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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第十章 貿易都市ラングルポート編『暴走! 超弩級艦隊』
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貿易都市『ラングルポート』と大企業『デイルーラ社』

 磯の香りを含む潮風に、活気のある声の飛び交う都市、ラングルポート。

 アレクアテナ大陸最大の貿易都市であり、他大陸の文化が目を引く流行の最先端を行く巨大な港がある場所だ。

 ラングルポートには大きな三つの港が存在する。


 西の港『マーメイドポート』。


 漁業関係者が従事する、もっとも活気のある港だ。

 ここへ水揚げされた新鮮な魚介類は、氷を操る神器の力で冷凍され、大陸各地へ出荷される。

 また海に住まう神獣『マーメイド族』との連携により、海の情報を得て効率の良い水揚げを行っている。

 マーメイド族の漁業組合『ポセイドン』と業務提携を結んでいるのは、かの大企業デイルーラ社である。

 デイルーラは水産業でも大陸最高の売り上げを誇るのだ。


 次に中央にある港『セントラルポート』。


 ここは通称アレクアテナの心臓とまで呼ばれ、他大陸との貿易によって買い付けた商品を大陸全土に流す拠点だ。

 この港に朝も昼も夜もない。

 常に爛々と灯りが輝き、行商人達がまさに命賭けで働く港だ。

 この港の使用権利は、各企業が払う使用料金の割合で決まる。

 デイルーラ社は全料金の46%を支払っているため、ほぼ半分の場所を占拠しているのだ。

 使用料金は目を見張るほど高いが、それから生みだされる莫大な利益により、デイルーラ社は大陸随一の貿易会社という地位を手に入れた。


 最後に東側にある港『ガングートポート』。


 ここには商人の姿は一切ない。

 いるのはデイルーラ社の社員と、治安局員だけだ。

 何故ならガングートポートにある船舶は全て軍艦だからだ。

 アレクアテナ大陸は、歴史上、他大陸からの侵攻をほとんど受けたことはないが、それでも自衛のためとして武力を持ち合わせている。

 基本的には治安局所有の軍艦となっているが、軍艦の製造、販売は全てデイルーラ社が行っているため、実質デイルーラ社所有の物と考えて問題ない。

 現にここにある軍艦、全26隻のうち、治安局所有の軍艦はわずか9隻。

 残りは全てデイルーラ社の在庫という扱いなのだ。

 他二つの港とは違い、治安局員が常に周囲を警備、徘徊する、物々しい雰囲気の港である。

 強大な武力が集結しているため、それも仕方がないことではある。


 この三つの港に程近い街のど真ん中に、デイルーラの本社はある。

 ウェイルに鑑定依頼を出したのは、何を隠そうこのデイルーラ社の社長なのだ。

 多くの警備員の視線を感じながら、ウェイルは本社内へと足を進めた。


「プロ鑑定士のウェイルという。鑑定依頼を受けてここに来た」


 ウェイルが受付嬢へそう告げると、すでに話は通っていたのか、すぐさま別の女性が姿を現した。

 金色の髪をなびかせて、音も立てずに歩いてくる彼女。

 凛とした赤い目とメガネがアクセントとなり、何とも仕事の出来るクールビューティを体現したような姿だ。まるでステイリィとは正反対である。


「ようこそ、デイルーラ社へ。プロ鑑定士のウェイル様ですね。お待ちしておりました。私、社長の秘書をしております、アメリイザナと申します。本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 互いに握手を交わす。

