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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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飛び交う批難、採決の時

『それでは議論に移りたいと思います。議題は『リベアの倒産』について。我が社の株の30%を保有する株主からの提案です。それでは皆様、お手元に資料はございませんので、我々が急遽調べ上げた情報をこれから朗読にて提示いたしますので、ご考慮下さい』


 壇上にて再び司会を務めることになったメイラルド。

 彼女の元に、部下数人が資料を持ってやってきた。


『まず新リベアの業務内容について、簡潔に説明させていただきます。新リベアの業務内容は、これまでの旧体制の内容に、いくつか業務を増やした形を基本的なスタイルとして確立させます。例え新リベアになったからといって、これまでの下請け会社の面々と縁を切るなんてことはございません。旧リベアの業務のほとんどは現在、世界競売協会の管理下にございますが、数日中にも、管理権を新リベアに委譲することとなっております』


 旧リベアは経営破たんした後、あまりにも企業規模が大きかったため、そのまま倒産とは行かなかった。

 数万人以上の失業者を出すことは、アレクアテナ経済に与える影響はとてつもない。

 それを回避すべく、旧リベアの業務管理権は世界競売協会が掌握することになった。

 その管理権を、新リベアは取り戻すという。すでに算段も付いているから驚きだ。

 もっとも、ハクロアの大半を手中に収めたリベアだ。管理権を買い戻すことなど容易いことだろう。


『管理権返還後も、下請けの方々にはそれまでと同じよう、いや、それ以上の仕事を回すことをお約束いたしましょう。さて、それでは新体制になってからのプラス事項を述べましょう』


 次の資料を手にし、メイラルドが朗読を始めた。


『新体制では、それまでの業務に加えて、都市丸ごと一つの行政管理をしていきます。管理する都市は王都ヴェクトルビア。先日我々が買い取った都市です。このヴェクトルビアを大幅に改良していきます。まずリベアの系列会社や下請け会社などの業務用建物を全てここに建設いたします。それにより、情報の交換、物品のやり取りをするために浪費してきた費用を大幅に節約することが出来ます。また従業員はヴェクトルビア都市民から採用することで、地元の雇用も増やすことが出来ます。また都市民は基本的に公平になります。王族、貴族などの制度は完全撤廃。これまで甘い汁を啜ってきた連中を締め出すことが出来るのです。誰もが平等に暮らしていける理想郷を建設していくことを約束しましょう』


 これまでは、系列企業同士が離れた場所にあったため、情報交換に多くの費用を割かれていた。

 情報の交換は電信、並びに手紙等になるが、電信は使用する神器が高価である。手紙はある程度安価であるものの、積り積もればそれなりの費用になり得る。

 物品のやり取りなどは、汽車を使っていたが、運賃も馬鹿にはならない。

 その点、新リベアは全てをヴェクトルビア国内だけで業務をしていくので、会社同士も近い場所に出来る。ならば直接会いに行けばいいのだから情報のやり取りに費用が掛からなくなる。

 またこの度のハクロア暴落の引き金となったのは貴族であるハルマーチの事件だ。

 元々住民の中には貴族に不満を持つ者が多い。

 一般市民から見れば、さぞ華やかな生活に見え、羨ましがられること必至だ。

 積もり積もった鬱憤が爆発し、このような事態となったわけだ。

 もしアムステリアがいなければ、暴動は起きていたかもしれない。

 そんな彼らにリベアは平等な都市を約束した。

 株主が賛同してもおかしくはない。

 現にこの時すでに、会場からは賛成を表明するヤジが飛び交っていた。

 会場は徐々に新リベア側の主張へと傾きかけている。


『この素晴らしい利益の数々をもたらそうと努力する我々新リベアが、本当に倒産する必要があるのでしょうか?』


 メイラルドはやはり利口だった。

 先にメリットのみを述べ、デメリットをウェイルに発言権を渡すことでうやむやにする気だ。


『それでは、このリベア倒産の要求を提出したプロ鑑定士協会の方に、発言権をお渡しいたします』


 壇上へあがったウェイルに会場中の視線が集まる。

 ウェイルの一挙一動を舐めまわすように。


『我々プロ鑑定士協会は、リベア社の株の30%を所持する株主として、リベアの倒産を提案します。この企業の存在を許してはならない』


 ウェイルの主張に会場はヒートアップ。

 暴言中傷野次が容赦なくウェイルへと向けられた。

 利益のことしか頭にない連中に、ウェイルは辟易したものだが、主張は続ける。


『考えてもみろ。企業が都市を支配することが容認された大陸の未来を。一つの例外を許していては、これから先、どんどんと支配を目論む連中が出てくる。アンタらはそんな連中を許せるのか? もし許したのであれば、またハンダウクルクスのような悲劇が起きる! そうなってもいいのか!!』


