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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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テメレイアからの手紙

 それから間もなく、図書館からは厳戒令が発令された。

 第一種閲覧規制書物の一つが、盗難にあったというのだ。

 閲覧室にいたラルーは、灯りが復活してすぐ、テメレイアがいないことに気がつき、異変を察知して通報したという。

 図書館は直ちに、書物の盗難の容疑者としてテメレイアを挙げた。

 治安局も図書館に集まり、何事かと野次馬や新聞記者達が集まり出す。

 そんな人ごみに紛れて、ウェイル達は図書館周辺からすでに去っていた。

 二人としてはテメレイアの行動について酷くショックを受け、取材を受けることが億劫だったからだ。

 テメレイアのホテルに戻ると、フレスは自分の聞いたことを全てウェイルに報告した。


「レイアさん、最初から第一閲覧規制書物を盗み出すためだけにシルヴァンに来たみたいだよ」

「おそらくそうだろうな……。第一種閲覧規制書物の書庫は、場所の位置情報すら非公開情報だ。テメレイアとしても正しい手段を用いるのも仕方なかったのだろう」


 すなわち一年以上も前から計画していたということだ。

 おそらくソラリス・モノリスを部分破壊したのも、その後暗闇から襲ってきたのもテメレイアの部下だろう。


「たぶん天候風律もレイアさんが操ってたんだと思う。出なければ43階から飛び降りて無事なんかじゃ済まないよ」

「そうだろうな。レイアの仲間には神器について詳しい奴がいるんだろうよ」


 それはソラリス・モノリスの破壊から見ても間違いはなさそうだ。

 破壊方法については結局判らず仕舞いである。


「フレス、奴は他に何か言ってたか?」

「最初からずっと、この本は必要なものなんだ、とか言ってたよ。……あ、そういえばこう漏らしていた。『この大陸のためにも』って」

「アレクアテナのため、か……」


 正直なところ、ウェイルにはテメレイアの行動の意味がさっぱり理解できなかった。

 パッと見、彼女の持っている本は『インペリアル手稿』ではなかった。

 もし目的がインペリアル手稿ではなかったとしても、あれほど期待に胸躍らせていたテメレイアだ。インペリアル手稿に興味があったのも事実なはず。


「あいつ、インペリアル手稿の解読は出来たのだろうか」

「どうなのかな。レイアさんのことだし。……そうだ、もう一つ言われたことがあるんだよ」

「もう一つ?」

「うん。これについては明確だよ。ボクの隣を過ぎ去るとき、レイアさんはボソッと呟いたんだ。ベッドの下を見てみなよって」

「ベッドだと?」


 テメレイアの使用していた大きなベッド。

 フレスは寝っころがって床を見てみる。


「何かある!」


 フレスがうんうんと手を伸ばし、手にしたのは小さな箱。

 開けると鍵が一本入っていた。


「さて、何の鍵か」


 部屋を見渡すと、鍵が使えそうなものが二つ。

 机の棚と、金庫だ。


「金庫だな」

「だね」


 二人は金庫の前に座ると、鍵を指してぐるりと回した。

 開錠の音とともに、扉が開く。

 中には数枚が綴られた資料と、一枚の封書が入っていた。。


「これ、レイアさんが書いたものなのかな」


 フレスが資料をウェイルに手渡す。

 ウェイルはその資料に一通り目を通して、そして驚愕した。


「これ、インペリアル手稿の解読法が書いてあるぞ!?」

「なんですと!?」


 非常に丁寧な文字で綴られた、インペリアル手稿一つ一つの解説。

 どれも分かりやすく、解読の手順や方法の元ネタもすべて詳しく書かれていた。

 これを図書館側に提出していれば、テメレイアは即刻表彰されるレベルの、それほどまでに価値のある資料であった。


「どうしてこんなものをここに!?」

「俺にだって分からん!」


 テメレイアはこの書類のありかを、遠回しにだがフレスに伝えたことになる。

