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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
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試験放棄

 地響きは、プロ鑑定士試験の会場である倉庫まで轟いた。


「う、うわあ!?」

「きゃん!」


 振動の影響で落ちてくる品を避ける。


「リルさん!!」


 目の見えないイルアリルマに落ちてくる品は、全てフレスが弾き飛ばした。


「大丈夫!?」

「はい、平気です。フレスさん、ギルさんも無事ですか?」

「うん、私は大丈夫」


 リグラスラム出身のギルパーニャは危険察知に優れている。

 妙に可愛い悲鳴を上げつつ、安全確保に努めていた。

 緊急事態のアナウンスが流れて、20分程度。

 後10分でプロ鑑定士試験が終了するときの出来事だった。

 今の地震を受けて、試験管達がざわめき始める。

 倉庫入り口付近で、外部の状況が口頭にて伝えられていた。

 遠目に見るフレス達だったが、そこでイルアリルマが言う。


「どうやらまずいことになったみたいですね……」

「リルさん、あの話している内容、聞こえてるの?」

「ええ。私は地獄耳ですからね」


 イルアリルマ自慢の聴覚は、試験管らが受験者達に動揺を与えぬように隠そうとしている内容すらも、バッチリと聞き取っていた。


「ねぇ、何があったの!?」

「何でもラングルポートの港の一つ、『ガングートポート』にて爆発事件が発生したそうですよ。しかもアルカディアル教会の信者らが侵入して暴動を起こしているとかで」

「治安局管轄でしょ? あそこ」

「その治安局も、信者達の持つ神器によってやられちゃったらしくて……」

「大事件じゃない!?」


 どうしよう、師匠、無事かなぁ……、と呟いてしまうほど、不安に駆られるギルパーニャ。

 フレスも同じように思っていた。

 何せこの都市にはウェイルもいるのだから。


「それとサスデルセルでの暴動事件、何か変なことがあったそうですよ」

「変なこと……?」


「はい。何でも信者達を率いていたのは、小さな女の子だったとかで。目的者の話だと光り輝く緑色の翼を持ってたとか」


「――――!?」


 ぞわりと胸が気持ち悪くなる。

 フレスの嫌な予感は、的中した形となった。


「ふ、フレス、大丈夫!?」


 突如顔を真っ青にしたフレスに、ギルパーニャは心配になって顔を覗き込んだ。


「み、ミルだ……、やっぱり龍姫って、ミルのことだったんだ……!!」

「……ミルって誰?」


「クッ――」


 その質問を無視して、フレスは走り出す。

 ミル、ミルだけはまずい。

 彼女の力、それは人間を滅ぼす可能性のある力。

 そしてミルは人間に恨みすらある。


(ミルを止めないと……!! ウェイルと、そしてサラーにも連絡しないと)


 倉庫を出ようとするフレスを、試験管が制止させる。


「どいてよ、邪魔だよ!」

「君、鑑定品は用意できたのかね?」

「まだないよ! それどころじゃなくて……!!」

「だが、何も持たずに出るという意味は判っているのだろうな?」

「試験を放棄することになってもいいのか?」

「……くっ……」


 試験の放棄。

 それすなわち不合格。

 この時の為に、辛い勉強も難しい試験も、ギルパーニャやイルアリルマと共に乗り越えてきた。


『一緒に合格しようね!』


 そう三人で誓った約束。

 それをこんな形で破らなくてはいけないのだろうか。


「うう……、それでも、それでも……!!」


 狼狽えるフレスの背中を、二つの暖かみが包んでくれた。


「ギル!? リルさん!?」


 そう、その手の主は、ギルパーニャとイルアリルマ。


「ねぇ、フレス。フレスが何を思って飛び出そうか判らなかったけど、私、フレスのその行動は正しいと思う」

「私もそう思いますよ。何か大切なことがあったんでしょう?」

「……うん。とても大事で、大変なことかあったんだ」

「なら行きましょう。私達も付き合います」

「フレスと一緒なら私もいいよ!」

「……え!? どうして!? 二人とも不合格になっちゃうよ!?」

「別にいいってば。私とフレスの仲でしょ? 来年一緒にもう一回受ければいいよ」

「そうです。水臭いじゃないですか」

「だってリルさん、『不完全』の調査を早くしたいって」

「それは師匠であるウェイルさんに責任を取ってもらうから平気ですよ。彼に近くにいれば嫌でも情報は入ってくるでしょう?」

「ギルだって、プロになりたいって!」

「私達だけでなるってのもなんだかなーって。ここまで来れたのもフレスのおかげなんだ。だから私、フレスと一緒に合格したい。ね? 来年一緒に頑張ろうよ!」

「二人とも……」


 どうしよう、涙が止まらないよ。

 ギルもリルさんも、叶えたい夢があって試験に臨んでいる。

 それをある意味自分の我が儘で不合格の烙印を押してしまう。

 それだけはどうしても嫌だったけど。

 でも、嬉しかったんだ。


「どうした?」

「さ、サグマールさん」


 倉庫入り口の騒ぎを聞きつけてサグマールがやってきた。

 試験管から事情を聞いたサグマールは、フレスと目線を合わせるために屈んでくる。


「フレス。どうしてもいくか?」

「……うん。今の事態、止められるのはボクだけだと思う。色々と調べたいことや連絡を取りたいところもあるんだ」

「試験を捨ててもか」


 先程から度重なるその質問に、ついにフレスの感情が爆発した。


「人の命が掛かってるんだ! 試験なんてクソ喰らえだよ!!」


 言い切るとすっきりしたが、恥ずかしさもある。

 それを知ってか、サグマールは「そうか」の一言だけで体勢を元に戻した。


「後ろの二人はどうする? このまま何の鑑定品も選ばずに外に出るか? それとも残り時間で鑑定品を探して合格を目指すか?」


 その質問に二人は間をおかず答えた。


「外に出ます!」

「私も、右に同じです」

「そうか。そこまでの覚悟があるか」


 サグマールを腕時計で時間を確認する。


「ふん。どうせほとんど時間は残ってない。中に残っても結果は変わらんだろう。好きにするが良い」


 そう言って試験管に道を開けさせた。


「急がなきゃ……!!」


 フレスはすぐに走り出す。

 倉庫から出ることに、何の躊躇もなかった。

 走り去ったフレスの後、残された二人も倉庫から出た。


「あーあ、これで試験も終わっちゃったね。ま、残り時間で品を見つけるなんて難しいし、これはこれですっきりしたかな」

「フフフ、そうですね。でもギルさん。案外私達、運がいいかも知れませんよ?」

「……え?」

「詳しい話は後でしましょう。今はとにかく、事件の詳細を調べませんとね」


 三人のプロ鑑定士試験は思いもしない形で幕を閉じるのだった。


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