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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
240/500

カリスマ

 ユースベクスは豪快な人物である。

 金持ちであることを鼻に掛けることはせず、どちらかというと都市に金をばら撒いて、都市の発展に努めている。

 市民との交流も多く持ち(仕事を抜け出して遊んでいることも多々ある)、多くの商店や中小企業に融資をしている。

 したがって、ラングルポート内にてユースベクスを知らぬ人物などいない。

 時折イザナに商店街のど真ん中で正座させられてしかられる姿すら目撃されている。

 そんな彼を見て、人々は笑い、親しみを持っているのだ。

 そのおかげか、ユースベクスは面白くて、そして良い奴だと、市民から評価されているのである。

 ウェイルとユースベクス、二人で都市を歩いていると、すれ違う人は皆ユースベクスに挨拶をしていくし、子供が寄ってきておじちゃん、おじちゃんと懐いてくるほど。

 そういう市民から愛されるところもカリスマ経営者たる所以であるのかも知れない。


「おこづかいくれ!」

「やらん! 欲しければ働け!」


 そう言って子供たちに簡単な雑用をさせて、お駄賃をあげている。

 やがて帰っていく子供たちに手を振るユースベクスに、それまでの経緯をずっと見ていたウェイルが呟いた。


「ユースベクス、人気があるな」

「子供に人気があっても儲けには繋がらん」


 などとぶきっちょにそう垂れるユースベクスの顔は、何とも優しい顔であった。


「子供は儲けには繋がらん。だがこの都市の宝ではある。俺は彼ら、それだけではなく、この都市自体を守ることこそが真の仕事だと思っている。社長業はついでだ」

「だから昼寝をするわけか」

「ナハハハ、そうだ。子供の相手は疲れるからな!」

「イザナもお前の相手は疲れていると思うぞ?」

「相応の駄賃をやっている。別にいいだろう?」

「別にいいね」


 これだからユースベクスは面白い。

 一緒にいて不快になることが全くないのだから。

 ただ一つの難点を除いて。


「おい、いい加減飯を食わせろ」

「……そうだったな……」


 ユースベクスは何かと人がいい。

 子供の相手が始まれば、子供が満足するまで付き合ってやっている。

 気が付けば倉庫を出てから早二時間。

 子供の相手をしている間、ずっと待ちぼうけを喰らったウェイルの腹は、グーグーとうるさくユースベクスに抗議しているのだった。












 ――●○●○●○――












 かなり遅い昼食の後、ユースベクスは面白いものを見せてやると提案してきた。


「びっくりして目玉が飛び出るぞ」

「なら見ないよ。プロ鑑定士は目が命だからな」

「お前、性格悪いぞ?」

「お前の勤務態度よりはましだよ」


 いつものように茶番劇を楽しむのも悪くはなかったが、その面白いものというのにも興味はある。


「まあ聞け。これはお前だからこそ話す内容なんだ」

「俺だから?」

「この情報はまだどこにも出しちゃいないんだ。プロ鑑定士たるお前だからこそ、是非見せてみたい」


 ユースベクスがここまで言うことだ。

 さぞ興味深いものがあるのだろう。

 彼の後について歩く。

 ユースベクスの足の矛先は、どうやら港の方角であった。


「どこへ行く? マーメイドポートか? いや、この方角ならセントラルポートか」

「ガングートポートだ」

「ガングートポート!?」


 ウェイルが驚くのも無理はない。

 この貿易都市ラングルポートで唯一の一般人立ち入り禁止エリア、それがガングートポートだからだ。

 プロ鑑定士とて、そうそう簡単に入れる場所ではない。


「ガングートポートに何があるんだよ」

「それは見てのお楽しみだ」


 にやりと不敵に笑うユースベクスに、ウェイルはなんだか不安を感じざるを得なかった。













 ――●○●○●○――












 ――ガングートポート。


「そこの二人。止まりなさい」


 港への入り口を警備していた治安局員に制止を求められる。


「この先に用があるなら身分証を」

「必要か?」


 まるで自分こそが身分証と言わんばかりにググイと前に出るユースベクス。

 それを見て治安局員も強張った顔を緩めた。


「ユースベクスさんでしたか。全く、こんな時間から一体なんです? 仕事はいいんですか?」

「今はオフだ。友人に例のブツを見せてやろうと思っていてな」

「あの、いくらユースベクスさんの友人でもここは関係者以外お断りなんですけど……」

「社長権限を行使する」

「今はオフなんでしょう? 全く困った人だ」


 彼らの話を聞く限り、ユースベクスの人柄(というよりは勤務態度)は治安局員の間でも有名らしい。


「いくら社長の頼みでも無関係者を入れる事は出来ません」


 断固として道を譲らない治安局員に、ユースベクスもどうしたものかと、しばし顎に手を当て考えていたが、しばらくすると良い言い訳が見つかったようで、みるみるとしたり顔になっていく。


