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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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借りる本は厳選しましょう

 その頃のウェイルはというと。


「第二種閲覧規制書物を閲覧したい。閲覧許可を求める」


 カラーコインの鑑定には、おそらく第二種規制書物の情報が必要だとウェイルは感じ、こうして閲覧許可を求めに来ていた。


「判りました。それでは何か身分を証明するものはございますか?」

「ああ。これでいいか?」


 ウェイルが取り出したのは、プロ鑑定士資格証明書。

 これさえあれば、大抵の公共施設には無条件で入ることが出来る。

 シルヴァニア・ライブラリーも例外ではなく、手続きこそ必要なものの、第二種までであればこの証明書で閲覧許可を得ることが可能なのだ。


「プロ鑑定士のウェイル様ですね? はい。プロ鑑定士の方であれば閲覧は可能です。閲覧許可申請の書類を書いていただければ、明日から三日間、閲覧が可能になります」

「弟子を連れて行きたいのだが、問題はないか?」

「あ、はい。プロ鑑定士の方が身分を証明してくださるなら、助手として二人までの同行を認めております」

「了解した。必要書類をくれ。すぐに書くよ」


 ウェイルは少しばかり焦っていた。

 この後なんの用があるわけでもないのだが、焦る理由は背後にある小さな弟子の存在だ。


「ウェイル、はやく本借りに行こうよ~」

「だからってコートを引っ張るな」

「ウェイル、受付はすぐに済むって言ってたのに。もう30分も掛かってるよ?」

「意外に書く書類が多かったり、閲覧許可が下りるまで時間が掛かったりして結構時間を食うんだよ」

「ねぇ、先に本を借りに行ってもいい?」

「駄目だ」

「どうして!?」

「100%迷うからだ」

「そりゃ迷うよ! 迷うに決まってる!」

「そんなに堂々と言わなくてもいいだろうよ」


 何せプロ鑑定士協会本部よりも巨大な図書館だ。

 ウェイルでさえ案内表示がなければ確実に迷う。

 フレスであれば、逆に迷わない方があり得ないだろう。



「もう済むから待ってろよ」


 結局ウェイルの閲覧許可が下りたのは、この数分後のことであった。









 ――●○●○●○――








 無事閲覧許可も下りたということで、二人は早速一般公開書物のあるフロアにやってきていた。

 一般公開書物は基本的に2階以上のフロアに、一番上は77階まで陳列されている。


「俺はアレクアテナの言語に関する書物を読みたい。調べてみるとどうやら65階にあるらしくてな。早速行こうか」

「むぅ。ボクは経済だから43階なのに」

「ならそっちから先に借りに行こうか」

「ううん。一人で行きたい」

「どうして?」

「どうしても」


 やけに頑なである。何か隠している可能性大だ。


「もしかして絵本とか童話とか欲しいのか?」

「な!? ばれてる!?」

「図星なのかよ」


 先程ロビーに置いてあった新着の絵本・童話に目が釘づけだった様子を見ると、やはり興味があったらしい。

 フレスはこう見えて数千年を生きる龍の化身である。

 しかしながら、これまで一緒に旅をしてみて分かったことだが精神レベルで言えば、見た目相応、もしくはそれ以下であったりする。


「別に、堂々と借りに行けばいいだろう? 俺に遠慮する必要はない」

「……恥ずかしかったんだよ。童話とか絵本とか欲しいって、子供みたいでさ」

「あのな。童話だって絵本だって、あれこそ芸術の賜物なんだよ。子供が見て、しっかり納得させるイラストや文章ってのは、そうそう書けるものじゃない。世間では馬鹿にする連中もいるが、そいつは絵本や童話の難しさと美しさを知らないだけなんだ。童話ってのは結構辛辣に現実を描いているし、一般的な小説と違って残酷な終わり方もある。人生勉強の一つとして童話は良い教科書だ。絵本だって、描かれているイラストは中々にレベルが高い。絵本作家から有名な画家も出てくることが多い。どちらもフレスにとっては良い教材となってくれるさ。恥ずかしがるなんて、作家や本に失礼だ」

