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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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乱入

『それでは、次は王都ヴェクトルビアのリベア自治についての議題を取り上げたいと思います。お手元の資料をご覧ください』


 メイラルドの司会の元、ついにヴェクトルビアの件が議題に上った。


『この度、我々新リベアは全供給量の半分以上のハクロアを取得しました。よって法的にもヴェクトルビアの自治権は我々リベアに移ったのです』


 その発表に、会場からは歓声が上がる。

 午前10時から始まるという本当の情報を与えらえた会場内の株主たち。

 彼らは誰もが新リベア体制派の投資家たちであった。

 中には暴落していた時期の株券を偶然手に入れていて、ここに参加できたという幸運な者達もいる。


『我々新リベアは、このヴェクトルビアの王政や政府の解体をここに提案します! そして代わりにヴェクトルビアのトップに立つのは、我々リベアとその株主となるのです!』


 メイラルドの煽りに会場が揺れる。

 その歓声は凄まじく、会場の外で並んでいた騙された一般客も何事かと騒ぎ出すほど。

 大歓声を浴びて気持ちの高揚したメイラルドは、大げさに手を振って客を一度黙らせると、


『お手元の資料をご覧ください。これらに書かれた全てを実施いたします』


 再び上がる大歓声。

 参加者に配られた資料に記載されたことを、これから全て行うと宣言したのだ。

 その中には聞き捨てならないこともあった。

 それこそ、現国王の処刑。

 アレスの処刑を、新リベアは強硬するということだ。

 どんどんと会場のボルテージが上がる中、メイラルドは最後のこう言い放った。


『新リベア体制による新ヴェクトルビアの建国を、ここに宣言します!!』


 ――うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


 その大歓声は例えるなら爆発に近い。

 歓声とスタンディングオベーションによる拍手に、会場は揺れに揺れた。


「これで決まりですわね」


 メイラルドが恍惚な表情でつぶやいた時だった。

 一瞬にして歓声が鳴りやんだのだ。

 その原因にメイラルドは視線を向ける。

 そこからは煙が上がっていた。

 会場前方入口、および後方入口から同時に爆発が起こっていたのだ。

 唐突な出来事に、拍手していた客達は面食らう。

 そしてもくもく上がる煙の中から、団体が姿を現した。


『――反対だ!!』


 声をあげたのはウェイルだった。

 ウェイルの後に続いたのが、プロ鑑定士46名と、1人の龍、合計47名。

 ずかずかと入ってきたプロ鑑定士達に、周囲の客は度肝を抜かれる。

 そんな客を無視して、ウェイル達は最前列へと向かった。


「もう一度言おう。この提案には反対だ」


 ウェイルはメイラルドに直接伝える。


「な、何を急に!? それに貴方達、どうやってここに!?」


 外にはジャネイル達、中には警備員達を配置させてある。武器も神器も持たせてあるのだ。簡単にここまで来れるはずがない。


「どうやってって。普通に入ったぞ? なぁ、フレス」

「そうだよ。途中警備員さん達とは出会ったりしたけど、みんなちょっとお願いすれば道を譲ってくれたから」


 あの後、無事サグマール達とも合流することが出来、一緒に突入する算段にしたのだ。


「ジャネイル達が簡単に……!?」


 メイラルドは一瞬チラリとサバルの様子を窺った。

 だが、サバルは無表情で、アイコンタクト一つ返してはくれなかった。


「で、ですが、ここは株主総会ですよ? 株券を持たぬ者は参加できません」


 その台詞にサグマールがため息を吐く。


「あのなぁ、プロ鑑定士協会がそんなことも承知していないわけがないだろう。当然株主だよ。ここにいる鑑定士全員な」


 フレスから託された一枚の株券。


「ひ、一株……!?」

「一株でも所有していれば株主だ。参加することに問題はなかろう?」


 そう、株主総会は株主であれば誰だって参加できる。例え所有数が一株でも。

 悔しそうに顔を歪めるメイラルドに対し、ウェイルはニヤリと笑ってやった。


「俺達全員参加させてもらう。そして今の議題には反対だ」


 鑑定士の数人が、いくつかの大きな鞄をウェイルの前に降ろす。

 これこそがウェイルの最終兵器。


「……判りました。参加を許可します。しかし、議題を拒否するということについては承知できません。もし反対なさるというのであれば、我々の発言を否定できる権限を持っていませんと」

「だからさ、俺達は持っているんだよ。その否定できる権利をな」


 ウェイルが鞄を開けて、中身を取り出した。

 その手に握られていたのは、大量の株券。

 その光景にメイラルドは開いた口がふさがらないといった表情だった。


「ここにあるのは俺が所有するリベアの株券、なんと全リベア株の30%分の株券だ」

「な、なんですって……!?」


 これには思わず舞台裏にいたサバルでさえ眼を見開く。

 それこそ一般参加者ですらも、その光景に驚き、そしてプロ鑑定士協会という存在の大きさに畏敬の念を抱いてしまう。


「30%なんてあるわけがない……!!」

「なんなら確認してくれよ。だが先に行っておく。これは全て本物だ。プロ鑑定士がそう鑑定したんだ。異議があるならそれ相応の覚悟でな。さあ、見てくれ」


 株券を改めようと、数人のリベア側の人間が出てくる。

 一枚一枚じっくりと見定めるのにかなりの時間を要した。

 ウェイル達にとっても、この時間稼ぎはかなりのプラスアドバンテージとなり得る。

 だからこそもっとゆっくり見てもらっても構わなかった。


「……メイラルド様。これらは間違いなく本物です……」


 部下の一人がそうメイラルドに報告した。

 実に悔しそうな表情を浮かべ、こっちを睨んでくる。


「さあ、これで拒否権は使えるはず。この議題には反対だ」

「ふん。たった30%程度では全ての拒否は出来ないわ。せいぜいいくつか注文が出来る程度。私達が50%以上の株を持っている限り、ヴェクトルビアの支配は変わらない」

「そうかい。なら俺から一つ提案がある。その発言権だってあるはずだ」


 発言権、拒否権。

 それらは株式の25%以上持っていれば行うことが出来る。

 確かに拒否権の効力は薄い。

 現時点ではリベア側の方が所持株割合が大きいからだ。

 いくらウェイルが拒否したところで、また新たな同じような提案が出され、同じような議論がなされる。結局どこかで互いに妥協していくような方式になるだろう。

 妥協したと言ってもヴェクトルビアが支配されるのは変わりない。

 だからこそウェイルは発言権を利用し、この議題とは全く関係のない提案を行った。

 その提案こそ――


『――新リベアブラザーズを、ただちに倒産させてほしい』


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