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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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中央為替市場

「ウェイル! こっちだ!」


 入都を済ませるとすぐ、サグマールが三人を見つけて声を掛けてくる。

 サグマールは一足早くスフィアバンクへと向かい、情報収取をする役を買って出ていた。


「どうなっている?」

「どうもこうも、ハクロアの価値は落ちる一方だ。もうすでにレギオンに負けているよ」

「もうレギオンに!? 早くないか!?」

「情報が回るのが早かったみたいだな。聞く話によると、一昨日の夜からすでにハクロアをレギオンに交換してくれという連中が殺到しているらしい。お前と仲のいいサスデルセルの老人、確か名前をヤンクとか言ったか? デイルーラ社の。その息子、つまり現デイルーラ社の社長も先日見えて、ハクロアやリベルテをほぼ全て売却し、レギオンとそして金を購入していった」

「デイルーラ社まで動いたのか……!!」


 リベアブラザーズと並ぶ大企業デイルーラ社。

 大陸屈指の財力を持つ貿易企業だ。

 彼らが動いたとなると、もうハクロアの価値は絶望的だと言える。


「他の貨幣はどうなっている!?」

「大きく変化したのはリュオウとカラドナだな」


 カラドナ。その貨幣の名前に、内心胸に詰まるものがある。


「リュオウは値段が上昇したよ。だがカラドナは……」

「判ってるさ。クルパーカー戦争の影響で下落したんだろ」

「その通りだ。下落幅は大したことはないが、それでも皆不信感を持っている。現時点での価値上昇は考えられない」


 カラドナはイレイズの故郷、クルパーカーが発行している貨幣である。

 元々そこまで価値のある貨幣ではない。

 戦争の折に一気に価値が下落し、信頼度も低かった。

 しかし、イレイズの努力があってか、最近は少しずつ価値を持ち直してきたところだったのだ。


「せっかく価値が上がってきたところだったのにな……」

「サラー達、大丈夫かな……?」

「イレイズは腹黒いから何とかなっていると願いたいところだ」

「まあウェイル、立ち話もなんだ。とにかく中に入ろう」


 そうサグマールに案内されたのが、ここプロ鑑定士協会スフィアバンク支部。

 皆せかせかと忙しそうに働いていた。


「こちらへ来てくれ」


 サグマールの指示に従い、やってきたのは地下室。

 部屋には大量の資料が集まっていた。


「ウェイルよ。こうなってしまっては、ハクロアやリベルテのことは銀行に任せよう。我々は、我々にしか出来ないことをした方がいい」

「……そうだな」


 それはウェイルも感じていた。

 何せ価値の暴落を知ったとき、どうすれば良いか頭に全く何も思い浮かばなかったのだから。

 ウェイルは鑑定士だ。専門は鑑定や贋作士を逮捕することにある。

 決して証券マンではないのだ。


「俺達に出来ること、それはこの事件を起こした張本人だと思われるリベアブラザーズを徹底的に調べることだ」


 リベアブラザーズ。

 倒産した企業のはずなのに、未だ暗躍していると睨んでいる会社。


「だが、どうすればいい? リベアの行動について、俺達はあまりにも無知識だ。奴らがこの混乱を起こしたことは間違いない。だが、その動機や目的についてはまだ判らない」

「それについてはこれから調べればいい」


 情報を漏えいさせた新聞の出版社はリベアの息のかかった企業だった。

 その企業に突撃する手もある。


「出版社へ乗り込むか……?」

「お前は止めておけ。お前は国王アレスと親交があるんだろう。今、国王に近しい者がヴェクトルビアをうろつくのは危険だ」

「予想は出来ていたが、やはりヴェクトルビアは今……」

「暴動ってほどのことは起きていない。だが、民は国王に事件の説明を求め王宮に殺到している状況だ」


 ハクロアのことも心配だが何よりアレスのことが心配だった。


「アレス……」


 フレスとてお世話になったばかりの相手だ。心配する色も濃い。


「そういうのはアムステリアの仕事だ。先程アムステリアから電信を貰った。ウェイル達がスフィアバンクに向かった後すぐ、自分はヴェクトルビアへ向かったと。ヴェクトルビアの状況は逐一報告してくる手筈だ」


