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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
239/500

社長はつらいよ

 扉を開くと、そこも大層豪華な装飾の施された、大きな部屋が待っていた。


「ここ、土足厳禁なんです。ここで靴をお脱ぎくださいませ」

「ああ。この絨毯を踏むことは俺には出来そうもないぞ……」


 なんの毛皮かは判らないが、相当な値打ち物に違いない絨毯を前に、ウェイルはそそくさと靴を脱ぐ。


「社長、ウェイル様をお連れいたしました」

「御苦労だった、イザナ」


 くるりと椅子ごと振り向く社長と呼ばれた男。


「お久しぶりですな、ウェイル殿」

「そっちもな」


 視線を交差させると、互いにニヤリと笑みが零れる。


「ささ、此方にお座りを」

「すまんな、ユースベクス」


 彼の名はユースべクス・デイルーラという。

 デイルーラ社の現社長であり、ヤンクの息子であり、そしてウェイルの親友でもあった。

 この体格はヤンク譲りに違いない。座れと促す腕の太さは尋常じゃない。

 逞しい肉体に強面も相まって、取引・交渉では無敗を誇ると聞く。


「聞きましたぞ、ウェイル殿。リベアの株主総会ではさぞ大暴れなさったとか」

「それほどでもないさ。リベアの暴れ方に比べたらな。そっちこそ、大層面白い事をしてたじゃないか」

「シュラディン殿から話を伺いましてな。ついでに便乗させてもらった所存。おかげで欲しかった奴らの子会社も手に入って我が社としてもホクホクですぞ」

「そりゃ何よりだ」


 デイルーラ社は例のリベア騒動の時、リベアの子会社を全て買収して、株式総会での投票の委任状をプロ鑑定士協会に託してくれた。

 もちろん株主総会の結果や様子などは全て伝えられてある。


「ワシ個人としてもリベアのやり方は鼻についていましてな。おかげでスッキリだ」

「そう言ってくれると助かるよ」


 ユースベクスは相当なやり手だ。

 もちろんデイルーラ社ほどの大企業のトップとして長年やってきた実績があるのだから、それは当然といえば当然だ。

 それ故に、例え心底リベアが嫌いでも、利益を生むなら見過ごしていたはず。

 いくら王都の危機で、プロ鑑定士側に知り合いが多いとはいえ感情に流されて動くことはない。

 つまりユースベクスは新リベアとの関わりで生まれる利益より、プロ鑑定士協会に賛同した方が高い利益が生まれると、ただそう結論付けて行動したまでである。

 それについてはウェイルだって理解しているしプロ鑑定士協会も承知の上で協力を仰いだというわけだ。


「ま、募る世間話はこれくらいにしておきましょう。そういう話は後でたっぷりと。先に仕事の方をお願いできますかな」

「無論だ。それで鑑定品は?」

「ここにはない。しばしついてきてもらいたい。イザナ」

「はい。ご案内いたします」


 後ろで待機していたイザナは、そそくさとエレベーターへと移動し、神器を起動し始める。


「行きましょう」


 ウェイルとユースベクス、そしてイザナの三人を乗せ、エレベーターは下へと降りていく。










 ――●○●○●○――










 下まで降りてきた三人は、デイルーラ社本社のすぐ隣にある巨大な倉庫へとやってきた。

 数人の社員に指示を送り、中へと入る。


「凄まじいな……」


 思わずそう漏らしてしまうほど、倉庫の中は物で溢れかえっていた。


「ここに鑑定品があるのか」

「一応、そういうことになる」


 キョロキョロ周りを窺うと、なるほど、確かにこれは一般人では見極め不可能なものばかりが集められている。


「この倉庫は大方質倉庫ってところか」

「ええ、その通りです」


 答えてくれたのはイザナ。


「この倉庫には我が社が大陸各地でチェーン展開している質屋にて、質入りされた代物が集められているんです。一応各店舗には、アマチュアではありますがそれなりの実力を持つ鑑定士が常勤しておりまして。大抵の品物については鑑定結果が出ているのですけどね」

