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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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インペリアル手稿の解読

 実に捗った鑑定をウェイルとフレスが第三種閲覧規制書物の閲覧室で行っていた頃。

 こちらは第一種閲覧規制書物の閲覧室で、テメレイアがうんうんと唸っていた。


「……全く、これは本当に意味が判らないね……。第二部と同じ暗号ではないようだ」


 インペリアル手稿は全五冊からなる書物。

 このうちの二冊目、つまり第二部に相当する手稿について、テメレイアは何と解析をすでに終えていた。

 元々解決の糸口を掴んでいたとはいえ、たった数時間足らずで解読を終えてしまったのだ。

 この途方もない偉業に、テメレイアの助手についていた司書のラルーは舌を巻いていた。


「まさか第二部を解読してしまうだなんて……」


 解析など無理だとまで言われていたインペリアル手稿。

 一部ではあるがあっさりと解析して見せたテメレイアに、ラルーはその才能に恐怖すら覚えていた。


「第二部は事前に図書館からの見解を聞いていたからね。おかげですんなり解読できたのさ」

「第二部はどうやって解読したのですか?」

「複数の解読方法を組み合わせるんだよ」


 なんてテメレイアはしれっというが、シルヴァニア・ライブラリー側は簡単な情報しかテメレイアに与えていない。

 情報を出し渋っているのではない。本当に図書館側は判らないことだらけだったのだ。

 そんな解読になどなんの役にも立たなそうな小さい情報だけで、テメレイアは解読に成功したわけだ。

 ラルーはテメレイアから解読法の説明をして貰ってはいたが、正直なところ解読法の半分も理解出来てはいなかった。

 その理由の一つに、テメレイアが説明が下手という点にある。

 テメレイアはあまりにも常人とはかけ離れた天才的な頭脳がある故に、他人がどうして自分が理解できていることが理解できないのか、それ自体が理解できないのである。

 そんな者が、素人に判りやすい説明など出来るわけがない。

 意図的ではなく、無意識の内に専門用語を連呼し、端折って説明する。

 自分の解釈通りを相手に伝えたところで、大半の相手は頭に?マークを置いたままだ。

 ラルーとて例外でないわけだ。


「すみません、私の勉強不足でして……。端的に言えば、何がキーなんですか?」

「う~ん、どれも重要と言えば重要だからね……。そうだね、もっとも重要だったのはヴェクトルビア独立宣言さ」

「ヴェクトルビア独立宣言ですか?」

「そうさ。およそ五百年前に王都として独立を為したヴェクトルビア。その時の独立宣言にヒントがあったのさ。独立宣言は全十章からなる文章だ。その文章と、この第二部に描かれたイラストを照らし合わせてみる。するとこのイラストの意味が少しずつ分かってくるはずさ。この意味不明な文字列も、実はこの独立宣言の文字を反転して、鏡文字にし、三文字ずつスライドさせて出来上がった文字列を、この記号に当てはめれば文章が出来上がる。意外と簡単なものだったよ」


 テメレイアはそういうが、説明を聞いたラルーは驚愕していた。

 聞けば確かに単純だが、普通そこまでの考えには至らない。

 そして驚くべきことは、これらの発見をテメレイアはたったの数時間で為したこと。

 目の前で嬉々として説明する本物の天才に、ある意味ショックを受けたのだ。


「なるほど。よく判りました。しかし、他の手稿には応用できないのですね?」

「その通りさ。同じ方法でやってみたんだけど、どれも文章にならなくてね。一応他の都市の独立宣言とも照らし合わせてみたのだけど、どれも正しくなさそうなのさ。だから困っているんだ」


