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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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リベア最高幹部 サバル

 アムステリアの協力もあり、ウェイル達は無事大ホール東入口から入場することが出来た。

 株主総会が始まって、すでに1時間が経過しようとしていた。



 一時間前。


『これより、新リベアブラザーズの結社式、および株主総会を開催したいと思います』


 当初の予定よりも2時間も早い午前10時に、その宣言はなされた。

 リベアは最初からプロ鑑定士協会の介入を睨んでいた。

 だからこそ、一般市民には情報を一切流さず、予定時刻よりも早い10時に株主総会を始めたのだ。

 これも全てプロ鑑定士協会を欺くため。

 この提案をしたのは、新リベア幹部唯一の女性であるメイラルドだ。

 彼女は人を欺いたり、操ったりするのが得意な女で、ヴェクトルビアの事件を引き起こしたハルマーチの背後で彼を操っていたという。


 彼女は自信を持っている。

 己の人を騙す才と、陰謀を企てる才を。

 彼女の陰謀は、なまじ上手く成功する、味方からの信頼も厚かった。

 彼女が企てた計画ならなら失敗はない、安泰だろう、と。

 メイラルド自身もそう言われることに快感を覚えていた。


 メイラルドは自信たっぷりに言う――


『私の指示に従ってください。株主総会は何の滞りもなく終わらせて見せましょう』


 ――と。


 時間をずらし、周囲にはカモフラージュの一般市民を集めた。

 真の株主だけ来場を完了させ、彼らを守るためにジャネイルとユーリを護衛、警備として配置させた。

 ジャネイルには多くの部下を、ユーリには強力な神器を。

 また株主総会に神器や武器の類の持ち込みを禁止させたのも彼女だ。


 株主総会が始まって早1時間。

 丁寧な言葉遣いで巧みに司会進行を行いながら、完璧なロジックで積み重ね構成した意見や提案を次々と出していくメイラルド。

 生半可な気持ちで彼女の意見に異議を唱えた者は、ことごとく論破されていた。

 彼女の才能は凄い。

 適当な語彙では表せないほど、それくらいの才を彼女は持っている。

 しかし、彼女の言葉を全く信頼していない男が、ただ一人いた。


 それは新リベア最高幹部であるサバルであった。


 サバルは実に慎重な男だった。

 そんなに完璧だと思われる作戦についても、とにかく入念に粗探しを行う。

 味方からは慎重すぎる、だとか、信用していないのか、などと罵倒されることもあるが、サバルは己の行動の大切さを良く知っていた。

 だからメイラルドが考える作戦についても、いくつか問題点を見つけてはいた。


(少しプロ鑑定士を舐めていませんか?)


 舞台で司会と質疑応答を同時に務める彼女を見て、そう疑問を投げかける。


(先日出会った鑑定士、彼には注意しないと)


 確か名をウェイルといったか。

 考えてみれば彼は自分を待ち伏せしていたのだ。

 自分のことをリベアの関係者と知って、あの場に先回りしていた。

 でなければ突然声を掛けてくることもないだろうし、彼の仲間がユーリの計画を邪魔することもなかったはず。ヴェクトルビアの暴動だって簡単に引き起こせていた。


(プロ鑑定士協会の嗅覚をメイラルドは知らないようですし)


 おそらく計画の全てはプロ鑑定士協会に流れているはず。

 情報漏洩対策は万全だっただけに、わずかな証拠や形跡からここまで追跡してきた彼の推理力や行動は称賛に値する。そして非常に厄介だ。


(奴隷商売の証拠を残したのもまずかった)


 旧リベアを倒産させるために残した証拠が、ここに来て響いてくるとは。


(とにかく、メイラルドには秘密にしておかねば)


 サバルの奥の手。それは他の幹部にも知らせてはいない。

 いざとなったときの最終手段。ヴェクトルビア支配の件を無理やり可決させる戦力。


(できれば使いたくはないのですがね……。今後の印象にも関わってきますし)


 株主総会のスケジュールも進み、次の項目の後、この株主総会のメインイベントであるヴェクトルビアの自治についての議題が始まる。

 サバルは資料を持ち、舞台裏で準備を進めていた。

 その時である。


「サバル様。少し厄介なことになりまして……」


 部下の一人が、少し慌てた様子で現れた。


「どうしました?」

「ユーリ様とジャネイル様が、何者かに倒されたようです」

「ユーリはともかくジャネイルまで……!?」


 兵士数人がかりでも抑えられないジャネイルが、何者かにやられた。

 そういう予想がなかったわけではないが、驚きは隠せない。


「一体誰が……?」

「プロ鑑定士協会の連中かと思われます。どうも奴ら、会場内に入ってきているようで」

「……そうですか。判りました。貴方も急いで警護に回ってください。それにいざとなった時、頼みますよ」

「……承知しております。それではただちに警備に行って参ります」


 やはり穴はあった。

 そう、メイラルドは逆に信頼し過ぎている。

 己の実力と、仲間の力を。


(やはりメイラルドは使えませんね)


 サバルはメイラルドの司会を陰で眺めながら、他の部下にアイコンタクトを送ったのだった。


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