表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
178/500

狂人

「さて、色々と聞かないと」


 井戸から水を汲み、男に浴びせかける。


「……グッ……」

「起きた?」


 ぐいっと顎をつまみあげると、男は苦しげに瞼を開いた。


「お、お前……、一体何者だ……?」

「プロ鑑定士よ」


 その言葉に、男はニヤリと笑う。


「プロ鑑定士か。俺に何の用だ?」

「貴方に逮捕状が出ている」


 これは嘘だ。はったりもいいところ。


「嘘だな……。俺は何もしちゃいないさ。善良な一般市民よ」

「あのね、そんなこと私にはどうでもいいの。貴方が本当に一般市民でも何でも、私が知りたいことを吐かないと拷問を続けるだけよ?」


 アムステリアは、本当に楽しいと言わんばかりに愉悦的な表情を浮かべる。

 それでも男は動じない。


「プロ鑑定士がそんなことしたら……大問題だぞ……!!」


 などと逆に脅してくる。


 だが、男は知る由もなかった。

 このような態度を示す相手こそ、アムステリアの大好物だということを。


「大問題? 別にいいわよ? 別にプロ鑑定士の資格に拘ってるわけじゃないし。私ね、もしかしたら本音では貴方を拷問したいだけかもしれない」


 言い終わるか早いか、アムステリアは男の腕を両手で掴んだかと思うと、膝を関節目掛けて振り上げ、そのままへし折るかのように蹴り飛ばした。


「あぐぁあああああああ!!」

「あら、いい声」


 悶える男の顔を右手でギリギリと握り抑え付け、彼の耳元でさらに問う。


「貴方の本当のお名前を教えて? こっちとしてはすでに知っているのだけど、貴方の口から解答を聞きたいわ」

「何故鑑定士にそんなこと――――あぐぁあああああああああ!!」

「あー、楽しい。そうね、もう少しとぼけてくれてもいいわ。楽しみが増えるもの」


 男は耐えられず絶叫を上げた。

 アムステリアが男の鼻先めがけて拳を振ったからだ。

 鼻の骨は粉々に折れてしまったことだろう。


「腕の骨は大丈夫よ? 手加減したから折れてはいないわ。でも鼻は一発だったわね?」

「……あが、あががが……!!」


 ここに来て、男はようやく悟った。

 この女は狂っていると。

 普通のプロ鑑定士には立場というモノがある。

 変な噂を立てられでもしたら信用はがた落ち。仕事も回ってこなくなる。

 下手に騒がれることを恐れ、どうせ何もしてこないだろうとたかをくくっていた。


(……こいつは例外だ……!!)


 あまりにもイレギュラーな存在に、今になって後悔し始める。


「俺はヴェクトルビアに住み一般人で……、アンタらに捕まるようなことは何も……!!」

「ええ、そうかもね。もうどっちだっていいわ?」


 アムステリアの目に光はなかった。

 モードに入ったのだ。

 そう、彼女が人を捨てる時のモードに。


「一つだけ教えておく。私ね、元『不完全』のメンバーなの」

「奴らの!?」


 これは効いたらしい。

 『不完全』と聞いて恐怖を覚えるのは、奴らのことを熟知している者か、奴らと付き合っている者。

 今の反応だけで、一般市民でないことは明確だった。


「今更人一人殺すことなどわけない。教えてくれたら、命はとらない。色々と情報は教えてもらうけど」


 男は勘念した。

 元『不完全』とはいえ、一度は所属していた者。

 この言葉は脅しじゃない。

 むしろ率先してやりたいと思っている人種。


「俺の名前は……ユーリという」

「ユーリ。やっぱりね。ユーリ・リグル・リベア本人ね」

「…………ああ」


 資料にあった名前と完全に一致した。


「私はあんた、いやあんた達のことを色々と知っている。今更隠したところで無駄だと理解して」

「判ってるよ。いいよ、全部話してやる。どうせ今更あんたらに止められることはない」

「へぇ、殊勝な心がけね。でもいいの? もし鑑定士の私に話したら、アンタは一生牢獄、あるいは処刑になるかもしれないのよ?」

「俺が何か悪いことでもしたってのか? 精々兵士一人殴った程度で」

「家族、殺してるでしょ?」

「……なんだ、やっぱり知ってたのか」

「言ったでしょう。全て知ってると。今私を試したのね?」

「まあな。今の回答次第じゃ多少はぐらかしてやろうとも考えたが、これで腹を括ったよ。それに、俺は牢獄に行くことも処刑されることも決してない。アンタが俺を殺さなければの話だが。さあ、何から聞きたい?」


 傷だらけの男、ユーリは、ゆっくりと背を井戸の壁にもたれる。


「どうして暴動を起こしたの?」

「ハクロアの価値をさらに下げるためだ」

「ハクロアの価値を下げて、一体何をするつもりなの?」


 ユーリが語った真実に、アムステリアは珍しく驚いた。

 まさかそんな計画があったとは、予想だにしていなかった。

 ただちにウェイルに伝えねばならない。

 アムステリアはユーリを近くの柱に縛ったのち、電信を打ちに治安局へと向かったのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