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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
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シルヴァニア・ライブラリーとインペリアル手稿

「シルヴァニア・ライブラリーって、どこにあるの?」


 フレスはシルヴァンには初めて来たということで、当然ながら浮かぶ疑問をテメレイアにぶつけていた。

 テメレイアはというと、先程から、


「もうすぐだよ」


 の一点張り。

 当然フレスの頭上には疑問符が浮かんでいたが、テメレイアはというとそんなフレスを見て微かにクスっと微笑んでいた。


「意地悪な奴だ」

「嘘は言ってないけど?」

「そうだな。本当のことを言ってないだけだったな」

「ハハ、そうだね」

「うう……、ボク、からかわれてる……?」


 たった一人意味が判らないフレスは不満げだ。


「フレス。実はな、もうすでに見えてるよ」


 流石に可哀そうに思えたウェイルは、簡単なヒントを出してやった。


「もう、見えてる……?」


 そう言われキョロキョロと周囲を見回すフレス。

 しばらくそうする内、フレスの視線がとある方向へ釘付けになった。

 頭に乗せていた疑問符は、ここで感嘆符に変わることになる。


「……まさかね……」


 信じられないよ、と漏らしていたものの、当人はほぼ確信していたようだ。


「そのまさかなんだな」

「……人間ってすごいんだね……」


 そんな感想すら出てくるほどの光景。

 下手すれば翼さえ飛び出してしまいそうなほどの昂奮を抑えて、フレスは呟いた。


「あんな大きな木が、図書館なの……?」


 三人の視線の先。

 というよりかは進行方向の真っ先。

 天にまで届きそうなほどの巨大な大樹がそこにはあった。

 伸びる枝は空を這い、太陽光を遮り都市に影を落としている。

 おかげでまだ昼間だというのに、都市の至る所で光を得るランプを灯しているほど。

 もっともそれだけでは照度は足りないので、とある神器を用いて都市を明るく照らしている。


「確かに、もう見えてるね……」


 進行方向先であれば、どこへ視線を向けようと必ずその大樹は視界に入ってくる。

 木特有の匂いすら、まだ図書館から遠く離れているのにも関わらず香ってくる。


「ここから図書館まではおよそ4キロ程度ある。それだけ離れていて尚、図書館の場所はバッチリと視認できる。凄いだろう?」

「凄すぎるよ……。よくあんな大きい木を改築したね……」

「僕も来る度に驚いてしまう。木の中は適度な湿度と温度で保たれているから、本の保存には丁度いいんだとか」

「まるでユグドラシルみたいだ」

「フレスは知ってるんだね? ユグドラシル。言い得て妙かな。確かにユグドラシルみたいだ。さすがにあの木ほど大きくはないけれども」

「それでも大きいよ。普通の木にしてはありえない」

「自然の奇跡って奴だね」


 世界樹ユグドラシル。

 農作都市サクスィルにある、世界で最も大きな木。

 未だその木の頂上はどうなっているか判っていないという、伝説の大樹だ。

 それまでとはいかぬものの、匹敵はする大樹を図書館に利用していることに、フレスは人間という存在のあり方に深く感動していた。


「人間って、本当に凄いや……」

「ん? 感動の仕方が独特なんだね?」

「いや、その、変な意味じゃないんだよ?」


 龍だとバラすわけにはいかなかったので適当に取り繕う。

 もっともテメレイアも興味はなかったかのようで、「そうなのかい?」と一言で済ませてくれたので助かった。








 ――●○●○●○――








「なあ、レイア。お前は結局図書館で何を調べるつもりなんだ?」


 話を変えるためにウェイルが助け船を出してくれていた。

 実際興味のある事ではある。

 この天才はどうして図書館都市を訪れたのか。


「調べるというかなんというかね。実は依頼があったんだよ。『インペリアル手稿』の鑑定をお願いしたいって」

「インペリアル手稿だと……?」

「そう。何でも以前別の暗号文を解読したことが評価されたみたいでね。検証に付き合ってくれと言う依頼だったのさ」

「検証か。インペリアル手稿を解読できるとはとても思えないが……」

「それは僕を過小評価しているのかい?」

「そういう意味じゃない。お前だって知っているだろう?」

「あはは、まあね」

「うう、またも判らない会話……」

「説明してやるよ」


『インペリアル手稿』。