 なんて言いつつもその目はとても輝いていた。

 久々に楽しいおもちゃを手に入れた、そんな顔だった。


「何か参考になりそうな資料を持ってきましょうか?」

「そうだね。なら神器に関する書物を持ってきてはくれないかい? インペリアル手稿は、神器に関することが書かれているというし」

「判りました。今お持ちいたしますね」

「お願いするよ」


 ラルーはそそくさと本を取りにその場を離れた。

 ラルーの姿が見えなくなったところを見計らい、テメレイアはふぅ、と深呼吸し、おもむろに席を立つ。


「さて、僕もちょっと本を探してみようかな。インペリアル手稿はあらかた解読できたし、ダミーも用意できたしね」


 そう言ってテメレイアは一枚の紙に目を通す。

 実は現時点で、テメレイアはインペリアル手稿の全ての解読を終えていたのだ。

 手に持つ紙に記されているのは、インペリアル手稿に書かれていた本当の文章、その要点部分。


「なるほどねぇ、まさかインペリアル手稿に例の神器の発動手順を隠していたとね。そりゃ誰も知らないわけさ。ま、おかげで全部把握できたし、計画は実行に移せそうだ。これで後は場所だけだね。おそらく資料はあそこにあるはず」


 テメレイアはクックと不気味に笑うと、ラルーには悟られないようにこっそりと歴史に関する書物のある棚へと向かった。

 テメレイアの本当に欲しい書物は、ここにあるはずだから。










 ――●○●○●○――









 ウェイル達の鑑定はついに三日目になった。

 テメレイアと共に閲覧許可は今日が最終日になる。


「やあ、ウェイル。よく眠れたかい?」

「実は一睡もしていない。宿に帰ってからもずっと解読作業を進めていたからな」


 ウェイルは昨晩食事を取って以降、徹夜で鑑定を続けていた。


「悪いね。本当は僕も手伝いたかったんだけど」

「いいさ。これは俺の仕事だからな」


 しかしながら徹夜明けはきつい。

 隣で幸せそうにグースカ寝ているフレスが羨ましく思う時もある。


「少し休んだらどうだい?」

「今日が終わったらゆっくり休むとするさ」

「顔色が悪いよ? 第三種閲覧規制書物の閲覧許可はすぐに下りるんだから、今日くらい休んだ方がいいと思うんだけどね」

「……そういえばそうか」


 第三種閲覧規制書物についてはプロ鑑定士であるならば簡単に許可が下りる。

 今日が終わってしまっても、また明日許可を申請すれば、明後日にはまた閲覧が可能となる。


「……情けないが今日は休んでしまおうか」

「それがいいさ。僕としても親友が倒れるのを止めたいところだからね。今日は図書館に来ないで欲しい」

「そうさせてもらおうか……」


 鑑定を進めなければならないことは判っているが、そろそろ限界なのも事実。

 徹夜での鑑定に、フェルタリアに関係する事柄から来るトラウマやショック。

 さらに言えばリベアとの対決の後すぐである。

 それらは想像以上にウェイルにダメージを与えていたらしい。

 とにかく眠くて眠くてたまらなくなっていた。


「いつもなら一晩の徹夜くらいどうってことはないんだけどな」

「リベアとの事件が相当堪えているんだよ。疲れが出て当然さ」

「そう……だな……」


 そろそろ会話までおぼつかなくなってくる。


「ゆっくりお休み」

「…………」


 最後は返事もなく眠りへと誘われる。

 その様子をテメレイアはじっと見つめていた。


「ごめんね、ウェイル。でもまさか君がここまで耐えるなんて思わなかったよ」


 ポケットに忍ばせていたのは睡眠薬。

 昨晩の食事の中に、テルワナに命じて混入させていた。

 確かに効果の薄い睡眠薬であったが、まさかこれを飲んだ後徹夜を乗り切ってしまうなんて思いもしなかった。

 一度集中し始めたら眠気まで吹き飛ばす。

 やっぱりウェイルは面白いと心の中で笑う。


「今日、今日だけは君達に図書館に来て欲しくはないんでね。本当にごめん」


 テメレイアは一度だけ肩を落として眠りこけるウェイルに謝罪すると、本当の目的を果たすために宿を出て図書館に向かった。


 ――これから起きる大事件の引き金を引くために。


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