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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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不可解な魔力回路の破壊

 一度ソラリス・モノリスの設置されている場所は確認していた為、小さな灯りに頼りながら二人は無事神器のある場所へ来ることが出来た。


「あれだ」

「全く発動していないね」


 ただの鉄塔の様に見えるソラリス・モノリス。

 フレスの話によると、発動中であれば魔力回路から微かな音や熱が発せられているそうだ。


「うん、魔力を全く感じない。完全に機能を停止しているよ」


 普段はフル稼働し都市を照らしている神器だが、今は本当にただの鉄塔に成り下がっている。


「フレス、早速鑑定してみてくれ。出来るか?」

「うん。神器は任せてって」


 フレスはソラリス・モノリスの表面に手を置くと、ゆっくりと目を閉じる。


「何をしているんだ?」

「ごめん、少し黙ってて」

「…………」


 フレスの真剣な表情に、思わず気圧される。

 しばらく手を当てていると、その部分は青白く柔らかい光に包まれていく。

 目を瞑ったまま、フレスは小さく呟く。


(…………ボクだよ、お願い、中を見せて……!!)


 その瞬間だった。

 柔らかく注がれていた光に鋭さが現れる。

 

「なっ……!? フレスの腕が……!?」


 神器がそれを求めているかのように、フレスの手は冷たい鉄塔の中へと吸い込まれていった。


「大丈夫、なのか……?」

「大丈夫。今、魔力の流れを探っているんだよ。魔力回路のどこかに短絡があるかも知れないから」


 フレスはパッと見ただけで、神器の故障は外部ではなく内部のものだと判断した。

 なまじ人間には不可能な鑑定法に、ウェイルも思わず舌を巻く。


「……ん?」


 フレスの指先が、微かに感じた亀裂。


「判ったよ。神器内部のガラスが割れているんだ」

「ガラスか。直せそうか?」

「ガラスがあればね。たぶん割れた部分に小さなガラスを当てるだけで直せるよ。ボクの力で回路になじませるから。でも、なんだか変なんだよね」


 壊れ方が不可解だとフレスは言う。


「壊れ方が何だか親切すぎるんだよ」

「親切? どういう壊れ方をしてるんだ?」

「だからさ、簡単に直せるように壊れているんだよ。まるでわざとこうなる様に仕組んだようにさ」

「仕組めるものなのか? お前は龍だから例外的な方法でソラリス・モノリス内部に干渉しているが、人間がそのようなことを出来るとは思わない」

「むぅ、それはボクも思ったさ。でも実際に変な壊れ方をしてるんだ。なんだか小さい魔力暴走が起きてるみたい」

「魔力暴走、か……」


 ソラリス・モノリス内に流れる魔力を誰かが暴走させる。

 どうやって行うかは判らない所だが、それこそ神器を使えば出来ないことはないかもしれない。


「ウェイル、ガラス持ってない?」

「あるぞ。これを使え」


 ウェイルはベルトのポケットに入っていたガラスの小瓶を一つ取り出した。

 ガラスの小瓶は小さな鑑定品を入れるのにうってつけの小道具で、普段よく持ち歩いている。


「うん、やっぱり変だ。ガラスを変えるだけで魔力が流れ始めた。修復にはもう少し掛かるけど」


 ガラスには魔力をよく通す性質がある。

 これは金属が電気をよく通す理由に近いという。(厳密に言えば大きな違いはあるが、概念はそっくりだそうだ)

 多少神器に詳しいものなら、神器内の魔力回路に、ガラスがよく用いられているということを知っているだろう。

 ガラスは脆い。壊すのは容易だ。


「簡潔に結果を述べてくれ」

「うん。つまりこの神器は、何者かが明確な意図を持って、すぐ直せるように簡単に壊したということだよ」

「そういうことになるわけだな」


 簡単に直せるように壊す。

 普通、何らかの意図を持って破壊行為に及ぶのであれば、早々修復できない状態になるまで破壊するだろう。

 そうこうしている間にも、フレスは作業の半分の工程まで終わらせていた。


「どれくらい掛かりそうか?」

「もう少しだけ待って。ちゃんと魔力抵抗値が以前使っていたガラスと一緒か確かめないと」


 フレスが修復作業をしている間。ウェイルは推理してみることに。

 いくつかフレスに質問してみる。


「簡単に直せるって言ったな。これは間違いなく意図的そうか?」

「おそらくね。だってガラス一枚変えるだけで直せるレベルなんだよ?」

「やっぱり故障と言う疑いはないか?」

「それもないね。壊れた部分を見ると、故障部分にだけ魔力を過剰に注入されたとしか思えない。容量オーバーで焼き切れているって感じだよ」

「そこだけってにところに意図的な匂いがプンプンするわけだ。では何故すぐに直せるように壊したのか。もし壊すことが目的なら徹底的にやるはずだ」

「う~ん、どうなんだろうね。本格的に壊れたら困るってことかな?」

「俺もその考えに同意見だな。多分壊した奴らはこれが壊れたら困るんだ。しかし、都市の機能が一時的に麻痺する程度には壊す必要があった。その理由は全く判らないがな。どうやって壊したかという方法も気になるところか」

