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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
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重き責任、誰が為に

 夜も更け、宴会改め報告会も切り上げたウェイルは、ユースベクスが用意してくれた宿の一室にてため息をついていた。

ベッドに横になって、最近の出来事を思い返してみる。


(神器に宗教か)


 そして思うのは、やはりテメレイアのこと。


(あいつはどうして本を盗むなんて荒業をしたんだ)


 しかも盗み出したのはただの本じゃない。

 大陸最高峰の機密保管場所、シルヴァニア・ライブラリーの、第一種閲覧規制書物なのだ。

 レイアのことだ。本の情報が欲しいのであれば、全てを暗記すればよい。

 内容を他人に伝えたいなら、内容をそっくりそのまま紙に書き写してやればよい。

 あえてそうしなかったのには、当然理由があるはず。


(本自体が必要、とそう言っていたな)


 例えば本自体が神器であるとか、実は何かの鍵になっているとか。

 内容よりも本そのものにしか出来ないことがあると考えるのが妥当なところ。


「インペリアル手稿、か」


 インペリアル手稿の解読法をテメレイアの手紙より知ったウェイルは、すぐさま解読に取り掛かった。

 そして見えてきた内容、それは。


「まさか『三種の神器』の存在場所が書かれていたとはな……」


 インペリアル手稿に書かれていた真実、それは伝説の神器として名高い『三種の神器』についての存在場所の情報であった。

 著者のインペリアルがどのような手段を用いて三種の神器の存在を知り、暗号として記したかは歴史の謎であるが、これによって三種の神器の存在が現実味を帯びてきた。

 元々伝説上の存在だと考えられていたし、ウェイルですら実在を疑っていた代物だ。

 フレスというイレギュラーな存在と出会ったからこそ、最近では並大抵のことでは驚かなかったが、さすがにこれには驚かざるを得ない。


「しかもレイアが関わっているんだからな……」


 テメレイアは基本的に無駄な行動はしない。

 全ての行動に意味があり、利がついてくる。

 それが判っているからこそ、ウェイルは懸念したわけだ。

 実はインペリアル手稿の解読と、テメレイアのヒントにより、なんとなくだが陰謀の匂いを嗅ぎ取っていた。


「レイアのヒントは間違いなく宗教争いのことを言っているはずだ」


 ひとまず整理してみよう。

 まず彼女のヒントは金の値段についてであった。

 そもそも金は、鉱山都市アルクエティアマインとその隣接する都市、医療都市ソクソマハーツの動向によって値段が左右されることが多い。

 この二つの都市から採掘できる金の量が、他都市を圧倒しているからだ。

 すなわち『金』という単語が出てくる時点で、この両都市が関係していることが判るし、『値段』という単語から、数字が上下するきっかけが起きると示唆しているわけだ。


「金の値段が変わるとすれば、宗教争いしかない」


 アルクエティアマイン以外から広大な鉱脈が発見されたとなれば話は変わるが、そんな報告は誰からも受けていないし、実際になかったりする。

 ソクソマハーツとアルクエティアマインは、それぞれラルガ教会、アルカディアル教会の本部を構えており、両者の仲は非常に悪いため、小さな争いが絶えないと聞く。

 もう宗教争い以外に金の値段が変わる条件など存在しないことに他ならない。


「そしてインペリアル手稿のことだろ。全てが噛み合ってるじゃないか」


 インペリアル手稿の書かれていた三種の神器。

 そのどれもこれも人の手に余る代物で、具体的な使用法や、実際の効果などは書かれていなかったものの、名称と概要だけは書かれてあった。


 一つは『異次元反響砲フェルタクス』

 描かれた簡単なイラストから察するに、巨大な大砲のような神器だ。大砲というからには用途は当然武器であるだろうか。


 一つは『心破剣ケルキューレ』

 聖剣の伝説というのはどこに行ってもあったりするが、この名前に聞き覚えはなかった。

 先程の大砲のように巨大なのか、それとも人が持てるのか。

 それすらも分からぬ、謎多き剣である。


 一つは『聖母楽器アテナ』。

 複数のパーツからなるその楽器系神器は、芸術の神『アテナ』の姿を模した巨大な彫像で、すべての神器の母なる存在で、その力を用いればいかなる神器をも操ることが出来るのだという。


