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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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神器『もう一つの原始太陽』(ソラリス・モノリス)

 翌日、ウェイルが目覚めた時には、すでにテメレイアの姿はなかった。

 見ると机の上に紙の切れ端がある。おそらくは置き書きであろう。


「もう図書館に行ったみたいだな」


 見れば時間はすでに午前10時。

 疲れていたとはいえ、少しばかり寝過ぎたかも知れない。

 図書館の会館は午前8時。

 この日を一年も待ちわびたテメレイアのこと。

 きっと相当心を湧かせながら意気揚々と図書館に向かったに違いない。

 置き書きの文章からも、湧き上がる好奇心を抑えきれない心情が伝わってくる。

 何せ、普段とても丁寧な文字を書くテメレイアが、このメモに限って殴り書きだ。


「それにしたってテメレイアがはしゃぐとはな。珍しいこともあるもんだ」


 それを本人に言っても「僕だってたまにははしゃぐさ」と、適当に返されるだろうが、ウェイルにとってはとても意外な出来事であった。


「フレス、起きろ。俺達も図書館に行くぞ」

「うむむ……眠い」

「仕方のない奴だ」


 未だ眠気眼のフレスを摘まみあげると、適当に道具をベルトのポケットに入れて宿から出たのだった。









 ――●○●○●○――









 以前にも触れたが図書館都市シルヴァンは他都市に比べ遙かに暗く、温度も低い。

 原因は図書館の大樹が太陽光を遮っているからだ。

 よって、この都市では環境整備系の神器が、都市の至る所に配置されている。

 中でも一際存在感を放つのが、都市中心部に置かれた巨大な照明用神器『もう一つの原始太陽』(ソラリス・モノリス)である。

 昼間の間のみこの神器は発動し、薄暗い都市に光を送っているのだ。

 おかげでそこそこ高い照度を保つことができ、昼間でも外でなら灯りなしで本が読める。

 この神器の発する光は特別で、かなりの強い光度が放たれているのだが、人の目にダメージを与えることはない。

 本体が強く輝いて光を発しているのではなく、大規模範囲を一斉に、それも同じ光度で照らしているのだ。

『もう一つの原始太陽』本体を直接見ても、ただ大きい金属の柱が立っているようにしか見えない。

 それ故に不思議な現象が起こる。


「ウェイル、ボク、影がないんだけど」

「シルヴァン特有の現象なんだ。この都市を光に包む神器は太陽のように上から光を注いでいるわけじゃない。はたまた神器自体が光を放っているわけでもない。光の進む方向が定まってないんだ。常に神器適応範囲内には、光が四方八方に進んでいる。人の目ってのはあまり性能がよろしくなくてな。動き回る光をとらえることはできないんだよ。残像となってすべてが常に光っているように見えるんだ。ゆえに影も見ることが出来ない。一方向から光が来ているわけではないのだからな」

「……ボクの目も人間と同等だったんだ……」

「その姿だからじゃないか?」

「元に戻ればちゃんと見えるよね……?」

「知らん」


 変なことにショックを受けているフレスは置いておくとして、この都市の昼間は異質な空間となる。

 影ができないことは、やはり違和感しかない。

「フレス、あれが『もう一つの原始太陽』だ。見てみろ」


 ウェイルが指差したのは、これまた大きな金属の柱。

 表面は黒々としていて、鉄のような冷たい印象を受ける。

 だが、視線を上にずらしていくと、天辺付近には暖かな光があった。

 発動中は、こうして少しだけ発光するそうだ。


「昔からあったのかな」

「人工神器って話は聞いたことないな。おそらくは旧世代の神器だ」

「う~ん、ボク、これを見たことあるような気がしないでもないんだよね。よく覚えてはいないんだけどさ」

「何百年以上も前のことだろ? 覚えてなくても仕方ないさ」

「う~ん……」


 一人腕組み考えるフレス。

 そうこうしている間に、図書館にたどり着いた。


「やっぱり何度見てもすごいねぇ……」


 大樹の根元に置かれた巨大な門を通り抜けながら、フレスは感想を漏らした。


「俺達は今日、第三種規制書物を閲覧する。その光景はここ以上に凄いぞ」

「第三種かぁ。そう言えばレイアさんは第一種なんだよね。どんな本があるんだろう?」

「さてな。第一種に関しては閲覧後も口外しないという誓約書を書かされるほどだからな。正直閲覧室内や、書物にどんなものがあるかなど俺でもまったく情報がないんだ」

「ちょっと興味あるね」

「俺もだよ。だが閲覧には一年以上前からの申請がいる。正直来年の計画なんて立てることなど出来ないし、そこまでの手間を考えたら閲覧しようとは思わないな」

「ううう、見てみたいよ……」


 珍しくフレスはごねていた。

 その理由を、今のウェイルは気づくことができなかった。


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