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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
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プロの世界へ

 多くの受験者が結果を求めてプロ鑑定士協会本部へ集まっていた。

 時刻は間もなく正午となる。

 試験の合否は、時間通りに現れるであろうサグマールから発表されるのだ。


「あ、ギル! リルさんも!」

「あれ? フレスも結果が気になったの?」

「ボクは別にいいって言ったのに、ウェイルが無理やりね。どうせ落ちているのにさ」

「……それは最後まで判りませんよ?」


 フフっと不敵に笑うイルアリルマ。

 その笑みの理由が判らずフレスとギルパーニャの頭上には?マークが浮かぶ。


「ボクら途中で抜けたのに?」

「何も鑑定品を提出してないのにね」

「まあもうすぐ判ると思いますよ」


 そうこうしていると、廊下からサグマールがやってきた。

 どうやら正午になったらしい。

 その手に持つ紙に、結果が記されているのだろう。

 ざわついていた玄関ホールも、シンと静寂を取り戻し、ピリッとした緊張感の漂う空気となる。



『これより、プロ鑑定士試験の合格者を発表する!!』



 サグマールの厳つい声が、周囲の緊張感をさらに張りつめさせた。



『この度の合格者は――――三名!!』



 会場がどっと浮つく。

 その数が多いのか少ないのか、フレスには判断できない。





『受験者名は――――』





 誰もが固唾を飲んで次の台詞を待つ。

 合格を祈り、期待と焦りでざわつく心を抑えるのだ。

 落ちたと確信しているフレスとギルパーニャも、この時ばかりは否応にも緊張してしまう。




『イルアリルマ=サブリク! ギルパーニャ=エルモテ、そしてフレス。この三名だ!!』




「「――――ふえ!?」」


「フフ、だから言ったでしょう? 最後まで判らないって」


 未だに名前を呼ばれたことが信じられないフレスとギルパーニャは、互いにほっぺたをつねり合うと、ようやくこれが現実だということを悟った。


「痛い!? 夢じゃない!?」

「嘘でもない!?」

「現実ですよ、お二人とも♪」

「「うえぇえええええええええ!?」」


 会場に、これ以上なく驚く二人の声が轟いた。


『名前を呼ばれた者はこちらに参れ』


 サグマールの指示で、未だ信じられない二人と、ニコニコ笑みを浮かべる一人はゆっくりとサグマールの元へ向かった。



「君ら三人がこの度の合格者だ。おめでとう」

「う、うん、ありがとうございます」

「ございます」

「ます♪」


 一人一人握手を交わしていく。

 その時、その様子を見ていた落選者から、非難の声が上がった。


「ちょっと待て、それはおかしいだろ!?」

「そうですわ! その方々は、途中棄権したのではありませんことで!?」

「そうだ! それに合格者は四人いるはずだろ!? 鑑定品は四品あったんだから!!」


 その声を皮切りに、非難の声は広がっていく。

 次第に大きくなる耳障りな抗議に、サグマールは怒鳴りをあげた。


「黙れ、この二流どもが!!」


 非難の声を一蹴するサグマールの一括。

 あまりの剣幕に皆、口が封じられた。


「おぬしら、本当にこの三人が不合格だと思っておるのか!?」

「だって、そいつらは鑑定品を選んですらいないじゃないか……!!」


 その主張に、サグマールは鼻で笑ってこう切り返した。


「笑わせる。そんなこと当たり前ではないか」

「なんだと……!?」

「ふざけんな‼」

「あの、ちょっといいですか?」


 未だに食いかかってくる受験者の前に、イルアリルマが躍り出た。


「あのですね。貴方は一体何を鑑定品として収めたのですか?」

「お、俺はアトモスの時計を提出した。あれは全ての針がアトモス規定の長さで作られていた。文字盤も精密であったし、あれが本物に違いないと確信している」

「へぇ。では隣の女の方は?」

「私はセルクの絵画です。セルクナンバーはもちろんのこと、画材や絵具に至るまで当時の物が使用されていました」

「そうですか」


 ニコニコと笑うイルアリルマは、この後何人かに聞いて回った後、こう告げた。


「それ、全部贋作ですよ? 違いますか? サグマールさん」

「ああ。今言った奴は全て贋作だな」


 サグマールは間髪入れずに肯定した。

 受験者達は思わず唖然としていた。


「な、何をいう!?」

「私の鑑定がおかしいとでもおっしゃるのですか!?」


 彼らはここまで残った者としてのプライドがあったのだろう。

 どうしても納得できないようであった。

 そんな彼らに、納得してもらうために、サグマールはやれやれと行った様子で解説を始める。


「お前らが贋作と見抜けないのも無理はない。あの倉庫にあった、一見本物のような贋作は、全て『不完全』製の贋作だからな」

「『不完全』!? あれが!?」

「よく見れば『不完全』製である証のマークが入っていたはずだ。それに年代や当時の画材どうこう言っている奴がいたが、画材など今でも手に入る。当時の安い絵画を入手して、表面を削るだけでいいのだからな。布や絵具は、最近の研究によって復元が進んでいる。似たようなものを作ることなど造作もないことだ」