 一冊四十ページからなる、全五冊の手稿だ。

 ただし、内容はとんでもないもので、まず書かれている文字が意味不明なのである。

 どこの都市の文字にも当てはまらず、歴史上存在したと明らかになっている文字全てと照合しても、そのどれとも一致しない。

 また全てのページには子供の落書きのようなカラーイラストが付いており、解読をさらに難しくしている。


「このインペリアル手稿の解読が困難なのは、この手稿の作成年月日にも原因があるんだ」


 意味不明な暗号文ではあるが、意外にもこの手稿の作成は最近であるということが判明している。

 手稿の紙の劣化を鑑みて、およそ二百年前のものであると、最近の鑑定結果で明らかになった。


「僕はこれを書いたインペリアルという人について興味があるね。一体何を思って書いたのだろうか」

「インペリアルって人は有名人なの?」

「インペリアルは有名な画家なんだよ。作風は写実的でな。判りやすい絵の上手さで、大陸中にファンがいる。インペリアル手稿も、インペリアルの死後、本人の遺言と共にでてきたんだ」

「写実的な描写ばかりしていたインペリアルが、どうしてこのような抽象的なイラストばかり描いたのか、それも鑑定を難しくしている要因の一つなのさ」

「へぇ、それは確かに変な話だね」

「内容は神器の精製方法だったり、ただの落書きであったりと諸説あるが、結局どれも仮説にすぎない。本当に意味の解らない代物なんだ」

「本当に意味の解らない代物だからこそ、僕らプロ鑑定士が呼ばれることになったんだろうけどね」


 などとテメレイアは言うが、もしウェイルが同じ依頼をされたのなら、おそらくは断っていることだろう。

 ウェイルだけでなく多くの鑑定士も同じ意見のはずだ。

 鑑定を引き受けたところで意味も分からず匙を投げる結果になるのは火を見るより明らかだからだ。

 そんな案件をしれっと快諾することは、ある意味暴挙とも言える。

 しかしこいつなら出来そうだと思えるのがテメレイアの不思議なところ。


「……少し待て」


 ウェイルはここで重要なことに気付く。


「なぁ、確かインペリアル手稿は“第一種閲覧規制書物”じゃなかったか?」

「そう、第一種だ」

「依頼があったのって、まさか一年以上も前なのか」

「全くその通りさ。もっとも、この一年何もしてなかったわけじゃない。電信でいくつかの情報を貰ったから、それから推理して、実は五冊の中の第二部については解読の糸口をつかんだんだよ」

「な、なんだって……!?」


 久しぶりかもしれない。

 他人の実力と己の実力の差を突き付けられて、唖然としたのは。

 そう、思えばテメレイアと一緒に合格したプロ鑑定士試験以来の出来事だ。


「解読、できそうなのか……?」

「さてね。実際に実物は観るまではどうにもならないよ。だからこそ、今回はとても楽しみなのさ。もしかしたら大陸最大の謎の一つが解けるかもしれないんだから。もっとも、タイムリミットが厳しいけどね」

「三日でやれってか。正直無理な話だ」

「まあ出来る限りはやるつもりさ」


 フレスの耳にまたも入ってきた更なる疑問。


「ううううう……第一種って、なんのこと……?」


 いい加減己の無知さに嫌気が差してくるフレスだったが、聞かねば知り得ようもないので涙目になりながら聞いてくる。


「今回は説明が多くて済まないな、フレス」

「本当だよ……。これが最後にしてよ」


 ともあれこの説明を聞かねば図書館の仕組みは判らない。


「シルヴァニア・ライブラリーに保蔵されている書物は、大きく四つに分類されている。それが“第一種閲覧規制書物”、それに準ずる第二、第三書物。そして一般公開書物だ」

「それぞれに閲覧のルールがあると思ってくれて構わない。一般公開書物であれば、誰もがいつでも読める。それこそ24時間いつでも。シルヴァニア・ライブラリーは定休日がないからね。貸し出しもしているし」

「本、借りれるの!?」

「そうさ。最低三日はシルヴァンにいる予定だし、読みたい本があったら借りてもいいぞ」

「本当!? やった! 実はいくつかプロ鑑定士試験対策のことで調べたいことがあってさ!」

「丁度良かったな。……まあそれはいい。話を戻すぞ。一般人が誰でも自由に読むことが許されているのが、この一般公開書物と、そして“第三種閲覧規制書物”なんだ」

「え? ボクでも第三種なら読むことが出来るの?」


 意外とばかりに驚くフレス。


「第三種なら本人の身元証明さえあれば、閲覧許可申請した次の日に読むことが出来る。第三種ってのは大抵、一般公開書物と変わらないものばかりだ。ただ本の発行部数が少ないやら、すでに出版社が倒産し原本が残っていないなどの、俗にいうレアなものがこれに指定されている」