 なるほど、ラングルポートは海が近い。

 彼女も日に焼けて程よい肌の色をしていた。

 胸元で輝く白いネックレスがよく映えること。


「社長は今いるか?」

「ええ。社長室にて昼寝……ではなくウェイル様をずっとウトウトしながらお待ちですよ。ご案内差し上げます」

「昼寝してたんだな……。それでいいのかデイルーラ」

「いいんですよ。何せ社長ですから。我々は文句を言える立場にはないのです」


 にしてもこの秘書、なかなかに面白い。

 さすがはデイルーラ社長。面白いメンツを積極的に採用しているのかも知れない。


「ささ、行きましょう」


 巨大な建物の内部は、大陸屈指の大企業に相応しい豪華な装飾もさることながら、他大陸からもたらされたであろう新技術の、まるで博物館であった。

 中にはウェイルすらも知らない品物もあり、ずっと見ていても飽きないほどだ。


「こちらのリフトにお乗りください」


 ウェイルが案内されたリフトがあった部屋は、何も変哲もない小さな小部屋である。


「ここから社長室へ参ります」

「上へ上がるんだろ? 重力杖を貸してくれ」

「重力杖はありませんよ」

「ん? そうなのか?」


 アレクアテナ大陸での移動手段としてポピュラーな重力杖による移動方法。

 当然デイルーラ本社でも採用されているものだと思っていた。


「実はこのリフト、名をエレベーターと申しまして、重力杖を用いずに昇降出来る装置なんです」

「もしかして他の大陸の技術か」

「その通りなんです。もっとも、装置の核の部分にはアレクアテナの神器が用いられていますけどね。重力杖は重力晶が高価ですので、あまり使用したくないんですよ」

「はは、確かにな。あれは高い。新技術を用いればコストも抑えられるというわけだ。納得だ」


 重力杖には、アレクアテナ大陸でのみ採掘できる『重力晶』という鉱石を神器回路内に埋め込んである。

 重力晶は、重力の方向を強制的に変更させる力を持っており、採掘も困難で鉱脈も少ないことから非常に高価な代物となっている。

 プロ鑑定士協会本部や世界競売協会本部、治安局本部などの大きな施設で利用されているものの、高価すぎるため一般的な建築物には用いることが難しい。


「安くて有用な技術が集まるのはデイルーラの強みだな」

「新技術は貿易会社の特権みたいなもんです。早速乗ってみてください」


 アメリイザナに促されエレベーターに乗ってみる。

 乗った瞬間、少しではあるが沈んだ感覚がある。


「これは上から吊るしているのか? それとも浮いているのか?」

「その両方なんですが、すみません。これ以上は企業秘密ということで」

「なるほど、了解だ」


 これは良い商売になる。

 重力晶商人や炭鉱夫からの圧力さえなければすぐにでも販売できそうだ。


 アメリイザナが床にあったボタンを押すと、エレベーターは徐々に上昇を始めていく。


「凄いな。重力杖は扱いが難しいがこれなら誰でも出来る」

「でしょう? プロ鑑定士協会もお一ついかがですか? デイルーラ社としてもプロ鑑定士協会にエレベーター技術を売れるならば宣伝も兼ねて大儲けです」

「君は本当に面白いな。秘書の癖に営業までもするのか」

「我々平社員一同、デイルーラの利益の為なら何でもござれでございますよ」

「平のところが強調されているのが何とも素晴らしい」

「平社員最高です」


 そう微笑んで言う彼女は、見た目のクールさからはとても想像できないほど、とても可愛らしい女性だった。

 どうやらデイルーラ社の社長の人を見る目は確からしい。

 アメリイザナを秘書に置いておけば暇はしないだろう。

 客を飽きさせず、好印象を与え、尚且つ商才もあり、挙句の果てには面白い嫌味までつけることが出来るのだから。


「君はエルフか?」

「え!?」

 

 ウェイルの問いかけに、今度はアメリイザナがプロ鑑定士に感嘆する番。。


「君のネックレス、薄羽だろう? エルフ族の子は薄羽をよく身につけているからな」

「ああなるほど! しかし驚きました。一発で見抜いてくるんですね。さすがはプロ鑑定士さん」

「知り合いにハーフエルフがいるんでね。雰囲気が似ていたんだ」


 エルフには特有の雰囲気がある、とウェイルは言う。


「七感を持つ故か、エルフ族の子は基本的に落ち着いているんだ。もちろん性格や言葉遣いとかは個人個人違うが、そういう個性云々をではなくてな。とにかく身のこなし方が堅守的なんだよ」


 エルフは太古から人身売買や奴隷取引の対象になることが多い。

 それ故に七感を身につけ、危険に対して酷く敏感になっている。

 そういった種族的な癖が、否応にも出てしまうのだ。


「そうですね。エルフにはそういう者も多いですね。私は結構ドジなところありますけど」

「自分でドジと言う奴は大抵ドジではなく腹黒い」

「あら、鑑定士さんも毒舌ですね?」

「も、ってことは自覚はあるんだな? お互い様だ」


 本当に彼女は面白い。

 互いにクスクスと笑っていると、リフトのスピードが徐々に緩やかになっていく。

 ぴたりと止まり、目の前に扉が現れた。


「ここが社長室です」


 厳かな扉には、大きく「社長室」と書かれている。

 大陸最大の企業のトップが、この先にいるということだ。


「あいつ、寝ていないといいな」


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