表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
185/500

重なる経験 母への理解

「……本当にウェイルさんの言う通りなんだろうか……」


 イルアリルマは察覚と聴力を使って、慎重に周囲の様子を探っていた。

 会場内外両方から感じる明らかに異質な殺気。

 この気配、おそらくプロ。

人を傷つけることに何の抵抗も感じない人間の類。

 その気配はまだ落ち着いているものの、これからどう暴れ出すか判らない。

 冷や汗が流れる。必死に拭う。

 この作戦に参加して、これから大騒ぎを起こそうとする以上、その殺気は私に向かってくることになるのは間違いない。

 そのことが途方もなく怖く、不安だった。


(……でも、でも、私が頑張れば……!!)


 母親を追い込んだ奴隷商売の胴元、リベアに復讐出来る。

 それにウェイルのサポートをすると約束した。

 怖いけど、やり遂げなくてはならない。


「まだ状況に変化はない、か」


 察覚を抑え、聴覚に集中する。

 その瞬間だった。


「――……れより………、ぬしそうか………します……――」


(……この声って……!? もしかして……)


 聞こえる。間違いなく。

 以前中央為替市場でウェイルと会話していた、あの男の声が。

 今の宣言。すぐに女性の声に打って変わったが、間違いなくあの男の宣言だった。

 そしてその内容とは、ウェイルの予想通りの株主総会開始の宣言。


「始まったんだ、ついに株主総会が!」


 イルアリルマは決心する。

 ウェイルに頼まれた、自分の役目を実行すると。

 持っていたマッチに火をつけ、爆竹に点火。

 それを上空目がけて投げつけた。



 ――パパンッ!! パァンッ!!


 爆竹は派手に炸裂。

 爆音と煙が空に上がった。








 ――●○●○●○――








 大きな音と共に煙が上がる。

 何事かと周囲が騒然とする中、イルアリルマは全力で走り始めた。

 騒ぎを聞きつけ、走る私の姿を見て。

 危険な殺気は容赦なく私へと向けられた。

 だから逃げる。とにかくウェイルと合流するために。

 幸い私は半分とはいえエルフ。

 人間よりも運動神経は良い。

 だから追いつかれることはない。

 そう高をくくり、油断したのが間違いだった。


(あ、あれ……?)


 ふわり、と私の体は宙を舞う。

 そう、私には視力がない。

 何かにつまずいた。

 それを察知した時にはもう遅かった。

 迫りくる殺気に足が竦む。

 耳障りな笑い声に、汚い言葉の数々。

 初めて己の聴覚を恨んだ瞬間だった。

 後数秒以内には囲まれる。

 酷い目に遭わせられるのだ。


「いや、いやああああああッ!!」


 脳裏に過ぎるのは奴隷となった母の姿。

 見たことはないけど、想像には容易い。

 母もこんな経験をしたのか。

 そう思えば思うほど、母に対する憎しみは薄らぎ、奴隷商への憎しみは増える。


「おい、ねぇちゃん。一体何の騒ぎを起こしてくれたんだ?」


 案の定、イルアリルマは見下してくる男連中に囲まれた。

 そのどれもが、先日見た男達。

 リベアの護衛という連中だった。


「爆竹って、遊びでも許されることじゃねぇよな、誰かが怪我したらどうするんだよ?」

「俺達は株主総会の邪魔する奴は絶対許さないんだよ。覚悟しろ、おらぁ!」


 男の一人が足を上げ、イルアリルマに向かって振り下ろした。


 ――はずだった。



「はいはーい、その人は治安局が身柄を拘束しまーす!」



 男を突き飛ばし、現れたのはステイリィだった。

 大柄の治安局員を引き連れて、男達を押しのけイルアリルマを取り囲む。


「おいおい、治安局員がなんの用だ!?」

「何って、仕事に決まってるじゃないですか。おーし、お前ら、このテロリストを拘束しろ」

「了解です、上官!」


 ステイリィの指示により、イルアリルマは治安局員に拘束された。


「ちょっと待て、それは俺達の仕事だろ」


 その行動に不服があるのか、男の一人が因縁をつけてくるが、ステイリィはいたって平然に切り返した。


「いえいえ、これは私達の仕事です。貴方達は株主総会を守るのが仕事でしょ? 株主総会は正午からの予定のはず。今はまだ午前10時ちょっとです。でしたら貴方方には今関係がない。爆竹で人を傷つけようとしたのですから、我々が連行するのが正しいです。理解していただけますか?」


 最後に鋭い睨みを送り、ステイリィはイルアリルマを連行していく。


「そうそう、もう一つ言っておきます」


 論破され、無言になっていた男連中にステイリィは振り返る。


「我々治安局は株主総会には手を出せない決まりになっていますが…………私はよく破天荒な行動を取ることで治安局では有名なんです。規則を破る事だって少なくはない。もし何か私の気に食わないことがあれば……。まあ覚えておいてください」


 治安局員を率いて、ステイリィは戻っていく。

 残された男達の妬みの視線ですら、ステイリィにとっては笑いの種だ。








 ――●○●○●○――







 スファイアバンク治安局本部。


「お疲れ様です。リルさん」


 ステイリィはイルアリルマの拘束を解くと、彼女を楽にさせ椅子に座るよう促した。


「うまく行きましたね」

「はい。ですが本当に助かりました。ステイリィさん、ありがとうございます」

「怖かったでしょう。全く、ダーリンったら無茶させるんだから!」

「怖かったです……。でも同時に強くなれた気がします。母のことを理解できましたから」

「母? う~んと、よく判らないけど良かったです。さて、あの爆竹を見てダーリンが行動を起こしてくれたらいいけど」

「大丈夫ですよ。あの人は素晴らしいプロ鑑定士ですから」


 イルアリルマの脳裏には、俺に任せろと言ってくれたウェイルがいた。


(言われた通りサポートはしました。後は任せますよ……!!)


「そりゃあダーリンは最高のプロ鑑定…………うん?」


(リルさんの顔、今かなり女の顔に!? まさかダーリンのこと……惚れた!?)


「だ、ダーリンはあげないからね!!」

「ええ!? 何の話ですか!?」


 イルアリルマのサポートは、しっかりとウェイル達を行動させるに至ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