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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
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超弩級戦艦『オライオン』

 ――ガングートポート 0番ドッグ――


「こりゃたまげたな」


 ガングートポートに存在するドッグは全部で十三カ所ある。

 数字が小さいほど大規模なドッグで、最も大規模と言われる1番ドッグに至っては、内部に巨大な船舶が三隻はゆうに入る。

 しかしウェイル達がやってきたのは、その1番ドッグではない。


「噂には聞いていたが、0番ドッグってのは凄いな」

「0番ドッグの存在は、一応企業秘密になっているからな。公には存在しないドッグとなっている。もっともラングルポートに住んでるやつは大半が知っているがな」

「ほとんどがデイルーラ社の社員か、傘下の会社員だもんな。暗黙の了解って奴か」


 ここ0番ドッグは公にしていないドッグである。

 傍から見ればただの巨大な倉庫だ。

 しかし実際はなんと1番ドッグ以上の規模を誇る屋内ドッグである。

 一般公開していない他大陸の技術や情報は、全てここで纏められ、実際の運用もここを中心としている程だ。

 一般公開していないのは、単に機密情報流出への対策に他ならない。

 デイルーラにとって、ここの技術は膨大の利益を生み出すのである。手放しに他人に紹介などするわけもない。


「いいのか? 俺をこんな機密だらけのところへ連れてきて」

「お前ならいいさ。どうせ商売する気もないんだろうし。何より商売敵であるリベアが潰れたんだ。情報流出は怖いが、奴らがいない以上、前ほど厳重にする必要もない」

「その考えは甘くないか? 俺は逆に警戒を強めないとだめだと思うが。ヴェクトルビアの二の舞になる可能性だってあるぞ?」

「株価を落とされる可能性もあるな。うむ。だがそんなことをアドバイスしてくれるお前が、流出させるような下劣な人間だとは思わん。どうせ変なことはしないだろう?」

「するわけないな」

「ならいいじゃねえか」


 ユースベクスは、その強面の顔をニカっと相好を崩して、ウェイルの肩を叩いて奥へ進んでいった。


「さっさと来い。それにさっきの神器を鑑定してもらうという話。あれはとっさについた嘘でもなんでもなく、事実だ。少々見てもらいたいものがある」

「鑑定依頼に入ってるんだな?」

「そういうことだ」

「そうか。なら仕方ない」


 ウェイルは実に不器用な男である。

 自分の行動に正当な理由があれば、安心してユースベクスの後についていける。

 ユースベクスはウェイルのそんな不器用な点を十分に理解してくれている。

 甘えているわけではないが、ありがたいとウェイルは思う。

 ウェイルはユースベクスの後を追うと、今度は逆に肩を叩いた。


「鑑定料は弾んでもらうぞ」

「ふん。俺はデイルーラの社長だぞ? 金なら腐るほどあるわ」

「社員が今のセリフを聞いたら賃金を上げろとストライキしそうだ」

「そいつは面白いな。我が秘書の慌てふためく姿を拝めそうだ」



 今度は互いに相好を崩すと、ユースベクスの案内で例のブツとやらがあるポートへと足を運んだ。










 ――●○●○●○――









「これだ」

「なっ――!?」


 いつ振りだろう。

 思えばあの時、そう、フレスが封印されていた絵画を初めて見た時の話だ。

 あの時と同じくらいのショックを受け、ウェイルはしばらく絶句した。


「これがその例のブツって奴か……!?」

「そうだ。ブツだ」


 ウェイルの視界に広がるのは、超巨大な軍艦が目の前に迫った光景。

 普通の船舶の何倍ほどの大きさがあるだろうか。

 そんなことを考えるのがバカバカしくなるほどの、巨大な軍艦であった。


「こいつが我々デイルーラ社の誇る超近代兵器、ドレッドノートクラスの上を行くスーパードレッドノートクラス、名を『オライオン』という」

「『オライオン』……。ドレッドノートクラスよりも上の軍艦か……!」

「こいつの凄いところはな――」


 ユースベクスはべらべらと説明を続けていたが、その内容など、もはや耳に入ってきてすらない。

