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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第八章 銀行都市スフィアバンク編『決戦! 波乱の株主総会』
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銀行都市『スフィアバンク』

 芸術大陸――『アレクアテナ』。


 そこに住まう人々は、芸術や美術を嗜好品として楽しみ、豊かな文化を築いてきた。


 そしてそれら芸術品を鑑定する専門家をプロ鑑定士という。


 彼らの付ける鑑定結果は市場を形成、流通させるのに非常に重要な役割を果たしている。

 

 アレクアテナにおいてプロ鑑定士とは必要不可欠な存在なのである。


 そのプロ鑑定士の一人、ウェイル・フェルタリアは、相棒である龍の少女フレスと共に、大陸中を旅していた。


 ついに始まった、アレクアテナ大陸三大貨幣の一つ『ハクロア』の価値の暴落。

 その陰に潜む、陰謀の影。

 プロ鑑定士協会は、試験を打ち切り対策に乗り出した。

 経済崩壊すら危ぶまれる状況に、アレクアテナ大陸は恐怖に包まれていた。







 ――●○●○●○――







 プロ鑑定士試験の最中に、とある情報が大陸中を駆け回った。

 王都ヴェクトルビアで起きた『セルク・オリジン』を巡る事件の真相である。

 貴族が起こした事件を国王が揉み消したと、国王アレスに対する悪意だらけの記事に、住民達は皆驚愕した。

 記事に書かれていたことは概ね事実であることも、事件の収束を難しくしている要素であった。

 王都の様子は判らないが、おそらくは王宮へ民が押し寄せている頃だろう。

 情報流出によって、国王アレス、ひいては王都ヴェクトルビア自体の信頼が暴落したと言える。

 その影響の被害をもっとも大きく受けるのは、当然貨幣だ。

 先日まで保っていた価値は、すでに半値まで下がっている。

 あらゆる方面から売り注文が殺到し、その影響はまるで連鎖反応の様に他の貨幣へと飛び火していった。

 三大貨幣の一つであるリベルテも、ヴェクトルビアと同じく大きな事件に遭遇したばかりだ。

 ここ最近、大きな事件が起きた都市の発行する貨幣は、その値を大幅に下げているそうだ。

 リベルテやハクロアと同じ状況になる可能性がある、と投資家が慎重になったことが原因だと予想される。

 対するレギオンは好調だった。

 三大貨幣の中でも、唯一最近大きな事件を起こしていない貨幣で、ハクロア、リベルテと違い安定するということで価値を上昇させた。

 尚、それと同様の理由で金の値段も大幅に上昇した。

 1トロイオンス当たり約14000ハクロアだったのに対し、現在の取引価格は1トロイオンス当たり70000ハクロアと、考えられない価値になっている。

 ウェイル達が向かったのは銀行都市『スフィアバンク』。

 大陸中に散らばる都市銀行の本部が設置されている都市だ。

 この都市は特殊都市である。

 まず、この都市には住民権がない。

 スフィアバンクは、銀行が集まる都市故に、防犯対策が万全だ。

 最高の防犯対策。それは人間を近づけないこと。

 その理由に基づいて、この都市では銀行で働く者以外の居住が禁止されている。

 基本的に一般市民もなかなか入ることが難しい都市で、入るには当然認可や、チェックを受けなければならない。

 都市の大きさは非常に小さく、都市の周囲には巨大な防壁と、神器による結界が張り巡らされている。

 都市に入る方法も汽車のみで、外から見ると、それは難攻不落の要塞の様である。


「銀行都市スフィアバンクは、アレクアテナの経済の中枢だ。常に警備員が目を光らせている。フレス、中に入った後、あまり目立つような行動は避けてくれよ」


 プロ鑑定士はチェックなしで入都できるものの、何の行動をするにしろ監視が付いてまわる。

 少しでも不審な行動を取ろうものなら、即座に拘束されてしまうことだろう。

 大陸中の金融を一括に扱う都市なのだ。それも仕方ないといえば仕方のないことだ。

 スフィアバンクについてしっかりと注意事項を聞いたフレスと、後をつけてきたイルアリルマは深く頷いた。


「私、スフィアバンクについて話には聞いたことがあったのですが、まさかそこまで厳重だとは……」

「ここが潰れたらアレクアテナ大陸は終わりだと言っても過言じゃないからな。最高クラスの神器を集中させて、都市を守っている」

「どうして銀行をひとまとめにしてるの? リスクが集中するだけなんじゃ?」

「フレス、良く勉強してるな。確かに集中することでリスクは高まる。人災だけじゃなく自然災害の危険だったあるしな。だが、逆にメリットもあるんだよ」

「メリット?」

「そうメリット。それは為替情報をいち早く集めることが出来るということだ。アレクアテナでの情報伝達手段はそう多くない。手紙や伝言、古いもので言えばのろし。最近もっともよく用いられているのは電信だ。電信は従来の伝達手段に比べたら格段に速い。しかし、その電信も万能じゃないんだ」


 ――電信。

 一般的にはそう呼ばれる、単方向情報伝達手段のことである。

 この技術の多くには神器が用いられている。

 まだ大陸の科学力では、人の手で電信のような技術は発明されていない。

 神器を用いる以上、便利なことも多いが問題点だって多い。


「電信は神器を使う以上、量産が出来ないんだ。個人はもちろん、各家庭に一つとはいかないんだ。例外として全ての汽車の中には一台だけ用意されているが、それだって鉄道会社が大金をはたいているからこそ為し得た事例だ。電信は数が少ない。量産が出来ない。そして量産が出来ない故に値段が高い。そしてもう一つの問題。それは伝達手段が単方向であること」

「単方向? よくわかんない」

「単方向って言うのは、一方的ってことですよ。電信を打って情報を送ると、今度は相手が送り返してくるまで待たないといけないですよね? これってつまり、情報伝達時には一方的に送っているでしょ? これが単方向って意味なの」


 フレスに判りやすいよう、イルアリルマは噛み砕いて説明した。


「普通に会話していることも単方向?」

「会話は、相手の話の途中でも、言葉を割り込ませることが出来るでしょう? 何か伝えたいことがあれば、すぐに伝えることが出来る。相手が情報伝達をしている途中でもね。これは双方向っていうの」

「貨幣の価値ってのは刻々と変化し、情報も同様に変化する。単方向での通信ってのは時間が掛かるんだ。相手の返事を待っている間、相手に為替の情報を伝えている間でも情報は変化する。これでは取引なんかには使えない」


 電信は確かに手紙や狼煙に比べ、伝達速度が早い。

 しかし、情報を伝えることに置いてはまだまだ遅いのだ。


「もっとも早い情報伝達手段は、会話だ。人と人の会話が最速なんだ。だからこそ、この都市では銀行が集まっている。すぐに隣に会話しに行けるようにな」


 そう、つまりはそういう理由だったのだ。

 会話こそが最も効率的で早い伝達手段ならば、それがしやすいように近くに集まってしまえばいい。

 スフィアバンクという都市はそういう理由から形成されている。


「もうじき到着だ。二人とも、準備しろ」


 ついに到着した銀行都市。

 三人はそそくさと汽車から降りて入都手続きを受けたのだった。


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