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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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嫌な予感

『新リベアブラザーズを、ただちに倒産させてほしい』


 ウェイルが出した提案は、想像をはるか斜め上を行くものであった。

 単刀直入。それ以外表現の方法が見つからないほど、その物言いはストレートだった。

 当然一般投資家からは避難殺到。


『ふざけるな!』


『倒産なんてされたら、この株券もゴミになるじゃないか!!』


『損害の責任を取れるのか!?』


 あまりに一方的な罵倒に、ウェイルが静かに言い返す。


「あんたら、その資料は読んだのか?」


 騒いでいた投資家達は多少静かになった。

 おそらく、もしかしたら何か罠でもあるのではないかと疑ったからだ。

 だが、そこに書かれていることに罠などあるはずもない。

 ただ、ウェイルが最も腹が立ったのが『国王の処刑』。これだけだった。


「あんたらがそうやって利益ばかり追い求めるのは、別に悪いことじゃない。投資家なら当然、資金を増やしたいと思う。だが、そのために、全く関係のない国王を殺すというのか?」


 そのことに皆押し黙る。

 殺人を助長するということに、少なからず拒否反応はあるようだ。


「利益の為なら人をも殺す。それじゃ犯罪者と同じだろう。俺は国王に死んでほしくはない。それにお前らの持っている株券など大した数じゃないだろう。30%も持っている俺の方がはるかに損失が出る。だが、その損失を考えてでも、国王の命は守りたいと思った」


 淡々と語るウェイルに、徐々に賛同してくる者も出てきた。

 だが、未だ大多数は、目の前の儲けの方が重要だったらしい。


『し、知ったことか!』


『知らん人間がどうなろうと別に構わない。俺は金さえ稼げたらな!』


 あまりにも見苦しい連中。フレスすら嘆息する始末。


「そうか。勝手にしてくれ」


 ウェイルは説得を諦めた。

 別に説得したところで、状況は変わらないからだ。

 だが、出来ることなら判って欲しかった。

 人一人の命を、金の為に犠牲にすることの愚かさを。


「まあいいさ。とにかく提案させてもらう。新リベアの倒産を。早く議題にあげてくれ」

「……く、いいわ。判りました。議題にあげましょう」


 メイラルドとしても30%の株を所有する株主を無下には扱えない。

 株主総会の議題は、急遽リベアの倒産に関する議題に変更されることになる。







 ――●○●○●○――







 プロ鑑定士協会到着により混乱した会場を収めるため、10分間のインターバルが持たれることとなった。

 サバルの指示で、プロ鑑定士達の持ち物検査が行われた。

 事前発表通り、株主総会には武器や神器の類を持ちこむことは禁止とされている。

 その点においてはウェイル達も承知していたため、当然危険なものは何一つ持ちこんではいなかった。

 ジャネイルらが倒されたと聞き、メイラルドは鑑定士が武器を持っていると睨んでいたようだが、その思惑は外れた形となる。

 せっかくの整った顔が崩れるほど、悔しそうで恨めしそうな顔を浮かべていたのは、正直笑えるところだった。


「本当に危険物は何一つ持ちこんではいないのでしょうね」


 改めてメイラルドが言ってくる。


「当然。それが株主総会のルールだからな? 俺達プロ鑑定士はルールを守ることに置いてはかなり信頼があると思っているぞ。お前らの様に、事前発表した開始時刻をずらす様な卑劣なことはやらないさ」

「……あれは不慮の事故がありまして。発表時の広告が誤っていたんです。その後訂正の発表をしなかったのはこちらの不手際ですから、その点については全面的にこちらが悪いですね。しかし、それは我々にとっての不本意。決してわざととかではありませんよ」

「そうかい。まあ、こうやって無事総会に参加できたんだ。過ぎたことは流そう。互いにな?」


 メイラルドの仕掛けた罠や作戦は、そのほとんどをプロ鑑定士協会に看破されたことになる。

 この場にウェイル達が到着した時点で、その優位性は五分五分となったわけだ。

 つまり、このインターバルの後の論戦が、本当の戦いとなる。


「……我々も準備がありますから、失礼します」


 メイラルドが舞台裏へと去っていく。

 ウェイルにとって、彼女は厄介に違いはないのだが、真に警戒すべき相手ではない。

 その相手こそ、舞台裏でこちらの様子を窺ってきているあの男、サバル。

 メイラルドが去る際、一瞬だがサバルとウェイルの視線が交差した。


(……サバルって奴、おそらく何か大仕掛けをしてくるはず……)


 リベア本社倒産から新リベア設立までの流れを作ったのも、おそらく彼主体のはず。

 メイラルドが人を操ったり、情報を漏えいさせたりする細かい戦略に長けているとすれば、サバルはとにかく大胆に行動してくる。

 本当の脅威は、彼が握っているはずだ。


「……ウェイル、ちょっと……」


 ちょいちょいとフレスが裾を掴んできた。

 少し困ったような顔をして周りをキョロキョロしながら、ウェイルに耳打ちしたいことがあるという。


「あのね、嫌な気配がこちらに近づいてきているんだ」

「嫌な気配……?」

「……うん……。おそらくは…………」


 フレスの非常に優れた聴力や察覚。

 イルアリルマほどではないにしろ、龍特有の気配の感じ方があるようだ。

 フレスの耳打ちの内容は、とても感覚的で、尚且つ断片的な情報ばかりだったが、ウェイルはそれだけである程度の見当は付けることが出来た。


(奴のあのセリフはこういうことだったわけか)


 大きな鐘の音が鳴る。

 インターバルの終了を告げる合図だ。

 これから始まる議題は、ウェイル他プロ鑑定士協会が提案した『リベアの倒産』について。

 王都ヴェクトルビアを賭けた、論戦の開始の合図でもあった。


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