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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
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最後の砦

「なんだあの艦隊は!?」


 ラングルポートの空に、大艦隊が現れたのだ。

 その想像を絶する光景に、人々は皆、我が目を疑った。


「社長、あれは……!!」

「我が社の軍艦に違いない……!!」


 その光景はデイルーラ本社からもよく見える。

 中央にそびえる超弩級戦艦『オライオン』を中心した総勢13隻の大艦隊が、ラングルポート都市部へ向けて進攻してきたのだ。


「イザナ! 緊急指令を出せ! 社員全員を本社へ! 治安局にも連絡を! ラングルポートの住民の避難にデイルーラの地下倉庫の使用を許可すると伝えろ!」

「了解しました!」

「……どうか無事でいろよ、ウェイル……!!」


 みるみる姿が大きくなるその艦隊を前に、そう祈らざるを得ないユースベクスだった。








 ――●○●○●○――







「リルさん、あれを見てよ!」


 ギルパーニャが艦隊を指さした。

 その顔は青ざめていたに違いない。


「あの、私見えないんですけど」

「そうだった!」

「何が起きているんです? 周りの人の話だと、空に船が浮かんでいるとか」


 類稀なる聴覚で、周囲の噂話から状況だけは伝わってくる。

 だが、この壮観な光景は、イルアリルマの脳内で再生するには想像力が足りないほど凄まじいものだ。

 故にギルパーニャの焦りはイルアリルマには伝わりづらかったのだ。


「そうなんだよ! 軍艦が空に一杯!」

「……これは神器暴走の一事件なんですかね……」


 周囲をさらに深く窺うと、プロ鑑定士協会の人達が大いに慌て騒いでいる。

 状況の異変を察してか、受験者達にも動揺が広がった。

 神器暴走事件については各受験者達も知っていることなのだろう。

 先程サスデルセルで事件があったばかりで、その被害は甚大だと聞く。

 もしこれがアルカディアル教会の手によるものならば、このラングルポートもサスデルセルの二の舞に、いや、武力面でみれば圧倒的にこちらの方が上なのだから、被害はサスデルセルを上回る可能性が高い。


「プロは神器を持て! あれは治安局やデイルーラの軍艦だ。あれに搭載されている大砲はかなりの威力を持つ。防御系術式の神器をデイルーラから借り受けて住民の被害を最小限にするのだ!」


 サグマールの的確な指示により、プロ鑑定士達はそれぞれ行動を開始した。

 軍艦の大艦隊だ。

 他大陸相手を相手にするために作られた巨大軍事兵器である。

 当然、軍艦に積み込まれた大砲や神器は、人を殺傷するに足る威力を持ち合わせている。

 アルカディアル教会は何をしてくるのか想像もつかない。

 大砲や神器を使って、ラングルポートを火の海にするつもりなどだと、それこそ火を見るより明らかだ。

 艦隊は上空にある。故にこちらから積極的に攻撃をすることは難しい。

 ならば防御に徹するしかないのである。


「サグマールさん、デイルーラからのお達しです。軍艦は破壊してくれて構わないと、被害は最小限に務める努力を双方していこうということです」

「言われんでもぶっ壊してやる。だがその方法がない」

「治安局からも連絡が来ております。ここガングートポートにある軍艦の内、乗っ取られたのは12隻。残りの軍艦にて、対空砲の準備が進められるよう指示が回ったそうです」

「……そうか」


 しかしサグマールはその報告をそれほどあてにはしていなかった。

 上空からの砲撃と、地上からの砲撃。

 どちらが有利かと問われれば、その答えはあまりにも明白であるからだ。

 このラングルポートであの艦隊に唯一対抗できそうな武力。

 それはもう、この都市に今いるであろう一人の鑑定士と、一人の少女、それしかないとさえ考えていた。


(我々はもう、ウェイルやフレスに全てを託すべきなのかもしれない)


