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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十一章 宗教戦争完結編 『君が為に』
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最後の質問

「信者達はミルの言うことなら何でも聞くようになったよ。そうすると今度は僕に教会の目が回ってくる。ミルに言うことを訊かせられるのは僕だけだからね。しかし僕はこれをチャンスと考えた。教会はある意味で僕の機嫌を損ねることが出来なくなったのだから」

 唯一龍とコンタクトできた人間、それがテメレイア。

 熱狂的となった信者をコントロールするためには、その発信源たるミルをコントロールする方が手っ取り早い。

 ミルのコントロールを握るテメレイアを、万が一にも失うわけにはいかなかった。


「霊感商売の証拠も揃った。だからすぐにプロ鑑定士協会に連絡を取って、告発することも可能だった。だけど僕の気がかりはミル。もし今僕が教会から離れたら、ミルは一体どうなってしまうのだろうと」


 敢えてテメレイアは言わなかったが、その後は想像に容易い。


「ミルは人間不信だ。それに当面息を潜めてはいたが凶暴な面もある。そんなミルが暴れてみなよ。この大陸はめちゃくちゃになってしまう」


 神などいない現代において、龍を止めることの出来る存在などほんの一握りだ。

 本気を出せばアレクアテナを滅亡させることすら出来る。これは紛れもない事実なのだ。

 現にウェイルの故郷は、龍の被害によって壊滅に追い込まれているのだから。


「アルカディアル教会はミルを解放し、彼女を束縛した。彼女を束縛している神器も見たことがある」


 テメレイアは、ミルがアルカディアル教会のことをよく思っていないとも話す。


「ミルだって本心では教会には居たくないそうだ。それでも教会に残っているのは、ミルを束縛している神器があるからに他ならない。もしかしたら僕がいるからという理由もあるかもしれないけど、これについては僕のおごりだね。そうであって欲しいと思う自分がいる。変な話だけど」


 ふうとため息をついて、ウェイルの用意した茶に口をつけ、そして言った。


「宗教戦争は止めなければならない。でもそれ以上に僕はミルを助けたい。それだけなんだ」


 目的は告げた、そう言わんばかりにテメレイアはウェイルを見つめた。


「質問してもいいな? ミルを束縛している神器はどの系統の神器だ?」

「おそらくは契約系の神器だろうね。精神面に介入された様子はなさそうだし。物理的に拘束ってのは龍にとっては意味がいないだろうしさ」

「フレス。龍にも契約系神器は効くのか?」

「もちろんだよ。そもそも龍を封印する神器だって契約系だよ。実際にボクだって封印されていたじゃない。ミルが神器に縛られているのだってあり得る話だ」

「そうか。レイア、お前はどうやってその神器を破壊するつもりなんだ?」

「そうだね。神器には神器で。幸い僕は今、三種の神器の一つを操ることが出来る。その力があれば破壊も可能かもしれないね」

「『アテナ』だったか。そいつは今どこにある?」

「ハンダウクルクスの地下さ。そこでずっと発掘作業をしていてね。あまりにも大きいから、他のパーツも全てそこに集めて、完成させた。今はアルカディアル教会の信徒が見張っている」

「『アテナ』の発動はお前が盗み出した本を使えばいいのだな?」

「そういうことだね」


 フレスは思う。

 ハンダウクルクスで聞いた謎の音は、アテナの発掘作業をする音だったのだと。


(あの時からレイアさんは三種の神器について調べていたんだね……)


 不気味だと感じたのも、本能的に三種の神器の危険性を察知したからかも知れない。


「続いての質問、アルカディアル教会はこれからどう動く?」


 ミルのことは気になる点だ。フレスにとっては最優先事項だろう。

 だが、今本当に求められているのはこの情報だ。

 ラングルポートやサスデルセルであれほど暴れ回ったアルカディアル教会だ。

 目的であった超弩級戦艦『オライオン』を奪取した今、どのような行動を取ってくるか判ったものではない。


「オライオンを用いてラルガ教会総本山、アルクエティアマインを直接攻めるだろう。今のアルカディアル教会のトップ、イルガリはアルクエティアマインの金を欲していたから、鉱山を最初に制圧するつもりかもしれない」