「ここに集められている品はアマチュア鑑定士には難しい。そういうことだな?」

「はい。仰る通りです」


 ウェイルが手近の棚に置いてあったぬいぐるみを掴んでみる。


「うん、これは無理だな。この大陸の代物じゃないしな」


 ついてあったラベルを見ても間違いない。

 さしずめここにある品物の多くは、他大陸から入って来た品物ばかりなのだろう。


「だからウェイル氏に依頼を頼んだのだ。もっとも一人ではこの数を捌くには無理だと思い、後いくらか鑑定士をよこすよう協会に頼んである。鑑定は彼らが来た後で頼みたい」

「そうさせてもらうよ。何せ一人でやるには数が多すぎる」


 ざっと見た概算だが、おそらく三百は下らぬ数。

 とても一人で捌ききるのは不可能だ。


「ウェイル氏や他の鑑定士の滞在費は全てこちらが持つ。安心してじっくりと鑑定してくれたらよい」

「助かる」

「宿ですが、デイルーラ社投資の宿であればどこでも無料でご利用いただけます。そうですね、このラングルポート内の宿でしたらどこでも大丈夫だとお考えください」


 流石はデイルーラ。金の出し方が豪快だ。


「そりゃすごい。もっともヤンクの宿だけは無料にはならんのだろ?」

「親父のボロ宿はコストパフォーマンスを考えても最悪ですぞ?」

「違いない」


 二人して笑ってしまう。

 見れば見るほど、ユースベクスの笑い方はヤンクそっくりだ。


「では鑑定は後にして、せっかくですから世間話の続きとでもいきますかな。久しぶりです、ラングルポートを案内しましょう」

「上手い飯屋にでも連れて行ってくれ。代金は全額デイルーラ持ちだったな?」

「ハッハッハ、左様。お任せくだされ。イザナ。俺の今日の予定は?」

「今日は特に予定はございません。明日の夕方の会議に参加なさっていただければ、遊んでいようが昼寝をしていようが。部屋に女を連れ込もうが、何していようと構いません」

「お前の言葉の棘は毎回非常に痛いところだ。まあよい。今日はオフにする。イザナも休め」

「そうは参りません。我々平社員は誠心誠意、粉骨砕身、身を粉にして働いてますので」

「さも俺が怠け者みたいな言い方をするな」

「あら、自覚がおありで?」

「いいからさっさといけ!」

「はい。失礼させていただきますね。ウェイルさんも御機嫌よう」


 茶目っ気なウィンクをウェイルに飛ばして、イザナは倉庫から出て行った。


「はぁ……」


 イザナの姿が消えた途端、ユースベクスは大きく嘆息する。

 どうやら彼女の前ではデイルーラの社長も自由にはならないようだ。


「似合わんぞ、その喋り方」

「ああ、やっぱりか?」


 先程とは打って変わって、ユースベクスの口調が崩れる。


「色々尊厳を出そうとして苦心している様子が手に取る様に判ったぞ。まず言葉がたどたどしすぎる。いくつか素も出ていたしな」

「~ですぞ、とかあまり使いたくはないんだがな。交渉相手には多少偉そうにしろとイザナがうるさいんだ。俺はまだ若いからな、取引相手の年寄連中に舐められないようにとのことだ。なんとも肩の凝る話だよ」

「俺としては漫談を見ているようで面白かったがな」

「ここにも棘の鋭い奴がいたもんだ。せっかくイザナから離れられたというのに」


 ユースベクスの喋り方は本来こういう崩れたスタイルだ。

 社長に就任して以来、喋り方を変えるようイザナに仕込まれたという。


「しかし彼女、良い秘書だ。一緒にいて飽きないだろう?」

「まあな。たまに心の底からショックを受けることも言われるが、面白い奴だよ。それでいて仕事になると誰よりもできるんだから、あいつは良い部下だ」

「他の企業に取られないようにな」

「心配いらん。あいつの給料はお前と同じくらいあると思うぞ」


 プロ鑑定士の給料は破格である。

 大陸一信頼されている職ということもあるが、何よりも不正防止の為である。

 もしプロ鑑定士が貧しくて生きていくのが困難な状況であれば、どんな贋作にも価値をつけてしまうだろう。企業からの賄賂だって、悪いと思っても受け取ってしまうはずだ。

 そういったことを防ぐためにも、プロ鑑定士の給与は高い。

 無論、鑑定依頼をたくさんこなせばこなすほど給料も上がる。

 プロ鑑定士は、ある意味歩合制なのである。

 ちなみにウェイルはよく稼ぐ方だ。

 そんなウェイルと同じ額稼ぐイザナ。


「本当に手放したくないんだな……」

「あいつがいないと仕事にならんからな」


 イザナがいなかったら……。


(こいつ、ずっと昼寝していそうだ)


 デイルーラ社長室の現実を知った瞬間だった。


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