「そうだね。ボクだからすぐに故障原因とか故障個所が判ったけど、人間なら専用の神器が必要になるだろうし、時間も掛かる」

「時間が掛かる、か。何かの時間稼ぎという考えも出来なくはないな」


 そんな推理の真っ最中の出来事だった。


 ――ズウウゥゥゥン……。


 突如、どこかで爆発が起きた。


「何事だ!?」

「ウェイル、図書館だ!! 図書館から火が上がっている!!」


 深淵の闇の中、ただ一か所だけ輝くそれは、爆発によって火災に遭ったシルヴァニア・ライブラリーであった。


「図書館が燃えちゃうよ!!」


 勢いよく燃える火災の光景に、フレスは少しばかり震えていた。

 フレスにとって、施設の火災はある意味トラウマだ。

 似たようなことが以前にあったからだ。

 王都ヴェクトルビアのルミエール美術館がそうだ。

 あの時、フレスが懸命に消火活動をしたにも関わらず、フロリアのせいで全てが焼け落ちてしまった。

 その責任を、フレスは今でも感じていたのだ。


「ボク、あれを止めなきゃ!」

「焦るな、まずはこっちが先だ」

「何言ってんのさ!? 燃えているのは大樹だよ!? 燃え広がっちゃう!」

「図書館の司書だって馬鹿じゃない。消火活動はすぐに始まるはずさ。しかし都市に光がない以上、活動の効率は鈍る。こっちは後数分で終わるんだろ? こっちを終わらせてから急いでいけばいい」


 暗闇の中では消火活動だって捗らないだろう。

 最優先は都市に光を戻すこと。


(……誰かこっちを見ている……?)


 ――しかし、それを邪魔するように、唐突に感じた殺気。


「フレス、お前はそっちに集中してろよ」

「また何かあったの!?」


 ウェイルは腰からベルグファングを抜くと、瞬時に氷の剣を精製した。

 それと同時に剣を振るう。

 キンッという氷と金属の打撃音と共に、一本のナイフが宙を舞った。


「誰だ!?」


 闇に向かって語りかける。


「今すぐそれから離れろ」


 帰ってきた答えは、解答になっていない台詞だけであった。

 『それ』とはソラリス・モノリスのことだろう。


「お前らがこれを壊した犯人か。目的は何だ?」


 今度の問いには返答はない。


 代わりに帰ってきたのは、またしてもナイフだった。


「クソ……!」


 足音から察するに相手は複数だ。

 それも五、六人程度じゃない。

 おそらくは十人を超えている。

 通常時であればウェイル一人でも何とかなるだろうが、今は暗闇で、相手の姿が見えない状況だ。

 一人相手するだけでも大変なのに、十人以上が相手など絶望的である。


「ウェイル! 何があったの!?」

「これを壊したと思われる奴らが、威嚇してきた」

「なんですと!?」


 飛んでくるナイフを軽く躱しながら、フレスの元へ向かった。


「フレス、急いで氷の壁を作ってくれ。奴らは手投げナイフを使う」

「ごめん、今少し難しい作業していて、出来そうにない!」

「……そうか。なら仕方ないな……!」


 弟子を守るのも師匠の役目。

 この人数相手に厳しいところだが、何とかするしかあるまい。


「要はフレスだけを守ればいいんだ」


 神器を修復することが目的だ。

 であるならばそれを修復しているフレスを、自分自身で庇えばいい。


「簡単な話だったな」


 ウェイルはフレスの前に立つと、背中を預ける。

 氷の剣を構えて、敵の攻撃を待った。

 しかし、意外なことに攻撃が全く飛んでこない。


「……どういうことだ?」


 唐突に止んだ攻撃に不信感さえ募り始める。

 考えてもみれば、先程のナイフも本当に当てる気で投げてきていたのだろうか。

 軽く躱したと思っていたが、ナイフの軌道は僅かながらにウェイルから逸れていた気がする。


「ウェイル、奴らの声が聞こえたんだけど」

「何を言っていた?」


 フレスの耳は地獄耳。

 エルフほどではないにしろ、人間より遙かに聴力は優れている。


「あの男に怪我はさせるなって、そう言ってた」

「俺に怪我を? どうしてだ?」

「――あ。あいつ等、逃げていくよ」

「……またどうして……?」


 敵の行動の意図が全く読めない。相手にとって暗闇である今が襲うチャンスのはずだ。

 何せ地理感や人数を考えると敵側に圧倒的に有利な状況。

 暗闇に乗じてウェイルを攻撃し、フレスの修復作業を邪魔することなどわけなかったはずだ。


「ウェイル、直ったよ!」


 フレスがソラリス・モノリスの内部回路から手を引き抜くと、すぐさま魔力が充実していっているのか、微かに光り始めた。

 青い光が一気に拡散すると、都市は元の明るさを取り戻していった。


「奴らはもういない、か」


 周囲を見渡すものの、怪しい連中はいない。


「ウェイル、そんなことは後回しだ! すぐに消火しにいかないと!」

「判っている。急ぐぞ!」


 腑に落ちない点は数多くあったが、とにかく今は消火活動が最優先事項だ。

 二人はとにかく急いで図書館へと足を走らせた。


(さっきの声、何か聞き覚えがあるんだけど……)





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