表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
171/500

ハクロア暴落

 電信を打つと、サグマールとアムステリアはすぐさま駆けつけてくれた。

 もっともシュラディンは、急ぎの用があるとのことだったので、少しばかり遅れるそうだ。


「ねぇ、ウェイル。リベアが何をしたか判ったって言ってたけど、どういうことなの?」

「ワシの方でも調べてみたが、リベアの目的なんぞ見えてこなかったぞ」


 口々に聞いてくる二人を、手で制す。

 前置きする時間すら惜しい。

 ウェイルは簡潔に述べた。


「リベアがレギオンに集中したのは、読みでも偶然でもない。あれは操作だったんだ」

「操作、だと? リベアはレギオンの価値が上がる様に市場を操作したということか?」

「それは違う。そんなこと、大企業と言えど出来るはずもないだろう」


 リベアほどの大企業であるなら、大規模な市場操作も可能かと問われれば可能である。

 だが、それによって儲けた金額と、失うものの価値を天秤に掛けると、割のいい商売ではない。

 何せ金融操作と言うのは多くの信頼を失うことになる可能性が非常に高いからだ。

 レギオンでのみ物を販売する。レギオン以外の貨幣で物を購入する。

 それは他企業から見れば異質だし、市場を監視している者から言わせれば『臭い行為』とみなされる。

 自分は今市場を操作してますよ、と大々的にアピールするのも同じだ。

 出る杭は打たれる。商売成功のコツは、とにかく目立たないことなのだ。


「操作するにしたって、レギオンの価値が下がればそれで終わりだ。そんなリスキーな真似を大企業のトップがするわけない」

「……とすれば、リベアは何を……?」

「簡単だったんだよ。三大貨幣の中で、レギオン以外の貨幣の価値を意図的に低くしてしまえばいい」

「…………!! なるほど……!!」


 発想の転換だ。

 一つに絞るのではなく、周りを蹴落とす。

 これが一番確実で安全な方法。


「リベルテの発行都市は為替都市ハンダウクルクス。人間為替が発覚し、リベルテの価値は大暴落したことは記憶に新しいだろう。そしてもう一つは王都ヴェクトルビアが発行しているハクロア。サグマールは知っているだろうが、ヴェクトルビアでは以前大事件があった。その首謀者は貴族だったんだよ」


 セルク・オリジンを巡る事件に関し、ウェイルはサグマールに嘘偽りひとつなく報告している。

 よってサグマールはピンと来たみたいだった。


「ハンダウクルクスからは奴隷商売の証拠が出ている。そしてリベアからもだ。これは偶然か? いや、そんなわけがない。なぁ、サグマール?」

「そうだな。間違いないだろう。ハンダウクルクスの奴隷商売を斡旋していたのはリベアに間違いない」


 それを確信するに十分な資料をステイリィから得ている。まず間違いない。


「王都ヴェクトルビアでの犯人はハルマーチ・トヴォン・ヴェクトルビアという貴族だった。貴族は都市を代表する者。そんな者が連続殺人事件を起こしたんだ。民が知れば、信用はガタ落ちだ。それを踏まえて、資料を見て欲しい」


 ウェイルがステイリィから得た資料を二人に手渡す。

 先に気付いたのはアムステリアだった。


「へぇ、メイラルド・トヴォン・ヴェクトルビア、ねぇ……。名前がそっくりだけど、偶然なわけないよね?」


 その問いに、ウェイルはコクリと頷いた。


「つまりだ。俺はハクロアとリベルテの二つは、たまたま事件が重なって価値が落ちたと思っていた。でも、実際はそうじゃない。この二つの貨幣は意図的に価値を下げられたんだ」


 やったのはもちろんリベア。


「ハンダウクルクスの奴隷貿易はリベアの指示。そしてヴェクトルビアの事件は、リベアの者が内部から起こさせた。つまりリベアは、わざとハクロア、リベルテの価値を落とさせたということだ。そして相対的に価値の上がるレギオンを買い占めた……!!」


 価値の下がった貨幣を売りきって、これから上がるであろう貨幣を買う。

 投資した金額が桁違いだろうから、その儲けは膨大だ。


「リベアの目的が見えてきたわね……!!」


 為替売買によって大儲けできる方法。

 それを強引にやってきたのだ。

 膨大な利益を得るために。


「では何故、奴らは会社を潰したのだろうか」

「儲けを独り占めするつもりだったのかもしれないな」


 儲けの取り分は当然人数が少ないほど一人当たりの配当が多い。

 リベアという大人数を捨てることで、トップ連中が儲けようとしたのだろう。

 サグマールの問いにそう答えたウェイルだったが、自分で言った後ではなんだが、何やら居心地の悪さを感じていた。


(リベアが会社を潰した理由……? これで本当にあっているのだろうか……?)


(――そもそも、この目的自体が本当にあっているのだろうか……?)


 ウェイルがそこまで思案した時、ウェイルの部屋の扉が突然開いた。


「ウェイル! いるか!?」

「師匠!? ど、どうした!?」


 息を切らせてシュラディンが部屋に走り込んできたのだ。


「大変だぞ、大変なことが!!」

「ちょっと落ち着いてくれ。今にも倒れそうじゃないか!」

「これが落ち着いてなんかいられるか! それにワシの体なぞ今はどうでもいい!! それよりも、だ。ついに恐れていた自体が起こったぞ……!!」


 その形相に、一同息を呑む。

 シュラディンは一呼吸つくと、言い放った。


「ハクロアの価値が……ついに暴落を始めた…………!!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