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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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サバルの奥の手

 時間が止まったようであった。

 轟音と共に、ニーズヘッグの体がふわりと宙を舞う。


「なっ……!?」


 ウェイルが壇上を確認すると、そこには砲撃系神器を構えた連中が並んでいた。

 その中心にはほくそ笑むサバル。

 彼の側近の者から放たれた光の弾丸は、ニーズヘッグを吹き飛ばしていた。


「……フレス……だい……じょう、ぶ……?」

「ニーズヘッグ……!?」


 あり得ない行動だった。

 ニーズヘッグはフレスを庇うため、自らの肉体を盾としたのだ。

 撃たれたのにも関わらず、どうしてかこれまで見てきた中で一番の笑顔を見せるニーズヘッグ。


「……よかった……フレス……無事……なの……」

「どう、して……?」


 崩れ落ちたニーズヘッグに駆け寄るフレス。


「ねぇ、どうして!! 答えてよ!!」

「フレス、氷で壁を張れ! 早く!!」


 サバルの合図に光の弾丸が次々と打ち放たれる。

 この場には神器や武器の類は持ち込めないようになっていた。

 フレスの力以外で神器に立ち向かえる力はない。


「ニーズヘッグはフロリアがなんとかする! お前は氷を!」

「……判った……!!」

 

 光弾を防ぐため、フレスは腕に光を溜めると、ウェイル達の周辺に氷のドームが出現させる。

 ひとまずそこへ身を隠し、光弾が止むのを待ち、逃げるタイミングを窺うことに。


「この子はなんとか無事だ。気を失っているだけだろう」


 アレスがニーズヘッグを抱えてきた。

 よく見ると血を流しているわけでもないし、酷い外傷は見当たらない。

 衝撃を受けて気を失っているだけのようだった。人間があの光弾を受ければただでは済まない。さすがは龍の体とでもいうべきだろう。


「どうして……」


 庇われたことがショックだったのか、それとも他に思うところがあったのか。

 目を瞑るニーズヘッグを見下ろすフレスの表情は見えない。


「強硬手段をとるつもりか……!!」


 これまで裏方に徹してきた男、サバル。

 株主総会が失敗に終わったことで、彼がとってきたのは最終手段。

 サバルはウェイルを見下しながら、部下に弾幕を止めないように指示を続ける。


「私はね、たとえどんなに完璧な作戦でもそれを信じることは出来ない。身を守るために、常に奥の手を用意しておくのですよ。私の奥の手とはすなわち武力行使。貴方達の持つ株券を全て焼き払わせていただきます。そうすれば相対的に我々が過半数以上を手に入れることが出来るのですから。さあ、打ち続けなさい!!」


 株式の割合で負けているのであれば、その絶対数を減らして割合を上げればいい。

 いざとなればこの作戦をとる気であったのか、サバルの後ろで待機していた放出系の神器が火を吹いたのだ。

 腕と融合する形態をとる神器で、戦闘用に特化した特注品に違いない。


「ウェイル、あの神器はまずいぞ。光弾一発一発の力が大型のハンマー以上の衝撃だ。見ろ、一般席はすでに大変なことに」


 幸い一般席に誰も残ってはいなかった為、被害者は出ずに済んだものの、このままではウェイル達も危ない。


「さて、一度止めてください」


 フレスの精製した氷のドームも、崩壊寸前なほどに破壊された頃、サバルは砲撃を中止させた。


「そこのプロ鑑定士の方、確かウェイルとか申しましたか。貴方と取引をしたいのです」

「取引だと? そんな神器を後方に控えてそれはないだろう。脅迫と訂正しろ」

「ええ、そう捉えていただいても構いませんよ?」


 クツクツと笑うサバルに、いい加減嫌気が差してくる。

 どうしてリベアの連中とはこうも気持ちの悪い笑みを浮かべることが出来るのだろうか。


「大方、こっちの株券を差し出せとか言うんだろう?」

「その通りです。察しが早くて助かる。それを全て渡していただければ、命までは取りません」


 ウェイルは一瞬だが周囲を見渡した。

 ウェイルやフレス、アレスに、その他プロ鑑定士達。

 状況に慣れていない鑑定士達に恐怖の色が広がっている。

 しかし、そこにとある見慣れた姿がない。 


(……流石としか言いようがないか。にしても行動が早すぎるだろう)


 脅迫されているのにも関わらず、ウェイルに焦りはない。

 一人は心強い、もう一人は抜け目ない、とそう感じさせる仲間と腹立つ存在に、内心安心を覚えていた。

 この場にいないあの二人が何をしているか、瞬時に理解できたからだ。


「さあ、株券を渡してください」


 せせら笑うサバルに対し、ウェイルは努めて冷静に言い放った。


「断るよ」


 凛とした声に一瞬この場に静寂が押し寄せる。

 だが次の瞬間には、すぐさま銃撃が開始された。


「フレス!」

「任せて!」


 再び氷のドームを精製し、弾幕から身を守る。

 弾幕の最中でも、サバルは言う。


「理解できませんねぇ。この弾幕を見てまだ何とかなると思っているのですか? だとしたら計算違いですよ? 戦闘用神器を持った部下が、この大ホール内にまだ三十人以上いるのです。例えプロ鑑定士の方が大勢いらっしゃいましても丸腰じゃどうしようもないでしょう? もし渡してくれないのであれば、私は容赦なく貴方方を抹殺します。我々としたらどっちでも構わないのですよ? 株券を手に入れても、株主が死んでも、どちらにしても結果は同じようなものですから」


