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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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プロ鑑定士試験、中断

「たっだいま~~!!」

「帰ったよ~~~、ウェイル兄~~~!!」


 アレスから借り受けた鑑定依頼品をプロ鑑定士協会に提出し、第三試験も一応終えた形となった二人は、ウェイルの部屋へと戻ってきていた。

 土産話でも聞かせてやろうと嬉々として扉を開けた二人だったが、


「……あれ? ……なんなんだろう、この雰囲気……」


 部屋にいたのはウェイルとアムステリア。

 二人が帰ってきたことにも気づかず、何やら深刻な表情で話し込んでいた。


「あ、あの~~、ウェイル、帰ってきたんだけど……」


 なのでこっそりと声を掛けると、ようやくウェイルが気づく。


「ああ、帰ってきてたのか」

「うん。どうしたの? テリアさんと何かお話してたみたいだけど」

「実はな、大変なことが起こったんだよ」


 シュラディンがウェイルの元へ駆け込んできた理由。

 それは三大貨幣の一つ、『ハクロア』の価値の暴落が始まったということだった。


「ハクロアが!? どうして!?」


 少し前までヴェクトルビアにいたが、王都に変わった様子はどこにもなかった。

 それにもしハクロアが大変なことになっているのであれば、アレスがそれなりの対応をしていたはずだ。

 少なくとも昨日までは何も起きてはいなかった。


「情報が出たのはついさっきなんだよ。これを見てみろ」


 そう言ってウェイルは、アムステリアと覗き込んでいたとある新聞を渡してくる。


「新聞……?」


 難しい単語などフレスには判らないこともあるため、ギルパーニャに手伝ってもらいながら記事を探した。


「……え……? ヴェクトルビアで起きた事件、実は貴族の犯行だった……!?」


 該当記事を真っ先に見つけたギルパーニャがそう呟くと、フレスの目が見開く。

「ギル、ちょっと見せて!」


 載っていた。

 その新聞には、当事者しか知らないことがズラズラと。

 嘘偽りの一切ない、純粋な真実だけが。


「ど、どういうこと!? これ!?」

「俺にも判らん。王都がハクロアを守るために必死で隠してきたことが、ついに報道されたんだよ」


 ハルマーチの実名も、家系、背後の関係者まですべてが晒されていたのだ。

 記事の中には国王アレスが情報隠ぺいを企んだと、まるで悪役だと言わんばかりに記事が誇張されている。


「この記事、一体誰が!?」

「リベアの関係者よ」


 答えたのはアムステリア。


「リベアのことを調べていて判ったのだけど、リベアの系列企業には出版社もあるの。その新聞、その出版社が発行していたわ」

「メイラルド本人の指示だろうな。当事者として事件を知っている者は俺、フレス、アレス、ステイリィ、そしてフロリアとハルマーチくらいなものだ。当然俺達は何もしていないし、アレスだってしないだろう。フロリアは、おそらく関係していない。ハルマーチなんて監獄の中だ。現状、外部に情報を漏らす者なんていないんだよ。なのに漏れた。であればハルマーチの関係者しかない。状況的にメイラルド以外考えられん」


 出版社を見ても状況を見ても、そう考えるしかないのだ。


「だが、情報が漏れた以上、犯人を捜すことは無意味だ。とにかく、このハクロアの暴落を止めないと……!!」


 ハクロアが大陸に与える影響は凄まじい。

 もっとも流通している貨幣の暴落。

 このまま推移すれば経済崩壊を起こしかねない。


「フレス。ギル。冷静に聞いてくれ」


 ウェイルは改めて二人と向き合った。

 事件が起きた以上、避けようもない現実を二人に伝えねばならない。


「今、プロ鑑定士協会では、この経済危機の問題で手一杯になっている。したがって、プロ鑑定士試験は一旦ここで延期することになった。再開の目処は立っていない」


「…………え…………」


 ウェイルの言葉に、一瞬呆気にとられた二人。


「試験、中止になるの……?」

「最悪そうなる可能性もある。今のところは延期ということになっているが」

「冗談じゃないよ! ボク達、必死にここまで来たのに!」


 フレスは肩を震わせていた。

 気持ちは判る。

 フレス達がこの試験に、これまでどれほど頑張ってきたかウェイルはしっかりと見てきた。

 フレスだって、ハクロアの暴落は大事件だと理解している。

 試験なんかよりも優先しなければならない問題であると。

 それでも感情が制御できなかったのだ。


「……フレス……」


 意外にもギルパーニャは冷静だった。

 フレスが自分の代わりに叫んでくれたからかもしれない。

 自分一人ならば、同じように叫んでいただろう。


「……でも……でも……!!」


 唇を噛みしめ、思いっきり拳を握りしめた後。

 フレスはすっと力を抜いた。


「仕方ないよね。だって大事件が起きちゃったんだから」


 その目はすでに真剣そのものだった。

 切り替え。スイッチ。

 これまで経験してきた事件の数々に、フレスも成長している。


「プロ鑑定士志望として、我が儘は言えないね。むしろ鑑定士ならこの事件を見過ごせるはずないから……!!」

「フレス。その通りだ。お前は立派な鑑定士なったな」


 ウェイルは、フレスの頭を撫でようとしたが、その手が止まる。

 代わりに肩を叩いてやった。

 もう、頭を撫でてやるような子供ではない。

 そう一瞬で感じたのかもしれない。

「プロ鑑定士試験を再開させるには、これから行かなければならないところがある。ついてこい」

「がってん! 師匠!」

「アムステリア、手筈通り俺達は先に行く。そっちは頼む」

「ええ、任せておいて」

「ギル、お前は急いでシュラディンと合流しろ」

「あ、うん!」


 ウェイルとフレスは、必要最小限の荷物だけ持って部屋を飛び出していった。


「あの娘、結構鑑定士らしくなってるじゃない? ねぇ?」


 アムステリアがギルパーニャに声を掛ける。

 実のところ二人は初対面だ。

 ギルとしては突如他人に話しかけられ戸惑った部分もある。

 しかし、フレスについては、どうやら共通の念を抱いていたようだ。

 だからこそ、すんなりと返事が出来た。


「そうです。フレスは、最高の鑑定士ですからね!」


 さて、自分はすぐにシュラディンと合流せねばならない。

 師匠はすでに対策に動いているはずだ。

 すぐに師匠を支えないと。

 そしていずれは自分もフレスの様に強い鑑定士を目指そうと。

 ギルパーニャはそう誓ったのだった。



「…………私もいかないと…………!!」



 ウェイル達の後を追う影に、二人は気づいていなかった。


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