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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第三部 第九章 図書館都市シルヴァン編『インペリアル手稿と神器暴走』
207/500

フェア

 突然の急ブレーキの説明をするため、車掌がウェイル達の元へやってきた。


「すみません、お怪我はありませんか?」

「全員大丈夫だ。何かあったのか?」

「ええ、実は突然の突風で線路沿いの木が倒れてしまいまして」

「どれだけ強い突風なんだよ……」


 窓から外を見てみると、なるほど、確かに木が根元から倒れている。相当な風力だったようだ。


「もしかしてシルヴァン周辺の森の中にある神器『天候風律(ウルトラファン)』の影響かな」

「『天候風律』!? あの神器に何かあったの!?」


 フレスのこの驚きよう。

 どうやらフレスはこの神器のことも知っているようだ。


「天候風律はシルヴァンの近くに設置されてある神器なんだ。シルヴァンの天候が穏やかなのも、この神器のおかげなのさ」


 図書館都市シルヴァンは、名の通り本が大量にある都市だ。

 本の天敵である湿気を防ぐため、天候風律によって天候をある程度コントロールしている。

 巨大な風車のような風貌をしている神器であり、雲や湿気を流すため猛烈な風を操ることが可能なのだ。


「天候風律に何かあったのか?」


 ウェイルが車掌に訊くと、彼もよく判らないと答えた。


「倒れた木の撤去作業に数十分ほど掛かります故、今しばらくお待ちください」

「俺達も手伝おうか?」


 フレスも共に頷く。

 フレスの力なら容易に木をどかすことが出来る。

 しかし車掌は丁寧に断ってきた。


「お客様のお手を煩わすわけにはいきません。これは我々の仕事ですので」


 彼らは彼らなりのプロ意識がある。

 鉄道マンにしてもプロ鑑定士にしても同じこと。

 それが判っているからこそ、ウェイルもこれ以上の申し出はしなかった。


「それにしてもおかしいね。天候風律が暴風を起こすだなんて」

「そうだな。もしかして故障か」

「もしそうならシルヴァンについてすぐ調査隊を派遣しないとね」








 ――●○●○●○――








 車掌の宣言通り、わずか二十分足らずで汽車は運行を再開させた。

 ウェイル達も一段落ついたということで、最近の互いのことについて語り合っていた。

 真っ先に紹介したのは弟子であるフレスのこと。


「ウェイルに弟子、か。珍しいこともあるもんだね」

「それ、サグマールにも似たようなことを言われたよ」


 旅は道連れとはよく言ったもので、再開を果たした二人は即座に意気投合。

 軽いフレスの紹介を済ませると、昔話で大盛り上がりだった。

 そんな楽しい会話劇の中、カヤの外なのがフレス。

 話に入れないのが面白くないのか、ぷーっと頬を膨らませて不機嫌に外の景色を眺めている。

 もっとも、話に入れないだけが不機嫌な理由ではないのだが。


「……ウェイル、楽しそう……」


 フレスはこれまで幾度となくウェイルと汽車の旅をしてきた。

 しかし考えてみれば、その旅の中で、ウェイルがここまで楽しそうに話す姿は見たことがない。


「……ボクとじゃつまんないのかな……」


 そう思うとシュンと頭が落ちて俯いてしまう。

 その様子をテメレイアは見逃さなかった。


「そんなことはないさ」

「――え?」


 まさか自分の小言が拾われるとは思いもせず、フレスは驚いてテメレイアの方へ振り返った。


「そんなことはない。ウェイルが君との旅をつまらないと思っているわけはないさ」

「テメレイアさん、な、何言ってるの!?」

「レイアで構わないよ。僕はこのあだ名が結構気に入ってるんだ」

「うん、じゃあレイアさんって呼ぶね。……じゃなくて、どうしてそんなことを?」


 ウェイルの前でそんなことを言われるなんて、さすがのフレスも恥ずかしい。


「何の話だ? レイア」


 ウェイルには小言が聞こえなかったようで、ひとまずホッとしたが。


「なに、君の弟子は、どうやら君に変な負い目を感じていたのでね。それを否定してあげただけさ」

「負い目?」


 ウェイルがフレスを見る。

 フレスは顔を真っ赤にして、目を潤ませていた。


「うう……、レイアさん、あんまりだよ……」

「ごめんごめん。でも、君にその辺の誤解を持たせたままではフェアじゃないんでね」

「……フェア……?」

「そうさ。本当はたまたま聞こえただけなんだけど、このままじゃ僕の方が君に申し訳なくて。疑問をすっきり解いてあげるよ」

「よく判んないけど……、うん……」


 そういうとテメレイアはフレスの耳元に近づくと、何やらひそひそと話し始めた。


「……今のウェイルは、昔のウェイルと比べるとかなり印象が変わっているよ。柔らかくなった。それもこれも、全ては君と出会ったからさ」

「柔らかく……?」

「昔のウェイルはなんというか硬くてね。そんなウェイルがこんなに表情豊かになっているんだ。君といて楽しくないわけがないさ」

「……本当?」

「本人に聞いてみるかい?」

「無理だよ、無理! 恥ずかしいよ!」


 あまり厄介ごとには首を突っ込みたくないウェイルは、二人のひそひそ話を興味なさそうにしていたが、テメレイアが口を動かす度に変化するフレスの表情だけは面白く、地味に楽しんでいた。


「そもそもウェイルが楽しくないと思っているのなら共に旅なんてしないさ。ウェイルって結構シビアな面もあるからね」

「それはそうだけど」

「じゃあ聞くけど君はウェイルとの旅は楽しいかい?」

「うん!」

「ならウェイルだって楽しいはずさ。もし僕とウェイルの会話で、ウェイルが楽しそうに見えたのならそれは間違いさ。あれは単にウェイルの照れ隠し。僕はウェイルの恥ずかしい過去をたくさん知っているからね。ウェイルが本当に楽しいときって、少し唇を釣り上げて含み笑いをするから」

「あ、それ見たことあるかも」

「今だってみてごらんよ。いやらしい笑い方をしている。でもあれが楽しいときなんだってさ」

「うん。笑ってる」


 フレスを見て二ヤついていたウェイルは、どうしてか二人にジトーっと逆に睨まれる羽目に。


「何の話だ、まったく」

「ね? よく分かっただろう? だから心配することはないのさ」

「そうだね! うん、ありがとう、レイアさん」

「御礼には及ばないよ。これもフェアプレイを心がけたまでの結果さ」


 我が弟子はすっかり我が親友とも仲良くなったようで、ウェイルとしては好ましい結果ではあるのだが、なんだか居心地の悪い。

 面白い話から、ハブにされた気分とでもいうのだろうか。


「……まあいいか」


 もっとも、その程度のことを今更気にするウェイルではない。



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