 そんなサバルの脅迫に、他の鑑定士達の間にさらに動揺が走る。

 プロ鑑定士というだけで、戦闘には強いと思う者は多い。

 事実、経済犯罪者を処罰することが使命であるプロ鑑定士は、トラブルに巻き込まれる可能性の高い職だ。

 それ故に高い戦闘能力を持つプロ鑑定士もいる。

 だが、実際にはそうでないものだっているのだ。

 知識や雑学、鑑定眼を評価されプロ鑑定士になっている者も数多い。

 そんな鑑定士にとって、この出来事は想像を絶するイベントになっているに違いない。


「ウェイル、どうする!? 慣れていない鑑定士達は恐怖を覚えている」

「なに、そいつらに言っておけ。後数分で終わるだろうってな」

「数分だと!? どうして!?」

「見ていれば判る。サグマール、周囲を見渡してみろ」

「周囲……?」


 一体周囲に何があるのか。

 一通り見渡しても特別何も見当たらない。


「何もないぞ!?」

「逆だよ。あるものを探すのではなく、ないものを探せ」

「ないもの……? ……ああ、そういうことか……!!」


 そう、この場にいないもの。

 ウェイルすら、その行動の速さには舌を巻くほど。


「最後の議決を取りましょう。我々に株を渡すか、それとも死ぬか」


 銃撃を中止させ、サバルはもう一度交渉を申し出てきた。

 だが、すでにその交渉に意味はない。

 何せ最初から結果は出ているのだし、何よりすでに交渉する必要すらないのだから。


「だから同じだよ。何度聞いてもな」


 冷静沈着なサバルでも、今回は流石に腹が立ったようだ。

 整った顔を歪めて、激しい形相をむき出しにしてくる。


「了解しました。もういいです。願わくは安らかな死を」


 サバルが腕を上げて砲撃の指示を送った。


「打ちなさい! 彼らがくたばるまで、砲撃を続けなさい!」


 しかし、その言葉は無駄にこだまし、虚空へと消えた。


「ど、どうしたのです!? 早く……!!」

 どんなに声を荒げても、銃撃が始まることはなかった。


「どういうことだ……!?」


 珍しく狼狽えるサバルに、ウェイルは今までのお返しとばかりに嘲笑ってやった。


「サバルさんよ、アンタは慎重な性格だと思っていたが、意外にもうっかりやなんだな」

「何!?」


 サバルが後方を振り向くと、そこには気絶させられた部下達が地に伏していた。

「一体誰が!?」


 フレスの氷を解除させ、ウェイルは壇上へと上がる。

 サバルに一歩一歩近づき、目と鼻の先まで近づいた後、言ってやった。


「プロ鑑定士を舐めすぎなんだよ」


 ウェイルが指を立て、彼の後ろを指さす。

 その指を視線で追ったサバルに飛び込んできた光景とは、


「あはははははっ!! この神器、結構高値で売れるかも! ぼろ儲け!」

「このメイラルドって女のドレス、結構いいじゃない。貰っておきましょうか。コレクションが増えたわ」


 返り血で手や足を真っ赤にさせていたアムステリアとフロリアがいた。


「め、メイラルド……!!」


 そのメイラルドの意識はすでにない。

 逃げようとしたところでアムステリアに掴まり、容赦なく蹴り倒された。

 気絶したメイラルドを抱えて、アムステリアが舞台上から降りてくる。

 


「まったく、プロ鑑定士の癖に情けない連中ね?」


 アムステリアが睨み付けたのは、サグマールと共についてきたプロ鑑定士連中。


「そういうな、アムステリア。彼らには無理言ってついてきてもらったんだからな。それに皆が皆、お前ほど強い訳じゃない。……というかお前は例外だよ……」


 そもそも神器を構えている連中に丸腰で挑むなど、ウェイルですら無理だ。


「大量大量♪」


 敵の神器を奪ってご機嫌なフロリアも出てくる。

 そしてサバルの顔を見た瞬間、唐突に表情が変わった。


「私のニーズヘッグを打った罰。受けてね」


 今しがた手に入れた神器を構えて、サバルに打ち放つ。

 避けることすら敵わないほどの近距離から打たれたサバルに、当然意識など残っているはずもなかった。


「アレス様~、うちの龍は無事ですかぁ~~?」


 無駄に声を大きくしてアレスに問うフロリア。


「心配いらない。気絶してるだけだ」

「そっか。良かった」


 アレスの返答に胸を撫で下ろしているフロリアがいた。







 ――●○●○●○――







 ウェイル達が銃撃を受け始めた瞬間、すでにアムステリアとフロリアはこの大ホールから外に出ていた。


「あの嫌味な男、私のニーズヘッグを撃ちやがった。殺す!」

「奇遇。私もあいつの顔、気に入らないのよ」

「協力します?」

「ええ。別に構わないわ」


 ということでアムステリアとフロリアのコンビは、外で待機していたサバルの部下達を次々とバッサバッサ倒していったというわけだ。


「なんだかルミナステリアと組んでた時を思い出します」

「ああ、そういえばあんた、クルパーカー戦争にいたのよね。どう? 私とルミナスって似てる?」

「う~ん。ルミナステリアの方が気品がありましたよ?」

「殺すわよ?」


 フロリアは天井から現れたので、武器等の持ち込みチェックを受けていない。

 当然のように隠し持っていたナイフを駆使し、アムステリアは自慢の足で、軽快な会話を続けながら敵を倒していった。


「でも、やっぱり似てますよ」

「へぇ、どこが?」

「不器用なほど一途なところが、ですかね?」

「……そう。確かにそうかもね」


 こうして舞台裏へ辿り着いた二人は、後方で銃撃を行っていた部下連中を容赦なくぶちのめしていったのだった。



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