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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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テメレイアの誤算

「よし、これで全て揃ったね」


 この三日の間探し回った結果、ようやく見つけることが出来た一冊の本。

 第一種閲覧規制書物に指定されているこの本を、一体どうしたものか。


「テメレイア様、インペリアル手稿、解読出来そうですか?」


 この三日間、ずっと付き添ってくれたラルーが、そう問うてくる。

 解読出来そうどころかすでに解読を終え、内容は完璧に記憶したのだが、ここで正直に答えると後々面倒になる。


「いや、結局第二部以外はよく判らなかったよ」


 嘘を吐くのは苦手だが、大義の前では仕方ない。


「ラルーさん。まだ早いですが、そろそろ鑑定を終えようと思うんです。本の片づけをお願いできますか?」

「はい。お任せください」


 自然に必要のない本から順にラルーの方へ寄せる。

 思惑通り、ラルーは寄せられた本から本棚に片づけに向かった。


(さて、そろそろ計画を実行に移そうか)


 手には一冊の本。

 テメレイアの目的は、最初からこの本だけだ。

 ラルーの姿がないことを確認し、テメレイアは隠し持っていた神器に力を込めた。

 瞬時に遠くから爆発音が轟く。

 同時に視界も闇に染まった。


「な!? 何が起こったんですか!?」


 慌てふためくラルーを余所に、テメレイアは行動を開始する。

 この闇に乗じ、図書館から出る。

 本来持ちだし厳禁である第一種閲覧規制書物を持ちだすためだけに仕掛けた罠。


(ソラリス・モノリスが直るまで、かなり時間が掛かる。タイムリミットは考えなくてもよさそうだ)


 タイムリミットは、暗闇が明けるまでだ。

 神器であるソラリス・モノリスの修復は下手をすれば数日は掛かる。

 混乱に乗じて逃げることなど容易い。


(ごめんね)


 動揺し座り込むラルーに心の中で謝って、テメレイアは目を瞑り歩き始めた。

 テメレイアの記憶力は桁外れ。

 一度見て聞いたことは絶対に忘れない。

 三日も通い詰めた図書館の内部など、すでに熟知していた。

 目を瞑ってでも外まで行けるほど、それは鮮明な記憶。

 テメレイアにとって、すでに照明などあってもなくても同じ状態なのだ。

 大事に一冊の本を握りしめると、今回の事件を共に起こした共犯者と落ち合う為、ロビーへと向かった。








 ――●○●○●○――








 第一閲覧規制書物の場所は、大樹の中でも相当な下層部にあった。

 しかしながら外へ出るには一度図書館最上部へ上がらなければならないといい複雑な経路を持つ。

 重力杖を用いて移動するのだが、爆発の影響で魔力供給が不安定になっているのか、重力杖の力が普段より弱い。

 そのせいか、重力杖はテメレイアを最上部まで上げた途端、力を失った。

 故にロビーまで徒歩にて移動をしていたのだが、本来であればテメレイアに焦りの色など皆無なはずだった。

 テメレイアが規制書物を持ちだした事実が知られるのは当分先の話であるし、何より神器を修復するには時間が掛かる。

 安心して逃げ出せるというのが当初の計画だった。


 しかし、ここで誤算が出来てしまう。完璧だと思われたテメレイアの計画に狂いが生じた。


「都市に灯りが……!?」


 そう、明るいのだ。

 ソラリス・モノリスは簡単にとはいえ破壊させた。

 神器である故、早々直らないと踏んでのことだ。

 本来であれば、未だ都市は闇に包まれているはず。

 それがすでに明るい。

 ということは、何者かがソラリス・モノリスを修復したということ。


「一体誰が……!? いや、それどころじゃないか」


 計画に重大な狂いが発生したのだ。

 元々の計画であれば、このままロビーへと向かい、闇に紛れて都市から脱出する予定だった。

 それが破算した現状、すぐに計画を変更せねばならない。


「テルワナ達、しくじったね」


 闇を作り出すために、テルワナ達にソラリス・モノリスを破壊させた。

 破壊方法については詳しい原理など話さなかったが、彼らは上手くやってのけた。

 そして簡単に修復させぬよう、誰にもソラリス・モノリスには近づけさせないよう命じてあった。


「修復した人は相当の腕利きか。まさかソラリス・モノリスに詳しい人がこの都市にいるとはね……。下手をすればテルワナ達はロビーに来られないかも知れないね」


 灯りが想像以上に早く戻った。

 となればロビーは混乱した人達でごった返している可能性が高い。

 戻るわけにもいかない。

 おそらくラルーには逃げ出したことがばれている。

 もちろん嘘を並び立てて無理やり言いくるめることは出来るかもしれない。

 しかし、それでは本を持ちだす機会は一年後まで封印されてしまう。

 うかうかしていると、ラルーは迷わずテメレイアのことを通報し、追手を差し向けてくるだろう。

 この混乱だ。今すぐとは行かないだろうが、いずれは来ることには違いない。


「テルワナ達に期待が出来ないのなら、自力しかないね」


 この混乱時でも人が少ない場所。

 それでいて外に繋がる場所は、あそこしかない。


「一か八か、やってみようか」


 幸い脱出用の神器もある。

 テメレイアは迷わず、爆発の起きた現場へ向かった。








 ――●○●○●○――








 図書館の元に辿りつく。

 ウェイルはすぐさま周囲の人間に状況を尋ね、フレスに伝えた。


「フレス、爆発現場は四十三階だそうだ。あのフロアには古書が多く、燃え広がり方が早いらしい。急いで行ってくれ」

「すぐ行くよ! ウェイルは下で待ってて!」

「俺が行くと足手まといだな。判った。任せる」

「ごめん。でも、もしかしたらレイアさんもここに逃げてくるかもしれない。たぶんレイアさん、ウェイルの顔を見たら安心すると思うんだ」

「安心するのか? レイアのことだ。しれっと帰ってくると思うんだがな」

「いいから、とにかくここでレイアさんを待っていてよ」


 どこか寂しげにそう漏らすフレスを見ていると、ウェイルは頷かざるを得ない。

 もっとも、ウェイルがフレスについて行ったところで消火活動の邪魔になることは目に見えている。

 それどころか、火災が広がればフレスは龍である故に何ともないかもしれないが、ウェイルは命の危機すらあり得る。

 ここでフレスやテメレイアの帰りを待つ方が得策だ。


「行ってくるよ!」


 フレスは翼を広げ、ふわりと宙に浮くと、そのまま一直線に空を翔けていった。

 周囲の人々の唖然とした顔に、少しばかりまずいと思ったものの、現状を考えれば仕方のないこと。

 フレスの正体を隠すより重要なことが目の前にある。


(頼むぞ、フレス)


 今はフレスが無事消火活動を終えることを祈るのみだ。



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