治安局と連絡は取れますか?」

「すぐにでも可能だ。なにかあるのか?」

「それではここで話すことを全て、治安局の上層部にも伝えておいてください。もっとも、僕の持つ情報もそこまで多くはない。結局あの教団はイルガリ一人で動かしているようなものですから」


 テメレイアもミルも、結局現状イルガリの道具にすぎないというわけだ。


「アルカディアル教会が行動を起こすのは、おそらく来週の頭、つまり6日後です。オライオンに可能な限りに武器を詰め込み、空中からアルクエティアマインに攻め込むはず。もちろん空だけでなく、陸からも。部隊がいくつも編成されていたのを確認できていますから」


 広げた地図に、テメレイアが印を付けていく。

 なるほど、敵の配置予想を見ても、敵は鉱山を制圧する陣形になっている。


「鉱山の制圧と共に、空からオライオンがラルガ教会総本山へと攻撃を開始する予定なんです。ですが、それが叶うことはないでしょう。オライオンは僕が何とかします。敵の手前、一度は空にあがるとは思いますが、そのまま墜落させます。オライオンには自爆装置もついていますので、それを解除してからね」

「アテナを使ってか? だがそれは危険すぎるぞ!?」


 テメレイアは『アテナ』の力を無理やり暴走させ、オライオンを墜落させて危機を回避させようと考えていたのだ。


「墜落させて、お前はどうなる!? 怪我じゃ済まなくなるぞ!? 自爆装置があるなら尚更だ‼」

「ウェイル。安心しなよ。出来る限り被害は出さないようにするし、僕も死ぬ気はない。フレスちゃんは見たよね? 僕が図書館から飛び降りたのをさ」

「見たけど、でもあれって『天候風律』の力があったからじゃ!?」

「似たような神器は色々とあるのさ。僕の心配はするだけ時間の無駄だよ。何とかするからね」


 などとテメレイアは言っているが、ウェイルはこの言葉を信用することは出来なかった。

 なんというかテメレイアの目は覚悟を決めている目だ。

 責任を取る為とでもいうのか。命を賭けてまで責任を果たすつもりなのか。

 テメレイアの意思は固そうだ。もうウェイルも追及することは止めにする。


「なあ、レイア。確かにアテナの制御はお前にしか出来ないだろう。だがミルはどうだ? 龍たる彼女であれば、神器のコントロールは可能なんじゃないのか」

「どうかな……。確かにミルなら可能かもしれないけど、でもやらないと思う」

「何故だ。如何にお前がミルを信頼していると言って、それは少し楽観すぎやしないか」

「ミルは神器が大嫌いなんだ。原因はよく判らないけど、見るのも嫌悪するレベルでね」

「ボク、その理由、知ってるよ……」


 フレスがぽつりと呟いた。

 フレスは過去ミルと出会い、ミルの過去を知っている。


「ミルは絶対に神器は使わない。昔酷い目に遭っているから。だからボクもミルが神器には関わらないって断言できるよ」


 フレスがここまで言っている。


「判った。フレスが言うことだ。信じるよ」


 若干の危険性は残るが、可能性は限りなく低いのだろう。


「それにイルガリが見るにオライオンのコントロールを任せるわけはない。なにせオライオンには強力な自爆装置がついているのだから」


 ミルがイルガリに反抗して自爆装置を起動してしまうとも考えられる。

 総じてミルに神器を託すことは危険だとイルガリは結論づけているだろう。


「治安局員はすでにアルクエティアマインに部隊を送っている。ラルガ教会からの情報で、鉱山が狙われる可能性はすでに考慮しているようだった」


 サグマールも独自に情報を集めていたようだ。

 治安局の行動も実に的確で、アルクエティアマインに人員を割き、他にも情報を探るためにソクソマハーツにも潜入しているという。

 治安局はガングートポートにて、アルカディアル教会に面目を潰されている。

 治安局の威信を掛けてこの事件に挑む気概だそうだ。


「すでにアルクエティアマインに潜入していたアルカディアル教会の信徒を数人ほど確保したと聞く。だが気持ち悪いこともあるもんだ。確保した連中は皆龍姫に忠誠を誓い、気が狂ったかのように自害したそうだ。おそろしいことだ」

