投資家の投票
議決の前に、株式の動きが大きく変貌した。
予想株式保有率は現在リベアが60%、プロ鑑定士協会が40%になる。
一般観衆の株券の16%のうち、10%はフロリアが買い占めていた。
それがプロ鑑定士側についたということで、メイラルドは予想を裏切られた結果に。
「……本当に腹が立つわね……」
自分の計画が狂うことを何よりも嫌うメイラルドは、あまりにも悔しかったのか歯ぎしりすらしていた。
「少し落ち着いてください」
背後から声を掛けたのはサバル。
「心配しなくても我々の優位は変わりません。彼らの保有はわずか40%。それに対し我々は43%に加え、子会社が保有する11%、さらには委任状のある4%があります。また会場内に残っているはずの残り2%についても我々側に着くことは明白。結果60%対40%で我々の勝利は確定です。あまり殺気立たないように」
サバルの冷静な分析に、メイラルドは幾分か落ち着きを取り戻したようだ。
「……そうね、我々の勝利はすでに確定されたものだった」
「もしかしたら奴らはまだ手札を持っているかもしれません。メイラルド、素早い決議をお願いします」
メイラルドは頷き、そして壇上へと躍り出た。
『少しばかりイレギュラーな事態も発生しましたが、総会は滞りなく進めさせていただきます。それでは『リベアの倒産』についての決議を行います』
逃げ散った一般投資家たちは、瓦礫を除去しながら元の席へと戻ってくる。
『まずは一般投資家の方々、プロ鑑定士協会の提案である『リベアの倒産』に賛成か反対かを提示してもらいます。ここに投票箱を用意しておりますので、どうぞ忌憚のない意見を提出してください』
メイラルドの指示で部下たちがそそくさと動き始める。
大きな箱と、投票用紙を準備して、一般投資家たちに投票を促した。
なお、この投票は持っている株式の割合によって枚数が変わって来る。
当然多く持っているものほど、数多くの投票用紙を得る事が出来る。
会場内の株式はおよそ2%である。
この2%は会場内での投票の結果の割合に応じて分割される。
投票はあまり時間をかけなくても済むように、箱は二つ用意された。
賛成か反対か、である。
どちらに投票したか目に見えて分かる方式はあまり良い方法ではないのだが、リベアは敢えてそのやり方を貫いてきた。
人は他人の目が気になる。それは必然だ。
リベアはその人が当たり前に思う意識を利用してきたのだ。
つまり周囲がリベアに投票していく中、自分の意を貫いてプロ鑑定士側に投票してくる者の数を抑えに行ったのである。
会場内の雰囲気はどちらかというとリベア側に傾いている。
周囲に流される、というのはどんな状況や決議であれ、必ず一定数あるのである。
投票の結果は調べる場でもなかった。
会場内のほとんどの投資家が、リベア側に投票していたからだ。
つまりは反対。
目算ではあるが、リベアはこの2%をほぼ100%取得したに違いはない。
投票時間、開票時間を含めても、わずか60分程度で終了したという。
「……ウェイル、投票、想像以上に早く終わっちゃったね」
「だな。ここにいる投資家の多くは企業経営者。周囲の目が気になるのは当然だ。このリベアに傾いた空気の中、倒産に賛成する奴はよっぽどのつわものだけだよ」
「……間に合うかな……?」
「心配いらないさ。俺の師匠なんだからな」
そう、ウェイル達は時間を稼ごうとしていた。
予想外の助人としてフロリアやアレスが現れたが、それはあくまでもイレギュラー。
真の助人は我が師匠、シュラディンと妹弟子のギルパーニャだ。
開票の結果が発表される。
『開票の結果、会場内の一般投資家の所有するおよそ2%の株式ですが、投票の98%がリベア倒産に反対でした。従いまして、この2%の株式は反対票とさせていただきます』
ある意味想定内ではあるが、落胆は大きい。
プロ鑑定士の間に失望が広がる。
メイラルドが高らかに発表した。
『それでは採決をいたしましょう。リベアの倒産に賛成の株式は、40%。反対は今の2%を加えまして49%となりました。決議は反対多数とみなし――』
会場から飛び交う歓声は徐々に歓声が大きくなっていく。
リベアの倒産は多数決により行われないことになる、その寸前だった。
一部の者はすでに決まったと思っていたかもしれない。
(……どうやらギリギリ間に合ったようだ)
ウェイルの視線が会場の出入り口へ向けられる。
直後、出入り口の扉は、強力な衝撃を受け、宙を舞った。
『その決議には異論がある!!』
メイラルドの宣言を遮る声が、会場に響き渡った。