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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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師匠の背中を流すのは弟子のお仕事?

「たくさん本を借りたんだね……。それでこれ、どうするのさ……」


 戻ってきたテメレイアはロビーに山のように積まれた大量の本を見て唖然としていた。


「全部借りる!」

「……と本人は言って聞かないんだ」

「弟子を採るのも結構大変なんだね……」


 絶対に借りて帰るのだと駄々こねるフレスに、テメレイアは仕方ないと図書館の電信を借りに行った。


「もうじきうちの馬車が来る。それに積んで帰ろうか」

「ホテルの馬車か?」

「そういうこと」

「ほんと、何から何まで済まないな」

「いいんだ。普段あまり使っていないんだから、たまには使わないと。それにウェイルの意外な一面が見れて、僕としても興味深い」

「……その一面とは?」

「可愛い弟子の我が儘をなんだかんだで聞いてしまうところさ」

「…………」


 反論しようも思ったのだが、実際に我が儘を聞いてしまってるのだから言い訳の余地もない。


「今夜は色々と楽しい話が聞けそうだよ」


 やけに良い笑顔なテメレイアに、ある意味畏怖を感じたウェイルであった。


「そういえばさっき、43階で姿を見たぞ。何をしていたんだ?」

「……え?」


 非常に珍しいことに、一瞬ではあるがテメレイアが目を丸くしていた。


「あそこは経済関係のフロアだから、何か欲しい本でもあったのか?」

「い、いや、実は僕の新しい著書がどういう扱いになっているか確かめたくって。つい寄ってしまったんだ」

「……なるほど」


 理由自体はもっともで納得いけるものであるが、不審に思ったのはテメレイアが一瞬だけ見せた驚いた表情。

 それが何を意味するのかは分からないが、どうやらテメレイアにとっては想定外の質問だったらしい。


「馬車が来たようだ。フレスちゃん。早く本を運ぼう」

「うん!」


 まるで話を逸らすかのように、フレスの本を運搬するテメレイア。

 その様子に、少しばかり疑問に思ったウェイルだった。









 ――●○●○●○――









 図書館から戻ったその夜、やけに豪勢な夕食を存分に楽しんだ後、三人は寝床であるテメレイアの部屋で談笑に花咲かせていた。


「へぇ、童話か。懐かしいね。幼いころはよく読んだものだよ」


 フレスが借りてきた絵本や童話を手に取り、感慨に浸るテメレイア。


「意外だ」

「何がだい?」

「テメレイアが童話を読んでいた時期があったなんてな。昔から現実至上主義だと思っていたよ」

「失礼な事をいうね、君は。僕だって、童話や絵本の夢の世界に浸っていた頃もあるさ。僕としては現実より童話の方が色々と残酷だと思うよ。物語の主人公は、最初から決まった結末しか迎えられないんだから。その点僕らは自由だ。なんでも好きな事が出来る。現実の方が簡単だろう?」

「現実を簡単とぬかすのはお前くらいなもんさ」


 流石はいくつもの事業を成功させてきたテメレイアだ。

 もしかしたらテメレイアは失敗という経験をほとんどしたことがないのかもしれない。

 その節、世の中を舐めた生き方をしないのは、一重にテメレイアという人物の人格が、優れているからに他ならない。


「ねぇ、この本ってレイアさんが書いたんでしょ? この『簡単に起業する1805の方法』って本」

「懐かしいね、その本。僕がまだ16歳の時に書いた本で、今見ると酷い内容だよ」


 ウェイルはフレスから本を受け取りパラパラとめくってみる。

テメレイアは謙遜して見せたが、内容は思いの他しっかりとした事が書かれていて、文章もコミカル且つ分かりやすく、とても興味の惹く内容であった。


「意外とよく書けてるじゃないか。とても16歳が書いた内容とは思えん。ただ簡単にといいながら1805ってのは訳がわからないが」

「まったくだね。恥ずかしいったらありゃしないよ」


 その後も、借りてきた本を中心に様々な話をした。

 ウェイルやテメレイアの恥ずかしい過去を、互いにフレスに聞かせあったり、逆にフレスとの出会いについても、多少真実を隠しつつも話したりした。


「そろそろ、入浴しないか? 二人とも。浴室に行ってきなよ。このホテルの一番の目玉が、僕自らがデザインした大浴場なんだ」


 気がつけば夜も更けていい時間。

 昼間はなんだかんだで歩き回り汗も結構搔いている。

 願わくは体をすっきりさせて床に就きたいところ。


「お風呂!? 入る入る!」

「またリンネのレプリカとかおいてあるんだろう?」

「リンネだけでなく、僕が気に入った作家のレプリカを置いてある。楽しみにしているといいよ」

「ああ、楽しみにしよう。それじゃ行ってくる」


 一足先にとウェイルは立ち上がって部屋を出ると、どうしてか図々しくもフレスが後についてくる。


「どうしてついてくるんだ?」

「そりゃもちろん、お風呂に入るためだよ」

「そうか。大浴場だから問題ないよな。どうせ男女で分かれているだろうし」

「なぬ!?」

「よし、一緒に行こうか、フレス。大浴場の入り口までな」

「そんなバカな!?」


 驚いている様子を見ていると、やはりというべきか一緒に入る気満々であったらしい。


「ボクとウェイルの仲なのに!? 弟子は師匠の背中を流すことが一番の仕事だとギルパーニャが――」

「言ってなかったよな?」

「……うん」


 台詞を全て先読みされたフレスに、主張する言葉はない。


「せっかく背中流そうと思ってたのに……」

「馬鹿言え。男同士テメレイアと一緒に入るのなら判るが、どうして女のお前と一緒に入らにゃならんのだ」

「馬鹿!?」


 このウェイルの台詞に、フレスはカチンときたらしい。


「なにさ! 弟子が師匠の背中を流したいって言ってるだけなのに! 馬鹿って、ひどいよ! ウェイルこそ馬鹿だ!」

「お、おい、フレス? どこへいく!?」

「部屋に戻る!」


 涙目になりながらフレスは踵を返すと、ぴゅーっと背を向け走り去っていく。

 どたどたと来た道の方から足音が聞こえるので、宣言通り部屋に戻ったのだろう。

 残されたウェイルに心中には、後味悪いものが残る。


「全く、あいつも何考えていんだか……」


 龍に人の常識を理解させるのは難しい。

 そう微妙にフレスの思惑とはずれている勘違いをしたウェイルは、ぽりぽりと頭を搔いた後、


「さて、どうしたものかな」


 どうフレスの機嫌を取ろうか湯船にでも使ってゆっくり考えようと思い、そのまま浴場へと入ることにしたのだった。




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