「……嫌な話だな」


 ここまでいけばほとんど洗脳に近い。

 奴らに対する危険認識はさらに高まる。

 何せ敵は命が無くなることを恐れていないからだ。


「僕も熱心な信徒を間近で見てきたけどね。あれほど恐ろしい軍団はそういないさ」


 ミルに向けて一日中声を張り続けていた信徒達を思い出す。

 ぞっとする光景だった。


「奴らはどのような作戦を取る?」

「夜襲だと考える。空が暗ければ、オライオンも姿を隠すことが出来るから」

「ミルとか言ったな。龍が暴れ回るという可能性はないか?」


 サグマールは龍の力をフレスを見て知っている。

 もし龍が本気で暴れるのであれば、大陸の崩壊すら可能性として現れる。

 そんな心配ごとをテメレイアは一蹴した。


「ミルは人間に恨みがある。でも、それは絶対にないさ。僕がさせない」

「ミルとやらは神器で拘束されているのだろう? 無理やりというのは考えられないか?」

「ミルを縛っている神器はあくまで拘束しかしない。もし操れるのであれば、教育係の僕なぞ要らないさ」


 ミル自身が暴れようと思わない限り大丈夫だとテメレイアは言う。

 オライオンと龍。

 この二つの大きな懸念事項さえどうにかなれば、アルカディアル教会の行動を止めるのは比較的容易いはず。


「後は奴らの使う神器だな。心当たりがあればあるだけ教えてくれ」

「はい。アルカディアル教会では比較的属性系の神器を使いますね。炎や雷、氷といったもの。それと召喚系。アルカディアル教会は召喚をタブーとしていない。デーモンを初めとする魔獣を用いる可能性が非常に高い」


 そしてしばらくテメレイアは、奴らの用いそうな神器や、実際の奇襲方法、またアルカディアル教会の重鎮の情報など、サグマールに伝えていった。


「よし、大抵のことは判った。テメレイアよ、お前にオライオンのことは任せる。もちろん忠告通り対空砲は用意するが、それもどこまで通用するか判らん。お前の肩に全て掛かっていると思え。ナムル殿、我々は治安局に協力して神器の手配を始めましょう」

「それが無難か。治安局は先のガングートポートの件で武力を大幅に失っている。プロ鑑定士協会にある神器をかき集めて治安局に貸し出すのが良さそうだ」


 この度の事件について、プロ鑑定士協会の出来ることは非常に少ない。

 基本的に今回の宗教争いに関して、口を挟める立場にないからだ。

 無論霊感商法や、神器の暴走事件に対して、摘発を行うことは出来る。

 だが、すでにことはその程度の事件に収まっていない。

 下手をすればアルクエティアマインそのものが崩壊する危機となっているのだ。

 これはもう当事者および治安局にゆだねざるを得ないほどの大事件なのである。


「テメレイア。貴重な情報を頂いた。お前のラングルポートでの処分はおってすることになるだろうが、ワシの威信に掛けて悪いようにはしない。安心してくれ」


 サグマールはそうテメレイアに宣言すると、最後にウェイルの方を向く。


「行くのだろう?」

「ああ。親友の頼みだからな」

「……全く、無駄に正義感の強い奴だ。早死にするぞ」

「ほっとけ」


 互いにニヤリと笑うと、サグマールは今度こそ情報を纏めて、ナムルと共に部屋を出て行った。

 去り際、ナムルがテメレイアの肩を叩く。


「君一人に全てを押し付けて、悪かった」


 そう言い残し去っていった。


「いいえ、僕の我が儘でしたから」


 去っていた扉に向かって、ぽつりと漏らしたテメレイアだった。


 テメレイアがウェイルの元を訪れた、その五日後。

 テメレイアの予測通り、アルカディアル教会による、鉱山都市アルクエティアマインへの侵攻が始まることになる。



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