「絵本とか童話って、結構凄いんだね……。うん、判った。ボク堂々と借りてくるよ」

「俺も一緒について行ってやる。どうせ迷うだろうし、オススメの童話も紹介してやるよ」

「うん!」


 こうして二人はまず童話などの置かれているフロアに行き、ウェイルが適当に何冊か見繕って借りてやったのだが、ウェイルがこうしてフレスに付き合ったのもとある事情がある。

 もちろんフレスに良作な童話を見せてやりたいという気持ちもあったのだが、それ以上にフレスの存在について描かれている童話は避けたかったのだ。

 すなわちドラゴンのことである。

 この大陸では龍・ドラゴンという存在はあまり好ましく思われていない。

 その悪印象は童話や絵本にも描かれているのだ。

 童話の中には、龍は絶対的な悪という位置づけをし、それを勇者が倒すといった類のストーリーが数多くある。

 童話に限らず絵本では、龍の姿は、それはそれはおぞましく描かれ、子供が見れば必ず嫌悪感を覚えるようなイラストになっていることが多い。

 そんな龍に対してのマイナスイメージを、絵本と言う本来であれば子供に夢を与える書物によってフレスに知らせたくはない。

 そういう算段からの行動でもあったわけだ。

 タイトルに龍とあったりしてフレスも興味持ち借りたいと言っていたが、ウェイルは出来る限りそれらをフレスから遠ざけた。


「ボク、龍についての童話読みたかったのに……」


 落胆するフレスには悪いとは思う。

 いつか必ず知る事となる龍への悪印象。

 しかし、ウェイルはどうしてもまだ知らせたくはなかったのだ。

 まだプロ鑑定士試験はあるし、フレスのモチベーションを下げることはしたくなかった。

 いや、それは単なる屁理屈であることはウェイル自身が判っている。


(本当は、落ち込むフレスの姿を見たくないだけなのかもな)


 フレスが退屈しないよう10冊も童話を借りると、一度その本は受付に預け、二人は本来の目的の書物を借りに行った。










 ――●○●○●○――








 二人がいるのは経済系の書物が置かれてある43階。

 そのロビーで二人は固まっていた。


「お、おもい……」

「調子に乗って借りすぎなんだよ……」


 目的の書物である言語や経済に関する本と、童話、絵本。

 ウェイルとフレスの分を合わせると合計32冊も借りてしまった。

 そして問題になるのはこれをどうやって持ち帰るか。

 下まではリフトを用いるからいいとして、宿まではどうすればいいのだろうか。


「何冊か返そうか」

「う~ん、でもこの経済の本は勉強にいるし、童話も読みたいし。そもそもウェイルだってそんなに本がいるの?」

「俺のはたった3冊だぞ……。お前経済の本そんなに読めないだろう」

「読む! 絶対読んでやる! 流しながら!」

「どうしたものか……」


 そんな言い合いをしている最中、ふと視界に入ってきた見慣れた姿。


「今のレイアか?」

「え? レイアさん?」


 その姿はすぐに本棚に隠されたものの、あの目立つ後姿は間違いなくテメレイアだ。


「どうしてレイアが経済の本を……?」

「レイアさんだってプロ鑑定士でしょ? 経済の本くらい読みたくなるよ」

「あいつは商売の天才だ。もう何度も事業に大成功しているし、今更勉強する内容などあるのか? あいつ自身が本を出版しているくらいだぞ。お前が持っている書物の一冊にテメレイア著があったりする」

「……ほんとだ!? これ、レイアさんの本だ!?」

「ちょっと声を掛けに行ってくる」


 ウェイルはその姿を追って、隠れた本棚の裏を確認してみるものの。


「……もういないのか」


 その姿はすでにどこにもなかったのだった。


「まあ下のロビーで待っていようか」


 二人は借りすぎた本をえっちらおっちらリフトまで運ぶと、一階のロビーでテメレイアを待ちながら休憩をとる事にした。




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