 テメレイアが敢えて解読法を残したのだ。

 つまりこれらの神器のうちのどれかが、テメレイアの突っ込んでいる陰謀に関係があるということだ。


「どれも暴走すれば不味いことになりそうな神器だったよな……」


 神器の暴走が止まらぬ現状は、三種の神器の存在を考えれば非常事態なのかも知れない。


「『フェルタクス』、『ケルキューレ』、そして『アテナ』か」


 三種の神器の能力の全ては未知数だが、神器暴走事件と関わっているのであれば、これしかない。


「……『アテナ』、か」


 芸術の神『アテナ』の名を持つ神器。否応にも気にはなる。


「……ホント、あいつは今、何をしてるんだろうな……」


 ふと親友の顔を思い浮かべる度に、心配せずにはいられないウェイルであった。











 ――●○●○●○――









「気が進まないね」


 つい独り言がぽつりと漏れる。

 もう深夜だというのに、活気盛んな港都市、ラングルポート。

 人々の宴会の音、漁に向かう音、恋人との愛を確かめ合う音。

 この都市には、一日中音が飛び交っている。

 テメレイアは一度目を閉じて、その音を体に染み込ませるように深呼吸した。


「僕には僕の使命がある。躊躇している場合じゃないか」


 左手に持った本を胸に抱えると、テメレイアは窓を閉めてベッドに横たわった。


「これも全部ミルの為だ。でなきゃウェイルと互い違いになるなんて以ての外だよ」


 目を閉じると浮かぶウェイルの顔。

 正直シルヴァンで彼と別れることになったときは、胸が張り裂けそうな思いだった。

 彼のあの複雑そうな顔を思い浮かべるたびに、目に涙が浮かぶし、後悔の念に駆られる。

 ミルの為に、とそう自分に言い聞かせなければ、とてもこの任務に耐えれそうにない。

 全てを投げ出して、己の持てる全ての力を用いて、ウェイルを拘束してしまいそうだ。


「苦しいよ、ウェイル……」


 久々に漏らした弱音に、答えてくれる者などいない。

 手に持った本を抱きしめて、刻々と運命の時を待った。

 私の出番はもう少し後。

 先に行動を始めた彼らからの報告を待つだけだ。



 宿の一階から騒がしい音が二階へと上がってくる。

 その音でテメレイアは全てを悟った。

 決行の時は近いと。

 目の涙を吹き、騒々しい訪問者を迎える。

 部屋を訪れたのは、レイアの部下、テルワナだった。


「レイア様。サスデルセルでの準備が終わりました。後は時を待つだけです」

「そうかい。了解したよ」

「……しかしレイア様。本当によろしいのですか?」

「……仕方ない。これも僕の任務のうち、そしてミルの為。……というのは余りにも酷い論理だね。全て任務のためと責任を放棄している気がするよ」

「レイア様。私は正直、これより他に良い手段があったと思います。ましてウェイル様にまであのようなことをすることは……」


 テルワナとて、バカじゃない。

 テメレイアがどれほど悩んでこの任務を遂行しているか十分承知だ。

 それでも、もう少し楽な道はあったのではないか。

 一重に主であるテメレイアを心配しての、余計なお世話だと分かりつつのセリフだった。

 当然、テメレイアもテルワナの気持ちはありがたい。

 だからこそ、こう切り返した。


「僕はね。責任ってのは重いほどいいと思っているのさ。責任を取るってことは痛い目をみることだ。人の物を壊したら、それ以上の価値のある物を買って返す。それが責任を取るということさ。だから、今の状況は、ある意味僕にとっては責任を取っている時間なんじゃないかなと思っている」

「レイア様……」


 テメレイアの覚悟。

 主がここまで腹を括っているのだ。

 テルワナはもう何も言わなかった。

 ただ、テメレイアに最後までついていくだけ。


「レイア様。本番はこれからです。大事なお体です。もうお休みください」

「ありがとう。休ませてもらうよ」

「アルカディアル教会ではこう言うのでしたね。――全ては龍姫様のために」

「……ああ、龍姫様のために」


 テルワナが深々と頭を下げて去ると、閉じた扉にもたれ掛かって、手元の本を見た。


「龍姫様のために、だって。ミルはそんな酷いことを出来る子じゃないのにね」


 解放された場所が悪かった。 

 ただそれだけで、ミルは現代でも酷い扱いを受けている。

 ミルは苦しんではいない。むしろ何でも与えられる生活を送っている。

 しかしそれはただ飼われているだけに過ぎない。

 結局のところ、ミルは籠の中の鳥だ。


「ミルを自由にしてあげたい。ただそれだけなんだけどな……」


 ウェイルのことにミルのこと。

 どちらも譲れぬ、厄介な葛藤。

 そんな葛藤の中、ウェイルとミルが脳裏を過った後、唐突に浮かぶ一人の少女。


「もしかして、フレスちゃんって……!!」



 その考えに至った瞬間、答えにたどり着けたような気がした。

 脳裏には、出会ってからのフレスの行動が綿密に映し出される。


「そうか。だとすれば全て説明がつく」


 テメレイアは一つ、フレスに嘘をついていた。

 私は龍を見たことがないと。

 ミルの存在を隠さねばならない立場であった故、仕方のない嘘であり、その嘘をつくという申し訳なさから、つい見落としてしまっていたらしい。

 彼女が龍であるという可能性について、たった今まで考えもしなかったのだから。

 フレスが上空にて暴風に吹き飛ばされても無事でいて、そして複数人に囲まれても余裕を見せるウェイルの表情。


「なんだ、ウェイルも僕と同じ嘘をついていたのか」


 こんなところでも気が合うとは、本当に僕等は相性が良い。

 妙な謎が突然解けて、変にすっきりしたテメレイアは、これからの行動の算段を整えつつ、全てが万事うまくいくように祈って、部屋を出た。

 寝てしまう前に電信を打ってしまいたかったのだ。


 宛先は――プロ鑑定士協会。



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