 為替都市ハンダウクルクスの人間為替事件は、大陸中を震撼させた事件であり、この場にいる連中であるなら誰もが知っているものだ。


『リベアは奴隷商売まで行ってきている企業だ。もしそんな企業が都市を収めてみろ。勝手に法を整備され、合法的に奴隷商売が横行することになる! そんなことを許してもいいのか!? それにこいつらは現王権の国王や貴族を排除すると言っている。それがどういう意味か判るだろう。当然処刑以外の選択肢はない。酷い水不足を解消させた王、アレスに対し、処刑を行えるのか!?』


 そこまで言われてようやく野次が鳴りやんだ。

 国王アレスに対しては、皆多少の感慨があるらしい。

 また奴隷商売についても否定的な意見な者は多い。

 ハンダウクルクスの事件が、そこら中で発生する等、地獄の沙汰に他ならない。

 会場が冷え込むのを見て、メイラルドが発言を始める。


『皆様。我々新リベアは奴隷商売をしないことを誓いましょう。何せ我々は旧リベアが行ってきた奴隷商売に嫌気が差し、それ故に会社を倒産させたのです。ここにいるリベアの幹部役員は、皆旧リベアの汚いやり方に反対だった。だからこそこうやって新リベアを設立したのではありませんか!』


 会場に動揺が走る。

 彼女の言うことは、一見矛盾がない。

 正義の旗は先に振り始めた方が、圧倒的に有利なのだ。


(よくもまあ嘘ばかりつけるもんだ)


 とはいえ、メイラルドの言葉を嘘と証明するための資料を持ち合わせていないのだから、ウェイルは黙っていた。

 次第にリベアの倒産に反対する声が上がり始める。


「リベアは何も悪いことをしてはいないじゃないか!」

「利益も出るし、都市支配は最高のマネジメントだ!」


 などと勢い付き始める観衆。

 それどころか、プロ鑑定士協会に批判が殺到し始める。


「リベアの倒産なんて、何を考えているんだ!?」

「そもそも倒産なんてされたら、俺らの株はどうなる!? あんたが損失を補ってくれるのか!?」

「大儲けできるチャンスなんだよ、邪魔するな! プロ鑑定士協会!」


 汚い言葉の一方的な罵倒に、ウェイルはいい加減イラついてくる。


(……利益至上主義の連中ならこうなっても仕方ないか……)


 奴隷の件は、今のメイラルドの言葉で撤回されたとしよう。

 だが結局アレスの件について触れることはなかった。

 こいつらは利益の為なら、これまでヴェクトルビアを必死に守ってきた国王アレスを殺すことになんら抵抗はないようだ。

 腐った連中。偽善者。

 そういう言葉が相応しいかもしれない。

 だからこそ、ウェイルを含めたプロ鑑定士協会は、この時点で観衆の説得を諦めた。

 できれば強引な手は使いたくはなかったが、ヴェクトルビアを守る為なら多少の犠牲は仕方ない。

 もっとも、一番の損失を被るのは、他ならぬプロ鑑定士協会、それも大量に株を所持しているウェイルとフレスなのだが。

 ウェイルがサグマールにアイコンタクトを送ると、サグマールは深く頷いた。

 残された手段を実行するのだ。


『静粛に。観衆がどう喚こうが、我々は株式の30%を取得している。つまり、リベアのやることに口出しが出来るわけだ』


 メイラルドを睨む。

 彼女は笑って応じてきた。


『そうですね。しかし、当然のことながら我々もリベアの株を43%取得しています。これからリベアの倒産を掛けて、この場で採決を取ります。もし賛成多数なら貴方方の株式をもってしても止めることは出来ないでしょう。確かに経営に口を出すことは可能でしょうが、根本的な部分を止めることは出来ません。せいぜい参考にさせていただくだけで、ね』


 相当自信のある言い草だ。

 ウェイルが思うに、メイラルドはこの採決で必ず勝利出来ると睨んでいるようだ。

 彼らの持つ株は43%。確実に勝つには後8%必要だが、それはすでに用意できているに違いない。

 ウェイル達の計算だと、リベアは43%、リベア子会社が11%。これだけでリベアはすでに目標を満たしている。

 だがこの会場の雰囲気。

 おそらく観衆はリベアに味方するはずだ。

 ウェイル達が30%を取得している為、残った割合は16%。

 この16%全てをこの場にいる観衆が持っているとは限らないが、もし仮にそうだし、その全てがリベア側についた場合を計算すると、リベアの株所持はなんと70%にもなる。

 もちろんいくらかの誤差もあるだろう。観衆の中にはリベア倒産に手を上げる者がいるかもしれない。

 だが、例え残りの16%がプロ鑑定士協会についたとしても、結局のところ数は足りない。


『そろそろよろしいでしょうか? プロ鑑定士協会さん。採決を取りたいと思うのですが?』


 勝利を確信したメイラルドの顔はとても腹が立った。

 見下し、嘲笑う、そんな顔。

 それと同時に面白くもあった。


『そうだな。採決、始めようか』


 意外にも素直なウェイルに、メイラルドは面食らったようだ。

 だが、すぐに元の表情を取り戻して、宣言した。


『これより採決を行います!』


 その瞬間、フレスがウェイルに抱きついた。


「……来たよ、ウェイル!!」


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