大艦隊、撃破
大艦隊の猛攻は続く。
今度はセントラルポートに続き、マーメイドポートも甚大な被害を被っていた。
マーメイドポートの象徴と言える神獣、マーメイド達は人間と共同して、マーメイド族に伝わる秘伝の神器を用いて港の守備にあたっていたが、それらのバリケードすらもドレッドノートの一撃は粉々に打ち砕いてみせた。
光の砲撃は雨の様に、ラングルポートの都市にまで届き始める。
大多数の住民は、治安局やデイルーラ社の指示の元、地下倉庫に避難することが出来た。
それでも一部住人は残っていて、彼らはその光弾の餌食となったのだ。
ラングルポート各地を焼き尽くさんとする大艦隊。
そんな大艦隊の中心から、蒼白い光が発生する。
突如ラングルポートの空に現れたのは、伝説に語り継がれる最強の神獣、龍であった。
(あれがフレスの真の姿……!!)
最後まで避難者の指示にあたっていたギルパーニャは、その姿を一目見てフレスだと確信した。
(フレス、綺麗だよ……)
その美しい姿に、目を奪われてしまう。
「君もそろそろ避難しなさい!」
「あ、はい」
プロ鑑定士に促され、地下倉庫へと移動するギルパーニャ。
(フレス、頑張って……!!)
この時ギルパーニャは、親友の姿をこう思ったそうだ。
――最高に格好いいと――
『しかし久しぶりだな。この姿に戻るのも』
「ああ、久しぶりだ。滅多なことじゃ呼ばないからな」
『フン。それはそれで少し寂しいぞ』
蒼き神龍『フレスベルグ』。
フレスベルグの背中に乗ったウェイルは、一気に空へ上昇する様に指示をした。
『都市が大変なことになってるな……!!』
「フレス、いくらお前の力でも、この軍艦を一斉に落とすのは無理だ。だからまず、都市に被害を与えぬよう、氷で結界を貼ってくれないか!?」
光線をこれ以上都市に撃たせてはならない。
その為には、氷の壁を作って守護する方が確実だ。
『うむ、では海水を使おう』
フレスベルグの背中の光輪が輝きを始める。
周囲から風は止み、空気が湿ってくるのを感じた。
『我の呼応に答えよ。荒れ狂う波を引き起こし、水晶の衣を作らん!!』
海水が、天目がけて、間欠泉の様に打ちあがり始めた。
それも一つだけではない。数えきれないほどの間欠泉だ。
間欠泉は、フレスベルグの周囲を回り始め、大きな渦となる。
渦は徐々に広がり、そして都市を守る大きな波となった。
『はぁ!!』
フレスベルグの掛け声で、時が止まる。
そう思わせるかのごとく、海水は見事に凍り付き、都市を守る巨大な壁となった。
「ナイスだ、フレス」
『当然だ。我を誰だと思っている』
「俺の弟子だろ?」
『フフ、その通りだ』
こんなやり取りも久しぶりだ。
「これでしばらくは大丈夫だろう。後はこの大艦隊を全て撃ち落とすだけだ」
『ウェイルよ。一番大きな戦艦が見えんぞ』
「オライオンのことか。何、あれの行先は判っている。というかレイアの奴、フレスが来ることを予測していたのか……?」
オライオンの姿はすでにない。
仮にあったとしても、ドレッドノートを全て落とす方が優先であるわけだから、その隙に逃げられる。
「レイアのことについても後で詳しく話そう。お前も話したいことがは山ほどあるんだろう?」
『フレスは話したくてうずうずしておるぞ』
「お前だってフレスだろう?」
『一応な。まあ良い。さっさと撃ち落とすぞ』
大艦隊の目前に躍り出たフレスベルグは、またも背中のリングに光を集中させる。
『一掃してくれる!!』
光線を撃ってきた艦隊に、お返しとばかりにフレスベルグは口から光線を撃ち放った。
光線は艦隊を一撃で薙ぎ払う。
あれほどの艦隊を、時間にしてたったの一分足らずで。
ものの見事に粉砕して除けたのだった。
――●○●○●○――
ラングルポートに布かれていた緊急事態も、その3時間後には解除された。
デイルーラ主導にて、負傷者の手当てが行われていた。
プロ鑑定士協会、並びに治安局は、事件の犯人をアルカディアル教会と断定し、捜査に踏み切ることに。
荒れ果てたガングートポートの修繕を早速行うように指示が行きわたっていた。
元の姿に戻ったフレスを連れて、ウェイルはデイルーラ本社へと戻ってきた。
「ウェイル、無事だったか……!!」
「まあな、……ってユースベクス、何泣いてるんだ!?」
「バカ野郎!! ダチが危ない目に遭ってたんだ、無事が確認できたんだから涙くらい流させろ!!」
おいおいとなく社長に、社員一同、暖かい眼差しを送っていた。
「俺はあの大艦隊が来た時、己の無力さを恨んだよ。いくらデイルーラ社のトップでも、これほどの緊急事態には何もできないということを痛感した」
「なに、デイルーラにしか出来ないこともあるだろう? 住民の避難を率先してやったそうじゃないか」
ウェイルが見回すと、社員達は皆首を縦に振っていた。
代表してイザナが前に立つ。
「社長の迅速な指示のおかげで、社員に死傷者はいません。地域住民も感謝しています」
「だが被害は出てしまった。元々暴れ回った軍艦は我が社のもの。地域住民には償いきれない罪を犯した」
「それは違うぞ、ユースベクス。罪を犯したのはアルカディアル教会でお前じゃない。あの軍艦だって、他大陸からアレクアテナを守るためのものだろう? 誰もお前を攻めやしないさ」
「そうだって、社長さん! ボクら社長さんからはたくさん大切なものを守ってもらったんだ。だから今度は恩返しをした。それだけだよ」
フレスの言う大切なものというのは、ヴェクトルビアの事。株式総会での事だろう。
「ユースベクス。お前に落ち込む暇なぞない。さっさとラングルポートを復興させろ。それがデイルーラの使命だろ」
「う、うむ。そうであるな……」
「そんな姿をヤンクに見せてみろ」
「止めてくれ。親父の拳には勝てんのだ」
そんな情けない姿を堂々と晒すところも、ユースベクスが社員から愛される所以であろうか。
「よし、イザナ! 負傷者の治療の後は、被害のあった場所を全て調査しろ。今回の事件で被害に遭い途方にくれているものは全てデイルーラで雇ってしまえ。こき使ってさっさと元の生活に戻させるようにするぞ」
「了解しました、社長! それでは三つの港に調査団を送りましょう! しばらく昼寝する時間はありませんよ?」
「ふん。眠気などとうに吹っ飛んでおるわ」
やる気に満ち満ちるデイルーラ一同だ。
ラングルポートの復興はすぐに終わる事だろう。
「そうだ、俺の弟子がイザナから手帳を借りたんだ」
イザナの手帳をユースベクスに手渡す。
「そういえば俺も中を見たことは――――!?」
ページをめくるたびに、ユースベクスの顔が固まる。
「イザナ?」
「はい、何か?」
「この社長観察日記というのは何かね?」
「ああ、それですか。文字通り、社長の観察日記です。社長ったら毎日色々とやることがおかしくて。お昼寝一つにしても寝相が違ったりするんですよ」
「これをまさか毎日つけてるのか……?」
「ええ。毎日つけて、定期的に社内新聞で公表しておりますが?」
「今すぐに廃刊だ!! そんな新聞は!!」
「社員からの受けはいいのですけどねぇ」
こんな社長と秘書の漫才も、デイルーラ社の名物と言えよう。