「オライオンは誰でも動かせるのか?」

「僕だけだ。アテナの魔力を制御できるのは、僕の持つ本と歌の力だから」


 テメレイアはそう断言したが、冷静なテメレイアにしては珍しくもう一つの可能性について考慮がなされていない。

 オライオンを動かせる可能性はもう一つある。


 それが龍、つまりミルの存在だ。


 フレスが簡単に神器の修理を行えるように、龍という存在は神器に対して非常に知識が深い。

 そして有り余るほどの魔力を持っている。

 フレスとてラングルポートでは10隻のドレッドノート級の軍艦を打ち破った。つまり、10隻の軍艦以上の魔力があるわけだ。これはユースベクスの話から言わせればオライオン級に匹敵する。

 当然サラーにもニーズヘッグにも同等の力があるとすれば、ミルだって当然力を持ち合わせているだろう。

 オライオンの動力源をまかなう魔力程度、ミルには扱えるはずなのだ。

 もちろん、これらは全てウェイルの想像にすぎない。

 テメレイアの言う通り、ミルには操ることは出来ないのかもしれない。


「とすればお前もアルクエティアマインに?」

「今はまだ彼らに従うしかない。赴くことになるだろうね」


 ミルを拘束している神器は、未だ見つけていないという。

 おそらくイルガリの手の内だろうとテメレイアは言った。


「ミルの拘束を解くためなら、どんなことでもするさ。それがたとえ、多くの人が犠牲になろうとも」


 テメレイアの台詞はとても残酷であるように聞こえるが、ウェイルにはその心情がよく理解できた。

 結局人と言うのは自分と、自分の大切な者以外はどうなろうと別に構わないということだ。

 もちろん出来る限り守りたいとは思う。しかしながら大切な者と、その他の被害を天秤に掛けるなら、その結果を訊くのは野暮というものだ。

 しかし、ここには人の常識が効かない龍が一人いた。


「駄目だよ! そんなことしたら!!」

「フレスちゃん……?」

「レイアさんはこれ以上、関係ない人を巻き込んだらダメなんだよ! レイアさんはそれをミルの為って言ってるけど、逆に言えば責任をミルに押し付けているだけだ! それって、ミルが一番嫌いな人間のタイプだよ!」


 フレスの言うことは正論だ。誰もが望む答えである。

 しかし正論が通せない状況だって、人間には多々あるわけだ。


「僕だって、それが一番さ」


 非難されたのにも関わらず、テメレイアはふっと笑うと、フレスの頭を撫で始めた。


「ウェイル。君の弟子は本当に良い子だね」

「こいつは人より人らしいさ」


 頭を撫でられる理由がいまいち理解できないフレスだったが、ムッとしつつも手を払うことはしなかった。


「さてレイア。最後の質問にしよう」


 ウェイルは一度目を瞑り、改めてレイアを見る。


「どうしてこのことを俺達に話した」


 今までの会話を振り返ると、別にウェイル達に話さねばならない内容など一つもない。

 アルクエティアマインへ攻め込むという情報だって、現在のアルカディアル教会の状況を鑑みて推理すれば、おのずと答えは出てくるというもの。

 実際に治安局はすでにアルクエティアマインとソクソマハーツに向けて動き始めている。

 とすれば、テメレイアがここに来る理由はもう一つしかない。


「愚痴を聞いて欲しいってのはダメかい?」

「別にいいさ。でも聞いてもらうだけで満足か?」

「いや、全然さ」


 軽めの冗談を飛ばして、そしてテメレイアの顔は真剣に。


「ウェイル。お願いだ。力を貸してほしい。ミルを助ける手助けをして欲しい」

「最初からそう言え、馬鹿」


 ウェイルは微笑んでそう返すと、テメレイアも相好を崩した。


「君にオライオンの上で言われたことを思い出してさ。どうして助けを求めなかったのかって。うん、そうだ、最初からこうしていれば楽だったかな」

「どうだかな。俺は面倒くさいのは嫌だからな」

「無駄に正義感のある君なら、なんだかんだで助けてくれるのが目に見えるさ」

「僕も頑張ってミルを助けるよ!」


 一度は敵対していた親友テメレイア。

 テメレイアの不可解な行動は全て、親友になった龍ミルを助けるためのものであった。

 久しぶりに手を組むことになった二人。

 正直言ってウェイルは、テメレイアと一緒であればどんなことでも出来ると、そういう確信が持てたのだった。



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