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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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プロ鑑定士協会本部

「うわー、近くで見ると本当に凄いね!」


 食事を終えたウェイルとフレスは、プロ鑑定士協会本部へと足を運んでいた。


「外見も凄いが中も半端じゃなく広い。正直、俺でも迷うことがある。出来る限り俺から離れるなよ」


 ウェイルは扉の前の受付に名を告げ、入場の申請を行う。それが済むと大きな扉から中へと通されたが、今度はまた別の受付があり、そこでも入場の申請を行った。


 協会本部には世界中から情報が集まる。

『この情報を売るだけで一生遊んで暮らせる』と嘘みたいだが事実の類の情報すらある。

 したがって情報の漏洩、盗難を防ぐべく、本部に入るにはいくつかの受付を回って入場の許可を得なければならない。

 ウェイルはプロ鑑定士なので受付だけで済むが、その他の者となると持ち物検査はもちろんのこと、身体検査まで行う。

 つまりウェイルにはすぐに入場許可が下りたのだが、フレスはそうはいかなかったのだ。

 いくらウェイルの弟子でもこればかりはどうしようもない。

 フレスは身体検査の為、別室へと送られ、ウェイルは検査が終るまで待っていた。

 龍だとバレないか、という懸念もあったがおそらくは大丈夫だろう。

 翼は隠してあるし、フレスが興奮する内容などないはずだ。

 そうこう考えているうち、フレスが戻ってきた。


「うぅ~」


 フレスは顔を耳まで真っ赤にして帰ってきた。目には涙さえ浮かべている。


「どうした?」

「どうしたもこうしたもないよ!!」


 何故怒っているのか当初理解できなかったものの、フレスが自分の服を指差した時点で、おおよその見当がついた。


「この翼用の穴、やっぱり恥ずかしいよ!! この穴は何だってずっと聞かれてたんだよ! 翼用って答えられないから、暑いからって答えていたの! そしたら検査官達、『なんだこの女、変態か』みたいな目でボクを見て!! 許せないよ!! ボクの体を見せてあげるのはウェイルだけなんだから!!」


 最後の言葉の意味は棚上げしておくとして、とりあえず恥ずかしかったということだろう。


「そりゃ、難儀だったな」

「難儀ってもんじゃないよ、全く!! ボク、変態じゃないもん!!」

「分かった分かった。この後お前の服も買いに行こう。それで機嫌直せよ。それに今回お前を俺の正式な弟子として協会に申請するから、次からは身体検査はなくなる」

「本当?」

「ああ、本当だ。お前は俺の弟子だろう?」

「うん!」


 ようやくフレスの機嫌が戻ったみたいだ。思えばウェイルはこれまで人の機嫌取りなどほとんどしたことがない。そんな自分が龍の機嫌を取っているなんて、面白い話だと思った。


「中へ入るぞ」


 身体検査や受付等含め三重にもなっていた分厚い扉をようやく抜けて、ついに協会本部の内部へと入場できた。


「うわぁ!!」


 フレスが驚いて声を上げる。無理もない。ウェイルとフレスが入ってきた大ホール。


 ――通称『アカシックレコード』。

 過去に存在した人の情報、技術、美術品、芸術品の情報、神話に関する情報、宗教関係の情報と、人間が行ってきた歴史の全てが記されている書物が、何百メートルもあろうかという、巨大な本棚に収納されている。


 『手に入らない情報はない』。

 そう例えられる本棚は、当然そんなわけはないのだが、あながちウソと言うわけでもない。少なくともパッと思いつく程度の疑問などはあっという間に解消してしまう情報量だ。

 天井までは吹き抜けで、尚且つジャンル別に分けてある本を取り易くする為、至る所に渡り廊下が張り巡らされている。また光を得るための天窓が数多く設けられており、その光景こそ真の芸術品だ、という鑑定士までいるくらいだ。


「広いよ、広すぎるよ、ウェイル!」


 ――バサァッ……。


 翼が出たって気にする様子もない。

 それ程までに広く高く、そして圧倒される光景だった。


「おい、フレス。翼隠せ」

「あっ、うん!」


 ウェイルですら迷う。これは決して冗談ではないのだ。


「それでどこ行くの? ボクは早く屋上に行きたいんだけど」

「待て、報告が優先だって言っただろ? ここから少し歩いたところにある部屋に行く」

「ここを歩き回るの? よくみんな疲れないね」


 フレスの言うことはもっともだ。天井までも高すぎる吹き抜けだが、通路だって並みの長さじゃない。通路の先なんて見えない程だ。とにかく遠い。


「確かに、普通に歩けばな」

「どういうこと?」

「いいか、フレス。ここはプロの鑑定士協会の、それも本部だ。ということは珍しい神器だってたくさんあるんだよ。これを見ろ」


 ウェイルは壁に立て掛けられていた、先端に水晶のような石が付いた杖を指差す。

 その杖の先からは光が伸びていて、ホールの奥へと光の道筋が出来ていた。

 その杖を一本手に取り、フレスに見せる。


「これ? キレイな水晶だね」

「違う。これは水晶じゃないんだ。重力晶石といってな、重力を曲げる力を持っているんだ。そしてその重力晶石を取り付けた杖を重力杖(グラビティック)と呼ぶ。神器の一種さ。まぁ、力を込めて握ってみな」

「こう?」


 と、フレスが杖を握った瞬間、


 ――ビュン!



「うわぁぁぁぁぁ~~~~!?」



 あっという間に姿が見えなくなり、そして、



 ――ドシーンッ!!



 と、遠すぎて先が見えない通路の奥の方から大きい音が響いてきたのだった。


「今操作法を説明しようと思っていたんだが、遅かったか」


「ひどいよウェイル!!」


「さすが龍。耳がいいな」


「うるさいよ!?」


 今度はウェイルが重力杖に力を込めると、先程のフレスのときのように廊下を高速で移動し始めた。

 そして一番奥に着く少し前に、重力杖の先端から出ている光の線を、移動してきた方へと向ける。すると徐々にスピードが緩まり、丁度フレスが倒れている目前で停止した。


「おい、フレス。大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょ!」

「さすが龍。身体も丈夫だな」

「うるさいよ!! ……って二回も言わせないでよ!!」


 フレスが涙目で手をぶんぶん回し、ウェイルをポカポカと殴る姿はなんとも微笑ましい。


「おい、痛いって。悪かった、悪かったよ。今から使い方を教えるから。どうだ? 今移動した感覚、何か感じなかったか?」

「ウェイルのバカ! 次やったら許さないからね!! ……今の感覚? どこかで経験したような……?」


 普通の人間ならこの様な感覚を経験することは少ないだろう。

 だがフレスならあるはずだ。


「――あっ! 空から落っこちる感覚にそっくりだよ!」


「まさにそれだ。この重力杖はな。重力を発生させる神器なんだよ。この杖の先端から出ている光の線の方向に重力が発生するんだ。力を込めて杖を握るとその力に比例して重力の強さが変わる。だから止まるときはこの光の線を来た方と逆に向ければいい。まあ慣れが必要だけどな」


「へぇ。じゃあもう一度やってみるよ!」


 フレスが杖を掴もうとした。


「おい、待て。目的地はここだ。だからもうそれは――」


「――うわぁぁぁぁぁ~~~~!!」


(……遅かったか)


「……はぁ」


「ため息つきたいのはボクの方なんだけど!」



 相変わらずの地獄耳である。



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