 フレスが龍であること。それこそが悔しいことではあるがプロ鑑定士協会最後の砦であるかも知れない。




『                             』




「なに? この歌」

「綺麗な歌声ですね」


 唐突に、どこからともなく美しい歌が響いてくる。

 心にスッと入ってくるように、澄んだ綺麗な歌声だった。

 誰もがその歌に聞き惚れる中、サグマールだけは冷や汗の止まらないほど恐怖心を覚えていた。

 次の瞬間、大艦隊が輝き始める。


「あれは!?」

「!? ギルさん、皆さん、伏せて!!」


 危険性を感じ取ったイルアリルマが大声を上げる。


「ギルさん、早く!!」

「え!? ……うわぁあああああ!?」


 集約された光は、怒涛の光線となりて、ガングートポートの都市を襲った。

 察覚に長けたイルアリルマの咄嗟の指示にて、どうにか吹き飛ばされずに済んだ。


「なんなの、今の!?」

「強大な力が飛んでくるのを感じたんです! 状況は私にはどうにも!」


 見ると港の方から黒い煙が上がっているのが判った。


「セントラルポートが撃たれたらしいぞ!!」

「すげぇ煙だ、セントラルポートは無事なのか!?」

「ひどい、なんなの、これ……!!」

「今のって後ろの軍艦から発射された奴だろ……!! あんな力を持つものが、12隻あるとか……」


 人々はその威力を目の当たりにし、混乱し収拾がつかなくなる。


「慌てるな! 皆、落ち着いて避難しろ! デイルーラの地下倉庫だ!」


 慌て怯える受験者に活を入れるサグマール。

 しかし本人も内心混乱の極みにあった。


(ナムル殿の話によれば、あれはアルカディアル教会の犯行に間違いない。だとすれば、この後は……!!)


 だんだんと都市部へ近づく大艦隊に、恐怖せざるを得なかった。






 



 ――●○●○●○――








(急がないと……!!)


 しかしどう焦ったところで、ウェイルの行き先は海の上だ。

 海から這い上がり、この空中艦隊まで、どうやって来たものか。


(……そんなことよりまず助かるかどうかも分からんな……!!)


 この高さから海に叩きつけられるのだ。

 その衝撃は計り知れない。

 ウェイルが衝撃に備えて身を丸めようとした、その時だった。


「ウェイルーーーーー!!!!」


 酷く懐かしく思えたその声に、とても安心感を覚えた。


「フレス!?」


 6枚の翼を広げたフレスが、ウェイルを助けるために飛んできていたのだ。


「手を伸ばして!!」

「ああ!」


 海に落ちる間一髪。

 ウェイルはフレスの手を掴み、空へと舞い戻った。


「フレス、どうしてここに!?」

「ウェイルを助けに来た! 後色々と伝えないといけないことも!」

「試験はどうしたんだ!?」

「ヘヘン、試験と師匠の命、どっちに価値があるかなんて鑑定士じゃなくても判るよ!」

「フレス……!!」

「ごめんね、本当はもう少し早く会いたかったんだけど、道に迷っちゃって。でもカッコいい女の人から借りた手帳のおかげでなんとかここに辿り着けたよ」


 空いた片手に手帳を借り受ける。


「……イザナか。あいつ、本当に良い秘書だな……!!」


 ちらっと見ただけでイザナのものだとすぐに判る。

 何せ手帳には、スヤスヤと社長室で昼寝をかますユースベクスの似顔絵が描かれていたのだから。


「フレス。言わなければならないことがある。この事件の操っているのはテメレイアだ」

「……レイアさんが」

「あいつが歌を詠み、軍艦に魔力が満ちる前に奴を止め――」


 その瞬間、光が集約し、大砲からは怒涛の光線がセントラルポートへ発射された。


「レイアの奴、早すぎるぞ……!!」


 こうなればもう、レイアを止めても意味を為さないことになる。


「ウェイル、もうこの艦隊を全部ぶっ潰した方が早いよ!」

「ああ、それしかないようだ」


 12隻のドレッドノートクラスの軍艦から、次々と発射される魔力の光線。

 それらを全て止めないことには、ラングルポートは火の海になる。


「オライオンは後回しだ。とにかく先に攻撃を止めさせる」

「ウェイル、ボクを元の姿に戻して!」

「いくぞ、フレス!」


 いつ以来だろうか、二人は空の上で唇を交わしたのだった。








 ――●○●○●○――







「うまく行きましたな」


 オライオン上でほくそ笑むのはリューズレイドであった。


「後はオライオンを持っていくだけですか」


 顎を手で触りながら、煙の上がる都市を見てそう呟いていた。


「だね。僕等にとってオライオン以外は別にどうでもいい。どの道、船員は誰一人乗っていないんだろう?」

「はい。ドレッドノートは全てレイア殿の歌で制御できるということなので。皆オライオンに乗船しておりますぞ」

「よし、なら引き上げよう。引き続き囮のドレッドノートには攻撃をさせる。怖い存在もいることだし、ささっと引き上げよう」


 テメレイアの歌が、空に響き渡る。

 シルヴァンの『天候風律』を操ったときと同じように、似たような神器を使って雲を作り、隠れるようにラングルポートを去った。




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