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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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積み上げられた株式、リベア買収

『なっ……!? また!?』


 唐突に邪魔が入るのはこれで二度目だ。

 しかしまさか二度目があるとは思いもしなかったらしい。


「その宣言、待ちなさい」


 破壊された扉の奥から出てきたのは、シュラディンだった。


「師匠、間に合ったか」

「途中邪魔も入ってここにたどり着くのに苦労したがな。彼女に助けてもらったよ」


 クイッと親指で指差した相手とはアムステリア。

 以前も同じようなことをした気がする。どうやらアムステリアは扉を蹴り飛ばすのが好きらしい。


「ウェイル、あなたの師匠を連れてきてあげたわ。警備の連中、まだまだ沢山いて結構楽しかったわ」


 楽しかったという感想が自然に出てくるのはどうかとも思うが、何はともあれ間に合った。

 アムステリアには感謝をせねばならない。


「恩に着るよ」

「これも私の役目だから、別にいいわ。後はウェイルがなんとかしてね。私はここで見守っているからさ」


 アムステリアはそういうと、一般投資家の一人へと近づいて、そのすらりと伸びた足を椅子の上に置いた。


「ねえ、どいて?」

「は、はひっ!」


 見惚れるほどの美脚ではあるが、たった今扉を蹴り飛ばした凶器でもある。


「ど、どうぞ!」


 恐怖する投資家は何の抵抗もせずアムステリアに席を譲る。


「あら、ありがとね」


 無理やり手に入れた椅子にふんぞり返るアムステリアの姿はまさに悪魔であった。


「師匠、例の件はうまくいったのか?」

「もちろんだ。今度ヤンク氏に礼をせねばなるまいな。ギル、持ってこい」

「はーい、師匠!」


 シュラディンの背後についてきていたギルパーニャは何枚かの資料を持っていた。


「はい、ウェイル兄、これ」


 ギルパーニャから手渡された資料。

 これこそウェイルが最後まで温存していた必殺のワイルドカード。

 一通り眼を通した後、ウェイルは資料を持って壇上へと上がった。

 ウェイルはまっすぐメイラルドの方へ向かうと、その資料を突き渡す。


「な、何を……?」

「まあ読んでみなって」


 そう促され、資料に目を通すメイラルド。

 資料を追うごとに、みるみる表情が変わっていくのが分かる。


「な、なんなの、これは!?」


 何度も議決を邪魔されたメイラルドに、もはや冷静の文字はない。

 資料に書かれていた事実に、ただ慌て、憤慨した。


「ふ、ふざけないで! ど、どうやって……!!」

「どうやってもくそも、全て合法的に処理をした。世界競売協会の承認も下りている」


 シュラディンが手に入れてきた資料、それはなんとリベア子会社の買収の契約書だった。


『何故、こんなタイミングで!! どうしてデイルーラ社が!?』


 リベアの子会社を買収したのは、何と大陸最大の貿易企業、デイルーラ社であった。

 そしてこのデイルーラ社の会長は、何を隠そうヤンクなのである。


「デイルーラ社は子会社を全て買収し、子会社の持つ株式を全て手に入れた。リベアの株式も当然含まれている。割合にして残りの11%だ。株主となったデイルーラ社は当然この株主総会に参加する権利がある。だがデイルーラ社の人間は忙しくてこれなくなったようで、代わりにと委任状を頂戴してきた。そして委任した相手は我々プロ鑑定士協会だ」

「そんな……!!」


 信じられないといった表情。

 だがそれも仕方のないことだ。

 何せこの瞬間、この場には株式の100%が揃ったことになる。

 そして力の立場の逆転したことになるのだ。


『議決は中止だ。この瞬間、この株主総会も全ては無意味となった。何せ我々プロ鑑定士協会が全リベア株のうち、51%を取得したことになるのだから』


 そう。この瞬間だった。

 ウェイルのこの発言は、この瞬間から非常に強い強制力を持つ。

 何せデイルーラ社からの委任状をウェイルが受け取った瞬間、新リベアブラザーズという企業は、株式を51%、つまり半分以上を取得されたことになる。

 すなわち買収である。

 新リベアブラザーズは、プロ鑑定士協会に株式の51%以上を取得され、結果として買収されたことになる。

 となれば新リベア側の主張は全てが無効になる。

 何せ彼らの経営権は、すでにプロ鑑定士協会のものになってしまったのだから。

 ウェイルは叫ぶ。


『この瞬間を持って、新リベアブラザーズはプロ鑑定士協会の管理下に置く。そして我々が企業経営者となった。その権限を持って発令しよう。これまでの株主総会で決まった出来事は、その全てを無効とする。さらに王都ヴェクトルビアの行政権も、国王であるアレス公へ返還しよう』


 その宣言は会場すべてに響き渡り、決定事項となる。

 プロ鑑定士協会は、ついに新リベアブラザーズを追い詰めることに成功したのだった。


「……さて、こうなれば奥の手ですか」


 その様子を舞台裏で見ていたサバルは、チッと一度だけ舌打ちすると、何やら含み笑いを浮かべながら会場から姿を消した。



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