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龍と鑑定士  作者: ふっしー
番外編その2 イレイズ&サラー編 『始まりの物語』
201/500

一枚の龍の絵画

「ねぇ、クルパーカーの王子様? そろそろダイヤモンドヘッドを譲っていただきたいのだけれど」


 とても不快感を煽る香水を身に着けた、腹立たしい声の主。


「これだけの金額を提示しているのよ? 一般レートを考えても破格でしょ。さっさと売ってしまった方が得策だわ」


 彼女の名前はルミナステリア。

 贋作士集団『不完全』に所属する、ダイヤモンドヘッドの取引担当の使者だという。


「その話は何度も断っているはずです」


 ルミナステリアの訪問は、すでに一度や二度ではありません。

 彼女の訪問の度に、私は断りの宣告を下していました。

 私の部下達もいい加減いつになればこの連中が諦めるのか、繰り返される催促から解放されるのか、気が気ではなかったようで。

 なので、今回は少しきつめに断ることにしたのです。


「もう来ないでいただきたい。こちらはダイヤモンドヘッドを販売する気は一切ないのですから。例えどんなことが起きようとも」

「そんなこと言って。困りますわよ? 私としてはどうしても契約していただけなければ困るのですから」

「貴方の事情には興味ありません。とにかく、一つたりとて売るつもりはないのです。どうか、お引き取りを」


 私の強い宣告に、彼女は不気味にニヤリと笑いました。

 このとき、体に激しい戦慄が走ったのを今でもよく覚えております。


「そう。なら、もういいわ? こっちもこっちのやり方でやるだけだし。それに今おっしゃいましたわよね? たとえどんなことが起こっても、と。その言葉、期待していますわ」


 それはすでに脅迫罪が適用されるレベルの強い返事。

 戦慄に刃を突き付けられていた私は、この女を帰してはならないと、とっさに判断したのでしょう。


「この者を拘束しなさい。今の言葉は脅迫罪に相当する。帰すわけにはいかなくなりました」


 命令を受けた兵士5人が彼女の周囲を取り囲みます。

 それぞれが槍の刃を彼女に向けると、なんと彼女は笑い始めたのです。


「アハハッ!! これは面白い! これはつまり、これ以上の交渉は必要ないってことですね?」

「最初からそれは申し上げたはず。交渉の意思はないと」

「そう。なら仕方ないわね。こんな状況にまでされて、こっちもいい加減下手にでるのは止めましょうか」


 ルミナステリアは懐に手を入れました。

 これは何かがある。無意識に指示を出していました。


「何か来ます! 気を付けてください!」


 私の指示を受け、兵士たちは一旦彼女から距離を置きました。


「……なんてね」


 しかし、それはなんとただのブラフだったのです。


「さようなら。後悔することになりますよ?」


 彼女の足は速かった。

 咄嗟のことに立ち竦む兵士らの間をすり抜け、窓を破って外へと飛び出していったのです。


「早く追いなさい!」


 城の兵士を総動員させ、その夜は彼女を探索に費やしました。

 結局、ルミナステリアの足取りを掴むことは出来ませんでした。








 ――●○●○●○――







 それから二週間。

 あれほどしつこかった『不完全』からの催促もピタリと止み、部下達は安堵していました。

 もっともバルバードなどの幹部たちは一抹の不安を拭えずにいたそうです。

 その不安は当然私の中にもありました。


「イレイズ様、面白いものを見つけましたぞ?」

「なんですか?」


 そんな中、気分の優れない私の元へ、バルバードは一枚の絵画を持ってやってきたのです。

 その日、城は年に二度ある大掃除の日。

 なんでも部下の一人が倉庫を掃除していた時に、奥の方で埃を被っていたこの絵画を見つけてきたとか。


「見てくださいよ、この絵画。素晴らしい絵ではありませんか。私はこのような力強い絵画が大好きでして」

「ドラゴンの絵画ですか。確かに美しい絵ですね。この描かれた炎なんて、本当に燃えているようで」


「でしょう? 部下が持ってきたとき、正直驚きましたぞ。城にこんな作品が埋もれていたなんて」

「作者は誰なんです?」

「それが判らないのです。作者のサインもありませんし。一度プロ鑑定士に鑑定を依頼してみてはいかがですか?」

「そうですね。私の目から見ても、この絵画は素晴らしいものだと思います。結構いい値がするかもしれませんよ」


 偶然見つけたこの絵画に、大の大人が二人して心躍らせていた頃。

 クルパーカー南地区最前線では、大変なことが起こっていたのです。




「おい、何者だ、お前達は!?」

「この都市への入都許可はとっているのか!?」


 都市の周囲を警護する兵士達は、目の前の異質な連中に激しい声をあげました。


「入都許可、か。別にいらんだろ、こんなところに」


 背中まで髪を伸ばした、筋肉の塊のような大男が、兵士たちに詰め寄ります。


「どけ。さもなくば死ぬぞ?」

「ふざけるな! 入都許可がない連中を入れるわけがないだろう!?」

「そうかい。なら死ね」


 その兵士は、視界が突如90度曲がったそうです。

 大男に、首を軽々と折られたのですから。


「私分も残しておいてよ?」

「そっちは任せる」

「ありがと♪」


 他の兵士達は、大男の容赦のなさに怖気づき、一斉に逃げ出したのですが、それも間に合わず。


「これで七人目ぇ!!」


 楽しげな声と共に、鮮血が飛び交います。

 血の付いたナイフをペロリと舐める、この女はルミナステリアでした。


「ギリカ、私の分、少ないじゃない」

「いいじゃねえか、七人も殺したんだろう? 俺なんて十二人だぞ。全然足りねぇ」

「私よりも多いくせに全く我が儘なんだから」

「どうせこれから腐るほど殺せるんだ。そう僻むなよ」

「それもそうね」


 この二人組を含む不審な集団が攻めてきたことを、この時の私はまだ知らなかったのです。


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