「そ、そんな……!!」

「で、ですが、この御三方は鑑定品を提出していないのですよ!? 我々の鑑定がダメだったというのは理解できます。ですが鑑定すらしなかった者をどうして合格者なんかに!?」

「最後だから種明かしをしよう。あの場の正解は、何を持たずに外に出ること、だ」


 サグマールのネタばらしに、会場がざわめく。

 イルアリルマが答えてやった。


「あの場に指定された四品の本物は一つもなかったということですよ。サグマールさんは、最終試験の条件をこう仰いました。『四つの内、“本物があれば”一つを提出してもらう』って。本物があれば。なかったんですよ。あの場に本物は一つもね。本物がないのだから、提出する品も当然あるわけがないじゃないですか」


「「なっ……!?」」


 多くの受験者は、今の説明を受け絶句していた。

 まさかこんな結果であろうとは夢にも思わなかったようだ。


「彼女の言う通りだ。あの場に指定の四品は何一つ存在しない。本物は全てプロ鑑定士協会の保存庫に保管されている。それともなにか? 本物を証拠として見せろというのか? よいぞ、特別に閲覧させてやってもな」


 ついにサグマールに噛み付いてくる輩は一人もいなくなった。

 予想外の解答だったし、聞けば確かに自分の品はどこかおかしいと思う節が多かったのだろう。

 とぼとぼ引き上げる受験者に言ってやる。


「来年、また来るが良い。ここに残った連中に実力があるのは誰もが判っている。皆と共に仕事する日が来ることを楽しみにしている」


 そう最後に締め括って、プロ鑑定士試験は幕を閉じた。









 ――●○●○●○――

 







「ウェイル! ボク、合格していたよ!?」

「だから言ったろ。万が一にもってな」

「ウェイル兄! 私も合格しちゃった!!」

「はは、師匠は弟子二人をプロ鑑定士にしたわけだ。あの人の底は知れないな」


 合否発表を陰ながら見守っていたウェイルに、喜びで勢い余るフレス達が飛び掛かる。

 最後に歩いてきたのはイルアリルマ。


「ウェイルさん。これで私、ようやく『不完全』を追うスタートラインに立ちました」

「そうだな。おめでとう」

「これからは貴方の仲間として、共に協力していただけますか?」

「無論だ。奴らを追うのは俺の宿命でもある」

「約束、私は守ります。私は出来る限りサポートに回る。貴方は前線に立つ。共に奴らを倒すと」

「ああ。約束したな。守るよ」

「これから、同じ立場の同胞として、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。プロの世界へようこそ、イルアリルマ、ギルパーニャ、そして――フレス」

「うん!」

「よろしくね、ウェイル!」


 同じ目的を目指す同志として、そして同じ世界に生きるライバルとして、ゆっくりと握手を交わした。









 ――●○●○●○――

 







 ラングルポートの事件や合否発表からすでに2週間が過ぎようとしていた。

 治安局の捜査も空しく、オライオンの行き先は不明のままだ。

 しかしながら着々とソクソマハーツへ向けての進攻の準備は整えているらしい。

 自分も前線に送り込まれるかも知れないから身を隠す予定だと自慢げに語るステイリィが何とも憎らしいこと。


「最近部下の視線が冷たいんですよ。何かあったんですかねぇ?」


 堂々とついていた嘘がバレたことを彼女はまだ知らない。

 


 嵐の前の静けさとはよく言ったものだ。

 本当にこの二週間は平和そのものと言えた。

 しかし、着実に武力衝突に日は近づいてきている。

 プロ鑑定士協会も、来るべきその日に向けて、出来る限りの準備を行ってきた。


 事件は唐突に、雪の舞う夜にウェイルの部屋にて発生した。


「ウェイル、話があるんだ。いいかい?」

「……フレスか……? ちょっと今日は疲れててどうしても眠いんだ。明日にしてくれ」

「僕だ、ウェイル。起きないとキスするよ?」

「……何を言って……、――はっ!?」


 目を開けると、そこにドアップで写り込んでいたのは、妙に整った艶のある顔。


「レイア!? どうしてこんなところに!?」

「何って、僕もプロ鑑定士だからね。たまには協会に顔を出さなきゃと思って」

「お前、どの面下げてここに来てるんだ!?」

「どの面って。僕の顔は不満かな? かなり失礼だよ、それ」

「いや、そういうことじゃなくてだな……!!」


 なんとも調子の狂う奴だ。

 ふとテメレイアの右腕を見る。


「火傷は大丈夫なのか?」

「え? ああ、これか。便利だよね、龍の力ってさ」

「…………お前、まさか……」

「フレスちゃん、いる? 出来れば彼女にも聞いて欲しいかな」

「一体何を……?」

「アルカディアル教会が捕えている龍――ミルのことを――」



 アレクアテナ大陸史上、最大となる戦争の幕は、今まさに開けようとしていた。


今回で第十章は完結となります。


次章は第三部完結編『宗教戦争完結編』となります。


次章 第三部 第十一章 宗教戦争―ラルガ教会VSアルカディアル教会編『君が為に』


ご期待ください!

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