 シュラディンがウェイルの部屋に駆け込んできた後、詳しい状況報告ののち、今後の行動について話し合ったのだ。

 サグマールは一足先にスフィアバンクへ。

 シュラディンは元リベア本社のあったラングルポートへ。

 アムステリアは、ハクロアの発行しているヴェクトルビアへ。

 そしてウェイルはフレスの到着を待った後、サグマールを追いかける手筈にしていたのだ。


「今は現状把握が最優先だ。それにここスフィアバンクこそ、もっともリベアの連中が現れる可能性が高い場所だ」


 サグマールの指摘は正しい。

 現状、何がどうなっているか、しっかりと見極めなければ敵の手のひらで踊ることになる。

 さらに、リベアの連中がこの都市を訪れる可能性は非常に高い。

 大量に集めたレギオンを、どうにかして利益にするつもりなら、必ずこの都市に来なければならないからだ。


「……そうだな。アムステリアを信じよう。俺達は現在の為替の情報を見てくるよ。何か判るかもしれない」

「そうしろ。アムステリアからの電信が届き次第、すぐに知らせる」

「頼む」


 ウェイルとそのお供二人は、今すぐ中央為替市場に向かうことにした。









 ――○●○●○●――


 







 中央為替市場。

 この市場には、大陸中に存在する貨幣、並びに会社の株価が、掲示板に一斉貼り出しされてある。

 情報の更新は一日五回。

 午前九時の更新から午後九時の更新まで、三時間おきに行われている。

 ただ今の時刻は午前11時。

 後一時間ほどで情報は更新される。


「ハクロアは……あった!」


 フレスの指さす先の掲示板に、為替の情報があった。


「……こ、これは……」

「……えっと……」


 驚くウェイルの隣で、戸惑っているイルアリルマ。


「……すみません、私、掲示板は見えないんです」

「ああ、そうか。視力がないんだもんな」


 あまりにも常人と変わらないイルアリルマだ。完全に視力のことを忘れていた。


「察覚では無理なんだな?」

「はい。察覚はあくまで、人や物の気配を感じ取るもの。気配がないものは読み取れないんですよ。だから私、本なども読めないんです。いつも誰かに朗読して貰ったりしてるんです」

「なるほどな……。なら、俺が説明してやる」


 ハクロアの推移の描かれたグラフを見る。

 それは見事な右下がりの坂を描いていた。


「新聞の情報が出回る六時間前あたりから、すでに暴落の傾向はあったようだ。新聞社から漏れたのか、他にも情報ルートはあったのかは判らない。ハクロアの価値はここ数日で半額以下にまで落ち込んでいる」

「半額以下ですか!? レギオンよりも下がったということ……!?」

「もっと下がる可能性は高い。何せ今ヴェクトルビアでは暴動が起きる寸前になっているらしいからな。実際に暴動が起きれば。価値はもっと下がる」

「ウェイル! カラドナも!!」

「これは……!!」


 部族都市クルパーカーが発行するカラドナも、その価値を大きく落としていた。


「イレイズさん達、どうするんだろう……」

「金融の引き締めをして価値を高めるしか方法はないだろうな」


 とはいえここまで値段の落ちたカラドナだ。

 現状立て直し策を取るのは無謀だといえる。

 今は投資家や企業から言わせると軽いお祭り騒ぎなのだ。

 騒ぎに便乗して儲けようという輩もたくさんいる。

 現に今、ハクロアをメインに資産を蓄えてきた会社の株価が下落しつつある。

 その株を買って、空売り、つまり安く買い、少しでも値段が上がれば即売るという、いわばマネーゲームのようなことが横行しているのだ。

 為替購入窓口を見てみる。

 やはりと言うべきか、多くの人がレギオンに殺到し、その値段の上昇に一役買っていた。

 逆に値の下がったハクロアやレギオンを買い占めている連中もいる。

 騒ぎが収まった後のことを考えての行動だろう。


「ウェイル! ボク達は、今何をすれば……!?」

「すまない、フレス。正直なところ、俺にもよく判らん。人間為替市場の時とは状況が違うからな……」


 あの時は敵の動機が明確で、対策も取りやすかった。

 だが今回の相手はまともに姿すら見えない連中だ。

 それに、リベアに関する今までのウェイルの行動は、おそらく、とか、たぶん、等と言った仮定や推定の類で動いている。

 実際にリベアがどう行動しているか等、知る由もない。


「とにかく、12時まで待とう。情報の更新を見ないと判断できない」


 次の情報更新まで、後30分であった。


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