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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
252/500

楽しい時間

 そして甲板には、願ってもいない人物がそこにいたのだ。


「やあ、ウェイル。久しぶりだね。と言ってもそんなに時間は経ってないけどさ」

「レイア……!!」


 優雅に、そして気品ある笑みを浮かべ、甲板に立っていたのは、ウェイルに警告を送ってきたテメレイア張本人であった。


「ここで何をしている!?」

「何、か。自分で推理しなよ。鑑定士なんだからさ。もっとも、おおよその見当は付いているんだろう?」


 見下すような口調に、内心腹立たしかったが、それ以上に違和感が強かった。


「レイア。お前、これから何をする気だ?」

「言っただろう? 自分で推理しろって」

「そういう意味じゃない。俺が尋ねているのは最終目的のことだ。本当のな」

「……本当の? さてね」

「話す気は当然あるわけないか」

「……時が来れば伝えるさ」


 これだけの返答で十分だった。

 テメレイアのことを、ウェイルは今でも信用しているわけだから。

 奴には奴の目的がある。

 テメレイアのことだ。例え親友であろうとも、危険なことであれば何があっても話さないだろう。


「質問を変えようか。イエスかノーで答えるだけでいい。嫌なら答えなくても構わない」


 だからこそウェイルは短い問答だけをすることにした。


「イエス♪」


 ありがたいとばかりに笑顔で返すテメレイア。


「アルカディアル教会はすでにここにいるのか?」

「……イエス」


 その顔は驚いている風にも見えたし、「やっぱりばれてるかぁ」という苦笑いにも見えた。


「すでにガングートポートには侵入しているのか?」

「イエス」

「目的は神器か?」

「イエス」

「『アテナ』の使い心地はいいか?」

「…………ノー」


 最後の質問だけは、テメレイアの瞳に影が差したように見えた。


「判った。もういい」


 ここまで聞けば、アルカディアル教会の目的も簡単に推理できるというもの。


「本当に『三種の神器』ってのは存在したんだな……」


 まずそのことに驚き、そのうちの一つが敵の手中にあることが何よりも恐ろしい。

 ある程度状況は推測できたし、急いでユースベクスや治安局と連絡を取った方がいい。

 そう思い電信を打ちに行こうとするウェイルを、テメレイアが止めた。


「ウェイル。僕はね。アレクアテナ最高の鑑定士は君だと思っているんだ」

「……どうしたよ、唐突に」

「僕なんか、君と比べたら月とすっぽんさ。それほど君の器は大きい」

「……何が言いたいんだ?」

「簡単な話さ。優秀な君をここで止めておかないと、これからの計画に支障が出る。そう言いたいのさ」


 テメレイアは本を広げると、本は輝き始め、楽譜が浮かぶ。


「君の相棒の龍、フレスちゃんがいない今しか、君を止めることは出来ない」

「どうしてフレスが龍だと知っている!?」


 テメレイアはフレスが龍だと知っていた。

 フレスはテメレイアの自分が龍だと打ち明けたのか。

 いや、それはおそらくない。

 とすれば、フレスの力を目の当たりにしての推理か。

 しかし、そう推理するためには、龍と言う存在を認識していないと出来ない。

 すなわち、テメレイアは元々龍の存在を知っていたことになる。


「龍の力は厄介だ。君のことだ、龍の真の力を引き出す方法も知っているんだろう?」


 つまり少女の姿ではなく、本来の姿の話。


「フレスちゃんがいたら僕に勝ち目はない。だからこそ、プロ鑑定士試験の日を狙った」

「……そこまで計算済みか。つくづく敵に回すと厄介な奴だ」

「褒め言葉としていただくとするよ」


 テメレイアは開いた手をポケットに突っ込むと、中から輝くガラスの玉をいくつか取り出した。


「これ、知ってるよね?」

「魔力を含んだガラス玉だな。ガングートポートの軍艦を動かす燃料だったか」

「そうそう。これをいくらか拝借してね。こういう使い方が出来るんだ」


 手に持ったガラス玉を全て、テメレイアは天井目がけて放り投げた。



『                             』



 そしてすぐにテメレイアは歌いだす。

 歌が始まると同時に、投げられたガラス玉は強烈に輝き、そして。




 ――ズドガァァァアアアアンン……!!




 大爆発を引き起こした。

 爆発の衝撃で天井の一部が崩れ落ちる。

 大きな破片は全て船外に落ち、命の危機にさらされることはなかったが、ぽっかりと空いた天井の穴を見て、その威力を思い知らされた。


「……えげつないぞ……!!」

「だよね。これが三種の神器の一つ『アテナ』の力なのさ」


 おそらくはガラス玉内の魔力を暴走させて大爆発を引き起こさせたのだろう。

 なるほど、『アテナ』の力はやはり魔力制御であった。

 これを用いれば『ソラリス・モノリス』の不可解な破壊も可能に違いない。


「ウェイル。僕は君を止めたいと言った。君は今の力を見て、静かにしていてくれるのかな?」


 突き付けられた酷く純粋な脅迫。

 今の力に敵う方法などウェイルは持ち合わせていない。


「君には忠告したよね。ここへ来るなと」

「悪いね。それ、さっき見たんだ」

「電信の悪いところだね。一度プロ鑑定士協会に送っているのだから、そうなるのも無理はないかな」


 改めてポケットからガラス玉を取り出してくる。


「計画の進行まで、そこで待っててくれないか? もちろん、武器や神器を出すのは御法度。久しぶりの再会なんだ。会話でも楽しまないかい?」

「……そうだな。どうせ何もできないなら、そう洒落込んでやるよ」

「良い返事。だからウェイルはいいね」


 テメレイアの目的は時間を稼ぐことだろう。

 しかしこれはウェイルにとってもありがたいことだ。

 確かにウェイルには、あの圧倒的な威力を持つテメレイアを倒すことは出来ない。

 だが、この爆発を治安局やデイルーラ社が聞きつけたら。

 そしてあわよくばフレスが、駆けつけてくれたら。


「俺は別に何もしない。座って話すとしようか」

「だね。僕もこんなガラス玉はしまっておくよ。本は出させてもらうけどね」


 互いに座り、ある程度距離はあるが、向かい合う。

 それから二人は、本当にいつものペースで会話に興じ始めた。


 思い出話や経験談。


 そして一部インペリアル手稿についても。

 二人がシルヴァンで出会ったのも、7、8年振りとかなのだ。


 まるで共有できなかった時間の分も埋め合わせるかのように。


 とても短い時間ではあったが、笑いの飛び交う楽しい時間を過ごしたのだった。



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