 第三種閲覧規制書物とは、基本的に普通の書物となんら変わりはない。

 ただ本自体がだいぶ昔に絶版だったり、高価すぎて入手できなかったりなど、入手困難な書物がこれにあたるのだ。


「しかし、第二種以上になると一気に規制が厳しくなる」

「ボクじゃ読めないの?」

「閲覧が出来ないわけではない。ただ閲覧許可申請にかなりの時間が掛かるんだ。昨日今日で許可を得ることなど出来ないから、基本的に閲覧予定日の一週間前から申請が必要になる」

「一週間も前に!?」

「これでも第一種に比べたら甘い方だ。ちなみにプロ鑑定士の資格があれば、閲覧許可がすぐに下りるため翌日からの閲覧が可能になっている。プロ鑑定士協会の信頼の賜物だな」

「やっぱり資格がいるのかぁ……」


 第三種以上に現存数の少ない書物、および各都市の過去の機密書類などが第二種に相当する。

 また大陸に印刷技術が発明される前に書かれた、つまり手書きの書物などが第二種に多く存在する。

 代えの効かない書物は当然価値が高いことも多い。

 本自体の価値、また書かれた情報にも価値はあり、閲覧には厳しい審査が要求される。安易に許可を得ることは出来ないのだ。


「そして今回僕が閲覧しに来たのは第一種なんだ」


 テメレイアの鑑定対象であるインペリアル手稿は、第一種閲覧規制書物に指定されている。

 歴史的に大いに価値があることと、その内容の危険性を考えての指定だ。

 インペリアル手稿の内容はほとんど解明されてはいないが、その作者のネームヴァリューも合わさり、とても機密性の高い書物だと多くの研究家が判断しているからだ。


「第一種閲覧規制書物は、数にしてたったの2008冊しかない。俺は閲覧したことはないが、その多くは神器や神獣など、この大陸に存在する未知魍魎の類の情報と聞く」



(それにドラゴンについての情報もあるという話だ)


 ウェイルは説明しながらフレスの耳元へ近づき、小さい声で耳打した。


(ボクらについて!? 見てみたいかも!)

(だから無理だって)


 ちぇ、つまんないと頬を膨らますフレスだが、規則とあっては仕方ないと、最近では機嫌が直るのは早い。


「それにしてもようやく現物を拝めるよ。楽しみだね」


 まるで少年の如く目を輝かせているテメレイア。

 よっぽど鑑定したくてうずうずしていたらしい。


「さっきも一年前がどうこうとか言ってたけど、どういうことなの?」

「それはね、第一種閲覧規制書物は、閲覧予定日の一年以上前に閲覧許可申請を行わねばならないのさ。プロ鑑定士だろうがなんだろうが例外は一切なくてね。それに一回の申請で閲覧可能な日は何と三日だけ。たった三日で鑑定をしろときたもんだ。とても難儀なもんだよ」

「一年も前に申請しないといけないと!? レイアさんって、本当に一年も待ってたの!?」

「さっきから言ってる通りさ。だから楽しみで仕方ないんだよ」

「ウェイル、勿論ボクたちは」

「閲覧できるわけがないな。出来たとしても一年後だよ」

「残念……」


 ウェイルとテメレイアはその後もシルヴァニア・ライブラリーに関する様々な情報を教えてやった。

 図書館に近づくにつれて、都市はどんどんと暗くなる。

 うっそうと空を這う木の枝によって、太陽光が隠されているからだ。

 都市を照らす神器のおかげでなんとか薄暗い程度で済んでいる。

 おかげでひんやりとした過ごしやすい都市だとフレスは感じていた。

 フレスにとっては興味ある話が多く、ウェイルとテメレイアも久しぶりの会話を大いに弾ませていたので、中々に距離があった図書館までの道中は、意外にも楽しく、短く感じたのだった。






インペリアル手稿のモデルは『ヴォイニッチ手稿』です。


ヴォイニッチ手稿(ヴォイニッチしゅこう、ヴォイニッチ写本、ヴォイニック写本、英語: Voynich Manuscript)とは、暗号とおぼしき未知の文字で記され、多数の彩色挿し絵が付いた230ページほどの古文書。暗号が解読できないので、何語で書かれているのか、内容が何なのか不明である。また、多数の挿し絵も本文とは無関係であるとの説もある。


※引用 wikipedia より


興味ある方は調べてみてください。

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