 最初からウェイルに解読法を教えるつもりであったに違いない。そうとしか考えられない。

 しかしながら、解読法が判ったとはいえ、原本がなければ意味がない。

 これと照らし合わせて解読することが可能だからだ。


「解読法だけ置いて行かれても……!」


 テメレイアは一体ウェイルに何を伝えたいのか。


「ウェイル、こっちも開けてみよう?」


 次にフレスが取り出したのは、封書だった。

 ナイフで開けて中身を取り出してみる。

 出てきたのは、二枚の紙。


「レイアさんからの手紙だ。読んでみるね」


 そのうち一枚をフレスは音読し始める。


「『ウェイル、これを読んでいるということは君らに対し、僕は何かしらのアクションをしたと考えるよ。おそらくはとても失礼なことだ。そのことを文面で申し訳ないが謝らせてもらう。君ら、特にウェイルに悪い印象を持たれるのは、僕としては死ぬことより苦痛でね。しかし、その苦痛を味わいながらも尚、僕にはやらねばならないことがある。そのためには第一種閲覧規制書物の一つ『神器封書』《ギア・シールグリフ》が必要不可欠だったんだ』」

「『神器封書』か。聞いたことはある。なんでも三種の神器について書かれた書物らしい」

「三種の神器かぁ。ボク、一つしか知らないや」

「むしろ知っていることに驚きだ」


 伝説に伝えられる最強の力を持つ三つの神器。

 その一つでも手にしたものは、大陸を統べる力を持つという。


「フレス、続きを読んでくれ」

「ほいさ。『君達と敵対するのはごめんだけど、それでも必要になれば僕だって容赦はしない。でも出来ればそうなって欲しくはないと思ってこうして筆を執ったんだ。君らには二つのプレゼントを用意した。一つはもう一枚の紙を見てくれ』、だって。こっちの紙かな」

「おい、これって……」


 ウェイルは絶句した。

 紙の内容に驚いたのではない。テメレイアの先見性に、ある意味で恐怖せざるを得なかったのだ。


「第一種閲覧規制書物の閲覧許可証だ……!!」


 ウェイルは閲覧許可を求めた事実はない。

 これはおそらくテメレイアがプロ鑑定士の立場を利用して勝手にウェイルの閲覧許可を取り付けたということだ。

 しかもそれを一年も前に。


「化け物だろ、あいつは」

「言葉が出ないよ……。これでインペリアル手稿を見ろって話なんでしょ?」

「そういうことになるな。フレス、もう一つのプレゼントとやらは?」

「読むね。『もう一つはヒントだ。金の値段に気を付けて』。金の値段……?」

「そういえば」


 ウェイルの脳裏によぎる、テメレイアとの汽車内での会話。

 それを踏まえると、フレスが聞いた『大陸のため』というセリフの意味は、なんとなくだが理解できる。

 しかし、もし例の事件がテメレイアの行動に関係あるとして、テメレイアは一体ウェイルに何を期待しているのか。


「どうしようか、これから」

「行くしかないだろう、これは」


 視線の先には閲覧許可証。

 残された解読方法を確かめなければならない。


「フレス。お前には別の頼みがあるんだ」

「ボクに? なんなの?」

「ここで見たこと聞いたことを全て、サグマールの元へ報告してほしい。このレイアの手紙も持って行ってくれ」


 どのみち閲覧許可はウェイルだけ。

 その間フレスは暇になる。

 しかしウェイルはフレスの退屈しのぎのために頼んだわけではなかった。

 とにかくこの状況を、早急にプロ鑑定士協会に報告しなければならないと考えたからだ。

 テメレイアがここまで大胆に行動したのには、裏にもっと大きな組織が動いていると考える方がいい。

 ましてや『金の値段』から推測される例の事件、すなわち――宗教闘争について、対策を練らねばならないと考えたからだ。


「分かった。任せて!」

「すまないが頼む。後、合流の件だが、お前にはこれからプロ鑑定士試験がある。俺は直接別の都市で仕事があるから、試験が終了し次第来てくれ」

「別行動だね。うん、ボク、プロ鑑定士になって戻ってくるからね」

「ああ、期待しているよ」


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