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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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対峙

「うりゃああああああ!!」


 手に光を集中させ、大量の水を放水させる。

 その威力たるや圧巻で、人間の消火活動の比ではないほどの効果を見せた。

 ものの三分足らずで、外部へと噴出していた炎は息を潜め、残るは内部に広がる炎だけだ。

 フレスは爆発によって出来た穴から内部に入ると、消火活動にあたっていた人達に声をかけ、次々と逃げるよう促した。


「ここはボクが引き受けます! 皆さんはどうか逃げて下さい!」

「君は一体何者なんだ!? どうやってそこから!?」

「鑑定士です。神器を使ってきました。消火用の神器もあるので安心して下さい」


 空を飛んで入ってきたフレスの姿に皆一様に驚いていたものの、フレスの放水を見て任せられると判断したのか、皆指示に従って非難を開始してくれた。


「ここの書物ならいくらでも替えが効く。全部濡らしても構わない。頼むよ、小さな鑑定士さん」

「任せてください!」


 鑑定士さんと言われて、俄然やる気が出てくる。


「消えろおおおおおおおお!!」


 天井にまで燃え広がった炎も、フレスの根性の放水で、一気に鎮火へと相成った。

 残るは燃え盛る一部の本棚のみ。これを消せば全てが終わりだ。


「これで終わり!」


 フレスが最後の火を消し終わった時、未だ立ち込める煙の中から見知ったシルエットが視界に入ってきた。


「――レイアさん!?」

「フレスちゃん……!?」


 何故貴方がここにいる。

 互いの顔にはそう書かれていたことだろう。

 予想外の対面に言葉を失う二人。

 先に口を開いたのはフレス。


「レイアさん、無事だったの!?」

「ああ、僕は無事だよ。君こそどうしたの」

「ボクは消火活動に来たんだ」

「そう」


 テメレイアの返事はそっけない。

 見ればその手に一冊の本を抱えていた。


「レイアさん、その本、借りるの?」

「まあね。とても重要な本だから」


 フレスは瞬時に感じた。

 テメレイアの様子が、少しばかり変わったことに。


「レイアさんって第一種閲覧規制書物を見に行ったんだよね?」

「その通りさ」

「あそこの本って持ちだし厳禁じゃないの? それともそれ、他のところの本?」

「…………」


 ついに沈黙。


「レイアさん……?」

「ねぇ、フレスちゃん。お願いがあるんだ」

「……何?」

「私のことを、信じてくれないか?」


 一人称を私に変更。

 それはフレスとテメレイアの時だけの特別な一人称。

 雰囲気が変わった事に、思わず息を飲む。


「レイアさん、その本、借りちゃダメなんだよね。それを持ちだそうとしている。それなのに、信じて欲しいって、どういうことなの?」

「今は詳しいことは話せない。でもこれだけは言える。私は絶対に、何があろうともウェイルのことは裏切らない。だからここを黙って通してほしい」


 つかつかと、テメレイアは爆発によって生じた穴へと歩き出す。


「どうする気なの!?」

「もちろん、逃げるのさ。フレスちゃんが見逃してくれたら、無事に逃げ果せる自信はある」

「ボクが拒否したら……?」

「してほしくないね」


 テメレイアは懐に手を入れた。

 おそらくはナイフか神器などの武器の類。

 フレスは明確な敵意を感じ取った。


「レイアさん……」


 フレスは自問自答する。

 ここでレイアを逃がしていいものか。

 テメレイアのことは数日しか関わっていない故、その人間性は計り知れない。

 しかし一つだけ確かなことがある。

 この人は、本当にウェイルのことが大好きなんだと。

 そんなウェイルを裏切る事だけは絶対にしない。

 だからテメレイアがこんな行動を取るには、何か裏がある。そうに違いない。

 逃がしてもいいとさえ思えてくる。


(いや、駄目だ)


 鑑定士としての責務がフレスにその考えを否定させた。

 どんな事情や理由があろうと、ルールを破ることを見過ごすわけにはいかない。

 もしウェイルならば、たとえ相手が親友だろうと、止めるに違いない。


「駄目だ、レイアさん。その本を返して」

「それは出来ない。どうしても必要だから」

「ボク、本気で止めるよ?」

「お好きに」


 言うが早いか、テメレイアは懐からナイフを取り出し、フレスに投げた。

 速度も遅く、コントロールも良くない。

 そんなナイフを躱すことなんてわけない。

 だが、テメレイアの真の目的はナイフでの威嚇なんかじゃない。


「またね」


 そう言い残し、テメレイアは空へ身を投げ出した。


「レイアさん!?」


 ここは図書館43階だ。そのまま落ちればひとたまりもない。

 急いで助けにいかないと、とそう思ったが、彼女のことだ。なんらかの神器を操って助かろうとするはずだ。

 むざむざ投身自殺をする人ではない。つまり死ぬ気はないのだ。


「逃さない……!」


 テメレイアの後を追い、フレスも飛び降りた。


「レイアさん、待って! どうしてこんなことするの!?」

「君もしつこいね。……いや、そんなことより、僕はどうして君が飛び降りたのか不思議でならない。助かる見込みはあるのかい? 僕は追手を助けるほど甘くはないよ」

「話を逸らさないで!」

「おや、君の命に関わる話だったと思うけど」

「大体そっちだって!」

「僕の心配かい? それはするだけ無駄ってもんさ。さぁ、種明かしをしようか」


 突如強烈な風が二人に襲いかかった。

 息もできぬほどの突風はテメレイアの体にまとわりつくと、彼女の体を宙に浮かせ始める。


「清々しいほどに気持ちの良い風だね。邪魔者を消し去り、僕の体を浮かせてくれるなんて」


 テメレイアの見下す先には、風に体を大きく煽られ、吹き飛ばされたフレスがいた。


「ごめんね、フレスちゃん。君のことは大好きだったけど、これから起こる一大事件と比べると、君の命はあまりにも小さすぎる。君のことを殺してでも、私は行くよ」


 それでも誰かをこの手で殺した。

 仕方ないと心で言い聞かせるものの、よく見ると手が震えていた。

 テメレイアは常に冷静だ。

 それでも心のどこかで必ず恐怖や動揺はする。

 莫大な資産を持ち、天才と称される彼女だって、本来は一人のか弱い女性には変わりないのだ。


「まだ、覚悟が足りなかったのかな……」


 一度だけ小さく弱音を吐いたテメレイアは、顔にぐっと力を入れて気合を入れると、いつもの表情を取り戻してこれからの効率的な行動を計算し始める。

 テメレイアを浮かせた風は、ゆっくりと地上へと降りて行ったのだった。




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