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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第一部 第一章 宗教都市サスデルセル編 『宗教都市と悪魔の噂』
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事件の後で

「――それでラルガ教会本部が、偽ラルガポットを買い取ってくれたのか」


 ウェイルとフレスがラルガ教会から帰ってきた次の日、事件の詳細をまとめるためルークと共にヤンクの酒場へやってきていた。


「ああ、ラルガ本部も教会内に不穏な動きがあるとして探りを入れていたらしい。すると、どうもバルハーが属する派閥の資金ぶりが良すぎるとして、そいつらを捜査していたそうだ。ただ詳細までは分からなかったみたいでな。俺がお前の鑑定書を差し出したらすぐに行動してくれたよ。ラルガポットも今後の贋作対策資料として持ち帰ってくれた」

「いくらかは残してくれたんだろ」

「もちろんだ。これからの資料になるし、何よりお前達も必要だろ」

「ああ、助かるよ。教会にあったやつは全部壊してしまったからな」


 と言ってフレスと顔を見合わせた。


「結局一ついくらで回収してもらったんだ?」

「聞いて驚け。なんと一つ三十万ハクロアだ」


 あり得ない金額だ。贋作と分かっていて教会がこの金額を提示したのは、おそらく口止め料も含まれているのだろう。


「これも全てお前達のおかげだね。今日は俺の奢りだ、存分に食ってくれ!」

「いいの!? どれだけ食べてもいいの?」

「もちろんだよ。フレスちゃん。君のおかげで贋作と見抜けた訳だからね。好きなだけ食べてくれよ」


 後にルークはこの言葉を後悔することになる。


「ヤンクさん!! 熊の丸焼き!!」









 ――●○●○●○――









「……どういうことだ、ウェイル……」

「……実は俺も、フレスがこんなに食べるということを初めて知ったよ……」

「あぐあぐあぐあぐ、んー、おいし~♪ もくもくもくもく、がぶがぶがぶ、マスター、豚の丸焼き四頭追加ね!!」


 テーブルの上には骨だけとなった豚がすでに五頭いる。


 ――フレスの食べっぷりを見て、最初こそ面白がっていた周りの客も、豚の丸焼き三頭目辺りからはただ唖然としていた。


「フレス、そんなに食べると腹壊すぞ……」

「大丈夫だよ。ボク龍だもん♪ あ、これ秘密だっけ? 本当なら熊が食べたかったのにヤンクさんが無いって言うんだもん」

「普通無いわ!!」

「あっ、ウェイルにツッコミされるの久しぶりだね♪ もぐもぐもぐ、ヤンクさん、リンゴのジュース頂戴♪」

「おい、ウェイル。お前の嫁さんは良い食いっぷりだなぁ。相当稼がんと養っていけんぞ?」

「……ほっとけ……」


 ルークに肩を叩かれ、ウェイルは手で顔を押さえた。


「もぐもぐがばがば……、ゴクゴク。プハー♪ ヤンクさん、リンゴジュースもう一杯」


 ウェイルとルークは食べ続けるフレスを見て、お互いに苦笑した。

 そしてルークは話を戻す。


「あの鑑定書の威力、凄まじいな。さすがプロ鑑定士だよ」

「正直あの鑑定書、信じてもらえるという確信はなかった。何せ物的証拠はあったが関連証拠が無いうちに書いたからな。それよりも教会本部が来るのが早すぎやしないか?」

「だからさっき言ったろ? バルハーらは元々監視されていたんだ。鑑定書を司祭に見せた途端、部隊を編成してくれたよ」

「そうか。やけに大人数で来たからな。正直驚いたよ」


 ――ウェイルとフレスが事件を解決して教会を脱出後、すぐに教会が介入し始めた。

 ほとぼりが冷めた後日、ウェイルは自分が鑑定書を出した本人だと教会本部に名乗り出て、全ての事情を語った。

 すると教会は意外にも素直に謝辞を述べ、気絶しているバルハーとシュクリア以外の信徒を捕まえ連れ去っていった。


「口止め料をたんまり貰ったよ。プロ鑑定士協会には報告するけどな。教会本部はバルハー神父を本部の地下監獄に幽閉することにしたらしい。治安局にも金を積んで事件を公にしないよう手を打ったと聞く」