「それがもし無関係者ではないとしたら?」

「彼が関係者とでも言うのです?」


 彼とはもちろんンウェイルの事。


「そうだ。実はな。こいつはプロ鑑定士なのだ」


 ああ、やっぱりそういうやり口か。

 自身の職業を半ば免罪符のように使われることは多々ある。

 むろん自分でも行使することは結構あるから何とも言えないが。


「プロ鑑定士に例のブツを見てもらいたくてな。何分こいつは神器に詳しい。少し調子を見てもらおうと依頼していたんだ。ついでに他の船舶の定期検査も頼むつもりだ」


 そんな依頼をされた記憶は全くないが、確かに神器と聞くと興味はある。

 考えてみれば最初からユースベクスはウェイルにその神器の鑑定をさせるつもりだったのかも知れない。

 見せてやるという上からの立場であれば、無料で鑑定士の視界中に神器を入れる事が出来るのだから。

 船舶の定期検査なんてもはやおまけを通り越して鑑定料をちょろまかそうという魂胆が見え見えだ。

 とっさに出てきた嘘としては悪くないが、言ってしまった以上実際にやらないといけなくなるのが面倒臭いところ。


(抜け目ない奴だ。定期検査については追加で料金を請求しなければ気が済まん……)


「こいつは大陸屈指の鑑定士でな。あのヴェクトルビアを救ったプロ鑑定士といえば聞いたことくらいあるだろう?」

「え!? あのヴェクトルビアから勲章を受け取ったという例の鑑定士ですか!? 彼が!?」

「……まあな」


 想像以上に自分が有名であることに驚きを隠せないが、事実であるので頷いておく。


「名前は確か……ウェイルさん、でしたっけ」

「ああ。よく知ってるな。新聞でちょこっと報道されただけだろう?」


 まさか名前まで覚えてもらっているとは。


「実はですね。治安局にステイリィという幹部がいるのですが、彼女は仕事中ずっと貴方のことばかり話していまして。もう貴方の武勇伝は耳にタコが出来るほど聞いてしまいましたよ」

「それは……なんだか悪いな」

「いえいえ、迷惑極まりない上司ですが、才能はありますから。おかげでいざという時は頼りになりますよ。カリスマとでもいうのですかね? 一声命令を下せば、皆彼女に従うほどです」

「ステイリィがカリスマだと……? そんなバカな……」

「普段の言動を見ていれば誰だって疑問に思いますよ。でも結果は確かにしっかり出していますからね。文句は言えないです」


 大抵ウェイルの手柄を横取りしただけではあるのだが、そのことは言わない方が良さそうだ。

 これにはウェイルも苦笑するしかない。


「そう言えばウェイルさんとステイリィさん、今度婚約なさるとか。おめでとうございます」


「…………はぁ!?」


 治安局員の祝福の言葉に、一瞬世界が凍りつく。


「こ、婚約だと……!? 一体誰と誰が!?」

「ですから、貴方とステイリィさん。治安局内では有名ですよ? なんでも治安局本部がある都市ファランクシアで盛大に婚約式を行うとかで。市民皆の前で婚約パーティするからって、我々も交通規制等に駆り出されることになっているんです」

「……あの洗濯板ドチビ……!!」


 当然そんな予定も事実もない。

 嘘を吹聴して回るステイリィの嬉々とした顔が脳内にちらついた。

 なんと腹の立つことか。


「おいおい、ウェイル。婚約してたのか!? そうか、ならば我々デイルーラ社も式の盛り上げに一役買おう。そうだ、アレス氏にも協力を要請して、ヴェクトルビアで盛大に祝おうじゃないか。いやあ、めでたいめでたい」

「めでたくないわっ!!」


 婚約は全てステイリィの嘘であると説得するのに、しばし無駄な時間を過ごすことになってしまったのだった。










 ――●○●○●○――









「プロ鑑定士の方なら身分としては申し分ないです。入港を許可しましょう」


 ウェイルの職を告げて証明書を提示すると、許可はあっさりと下りた。

 プロ鑑定士協会の信頼の賜物に、この時ばかりは感謝するしかない。


「それでは行こうか。例のブツはガングートポート内の0番ドッグにある」

「ああ、行こう」


 そして門番の局員にこう言っておいた。


「ステイリィの件、しっかりと真実を広めておいてくれ」

「分かっていますって。任せといてください。あのステイリィさんが結婚なんか出来るわけないですもんね」


 酷い言われようだが、それも自業自得ということでいいだろう。

 その後しばらく、ステイリィは部下から白い目で見られるようになったのは言うまでもない。




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