 身震いがするほどの、完成された美しいフォルム。

 ウェイルは特別軍艦などに興味があるわけではない。

 それなのにも関わらず心が震えるのは、これを設計した職人の腕が素晴らしいものであるに他ならない。

 この軍艦『オライオン』は、兵器であると同時に芸術品であるのだ。


「――おい、ウェイルよ。呆気にとられるのは判るが、俺の話も聞いてくれよ?」

「一応聞いてはいるさ。ついでにこいつの概要も教えてくれ」

「フフフ、聞いて驚くなかれ」



 名称:超弩級戦艦『オライオン』

 乗員:1000名

 製造:デイルーラ社


 動力機関 

 ○神器を利用した蒸気機関および魔力機関


 使用神器

 ○錬金都市『サバティエル』産人工神器『蒸気心管』(スプラッシュシリンダー)

 ○旧神器『伝達基幹』(モジュレート)

 ○蒸気機関を装甲中に採用


 使用燃料

 ○魔封玉(魔力を込めたガラス玉)※生成には専用の神器が必要 


 船体

 ○全長:240メートル

 ○全幅:36メートル

 (プロ鑑定士協会基準の長さ単位:メートル法表記)


 搭載兵装

 ○兵器特化型神器『波動砲塔』35基

 ○超巨大砲手『象砲手』 3基

 

「これがこいつの性能だ。ちなみにオライオン一隻あれば、従来のドレッドノートクラスの軍艦であれば十隻相手でも楽勝だ」

「これだけの軍艦、よく作ったな……!」

「デイルーラ社としてもこれほどの巨大な軍艦を作る予定はなかった。しかし、他大陸との交渉の際、強大な武力を持つことも、交渉を有利に働かせる切り札になり得る場合もある。実際に他大陸とのいざこざはここ数年頻発しているからな。多くの人達はアレクアテナは芸術の都、戦争とは縁のない平和な都市だと思い込んでいるだろう。当然そんなわけはない。他大陸との接触の多いこの都市では、平和などという幻想は通用しないのだ。アレクアテナを守るためにも武力は要る。平和は無料じゃないのだからな」

「お前が言うと説得力があるよ」


 ここラングルポートは他大陸との関わりがとても深い都市である。

 多くの大陸と友好を築いてきたが、全てがそうなったわけではない。

 武力衝突することだって、少なくはないのだ。

 故に、ここガングートポートは軍艦の製造、停泊基地として建設されている。

 治安局の支部もあり、大陸の平和を守る最前線と言える。


「他大陸との衝突か……」

「最近はだいぶ数が減ったがな。それでも一定数争いは起こるのさ。もっとも、今はアレクアテナ大陸内の方が大変みたいだが」

「神器暴走の話を聞いているのか?」


 一瞬、テメレイアの顔が脳裏に過ぎった。


「ああ。デイルーラは神器も取り扱っているからな。当然情報は耳にしている。だが、それよりもっとまずいのが宗教争いだ」

「ラルガとアルカディアルの件だな。ラングルポートでも何かあったのか?」


 それを聞くと、わずかばかりユースベクスの表情が濁る。


「それがな。先日我が社の社員に被害も出ているんだ」


 自社の社員が被害を受けたことに、ユースベクスもショックであったようだ。


「争いに巻き込まれたってことか」

「そういうことになる。しかしウェイル、よく宗教争いの件も知ってるな。お前、しばらくリベアの件で忙しかったのだろうに」

「まあな。ちょっと小耳に挟んだものでな」

「流石はシュラディン氏の弟子だと言ったところか。師弟共によく知ってる」

「師匠から何か聞いたのか!?」

「少しな。まあその話は後にでもしようや。今はこの軍艦、見てみたいだろう?」


 あからさまに話を逸らすユースベクス。

 見れば周囲の作業員もこちらの様子を窺っていた。

 社長が立ち話をしているのだ、それも無理はない。

 ユースベクスとしても、デリケートな話題に違いないのだろう。 

 ウェイルは黙って頷くと、


「よし、せっかくだから拝見させてもらおうか。どんな神器を使ってるんだか」

「スゲー神器だぞ? びっくりしてションベン漏らしても知らんぞ?」

「何、漏らしても洗濯代はデイルーラ持ちなんだろ? なら漏らしても問題ない」

「言ってくれる」


 ウェイル達はこれまた大きな橋を渡り、オライオンの中を見学したのだった。


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