「ステイリィが嘆いていたよ。あのまま公になれば、手柄は全部ウェイルの通報を聞いて真っ先に行動した自分の物になっていた、てな。自棄酒するもんだから介抱が面倒だったよ。今日は酔い潰れて寝てるようだ」


 酒の入ったグラスを傾けながら、やれやれ、とルークがぼやいた。


「おお、そうだ、結局悪魔の噂ってどういう仕組みだったんだ?」

「ラルガ協会は地下にダイダロスを持っていてな。ダイダロスが召喚したデーモンを転移系の神器で外に放流していたって訳だ」


 その後ラルガ協会本部は証拠隠滅の為、全ての神器と円陣を回収したと聞く。


「それにしてもお前ら、よく無事だったな。上級デーモンなんて教会の司祭が束になっても勝てないって話なんだろ?」


 ルークは酒を煽りながらしみじみと呟いた。


「生憎、俺の弟子は最強なんでね」


 ウェイルは肉をかぶりついているフレスの方を見て言う。


「――ハハハハッ! 確かにな! あれだけ強い弟子は世界中どこ探してもいないだろうよ!」


 笑いながらヤンクも会話に混じってきた。


「人を救う教えを説いている教会がこんな事件を起こすのだからな……。世も末だ」


 はぁ、とため息をついたのはルークだ。


「本当だぜ。降臨祭が中止になったせいで宿泊客がキャンセルしやがってな。ルークは儲かったが俺は大損だよ」


 と、ルークにつられるようにヤンクも嘆息した。

 豚にかぶりついているフレスを除く三人が、今回の事件をひとしきり呆れた後、ルークはウェイルの耳元により、そっと囁いてきた。


「結局、『不完全』の情報は手に入ったのか?」

「…………」


 この言葉を聞いた途端、ウェイルは沈黙した。

 結局情報は手に入らず、情けないところをフレスに見られたのである。

 いくら怒りが身を支配していたとはいえ、やりすぎたことを反省している。


「……バルハーは結局何も吐かなかった。ただ喋ると殺されると、そう答えるだけだった。『不完全』が暗躍していた以上、この事件にも何か裏があるはずなんだ」

「――裏、か……」


 ――ルークとヤンクはウェイルの表情の変化に気がついた。


 二人とも、ウェイルのことは親友だと思っている。

 ウェイルが『不完全』に対し、尋常じゃないほどの憎悪を抱いていることは知っている。

 だが詳しいことは何一つ知らない。ウェイルは自分の過去を語らないからだ。

 でも二人が過去の詮索をすることはない。親友だからこそ、敢えて深く踏み込まない。二人はそう弁えていた。


 そんな二人にウェイルは心から感謝した。


「なら呑めよ、ウェイル。情報が無かったんだろ? だったらまた探せばいいじゃねーか! なに、裏があろうとなかろうと、いずれ分かるだろ!!」

「そうだ、ヤンクの言う通りだ! 俺のおごりなんだ。たっぷり呑んでくれよ!」


 ――二人の心遣いは、とても温かかった。


「そうだよ、ウェイル!! 今日はルークさんのおごりなんだよ!! いっぱい食べようよ!! あ、ヤンクさん、豚もう二匹ね!!」

「まだ食うのか……。そろそろ豚肉無いぞ……。いい加減肉を焼くのは疲れたぜ……」


 流石のヤンクでも呆れていた。


「フレスちゃん、そろそろ勘弁してくれよ!」


 金を出すルークが財布を確認しながらフレスに懇願する。

 机の上には皿だけですでに百枚以上重なっていた。


「む? あにかいった? もごもご」


 フレスの口からは豚の骨が突き出ている。


(食べ終えてから喋れよ……)


 と、ウェイルも呆れていたが、幸せそうに肉を頬張るフレスを見ているうちに、だんだんと気分が晴れてきた。


「そうだな。とりあえず事件は解決したんだ。久しぶりに騒ぐか! おい、ヤンク。俺にも豚の丸焼きを三匹ほど頼む!」

「「もう勘弁してくれ!!」」

 

 ――ルークとヤンクは、これから地獄を見ることとなった。





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