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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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黒幕判明

 次の日、つまりはフレス達が戻ってきた日の朝こと。

 ウェイルはフロリアから得た情報を元に、現状の整理を行っていた。

 贋作士集団『不完全』と、大陸有数の大企業であったリベアブラザース。

 これらが裏で繋がっていたという情報を、これまでの情報にプラスして、新たな見解を出さなければならない。

 無論、手に入れた情報は電信にて、シュラディンやアムステリア、口頭にてサグマールへ伝えてある。

 100万ハクロアもした情報だ。有効に用いなければならないだろう。


「それにしても引っかかる」


 ウェイルが考えていたのは、フロリアの行動。

 どうして彼女はお金を要求してきたのだろうか。

 フロリアのほどの実力があれば、金に困ることなどないだろう。

 たとえ逃亡生活を送っているとしても、彼女であればいかなる手段をも用いて資金を用意するだろう。

 その日の生活に困ることなどありえない。


「そう考えると、あの金は何かを一気に買ってしまいたい、とそういうことだな」


 逃走前にも、買いたいものがあると言っていたし間違いないだろう。


「そしてそれは俺の為にもなり、そして……」


 ボソっと最後に呟いたフロリアの言葉。

 声が小さくて聞こえ辛かったものの、確かにこの耳に入ったとある人物名。


「まさか、フロリアがなぁ……」


 しかし考えられないことじゃない。

 その名前が出てこなければ信じることは出来なかったかもしれないが、名前が出たのなら別だ。


「問題は何を買うか、か」


 結局それが判らねば意味はない。


「何かヒントはないもんかね……」

「ヒントですか? う~~~ん」


 いつの間にか隣で腕を組み考えているのはステイリィ。


「いつ来たんだよ……。仕事はどうした?」

「これも立派な仕事ですよ。この部屋は何者かによって壁に穴を開けられた。器物破損ですよ? これ。私はその調査です」

「通報すらしていないのに、よくもいけしゃあしゃあとそんな嘘を言えるな」


 どうやらまたも仕事を放ってここに来たらしい。

 もはやそれを咎めたところで意味のないことを知っているので、これ以上言及することは止めにする。


「まあいい。それで結局何しに来たんだ?」

「報告ですよ。実はあの後、治安局本部がある都市ファランクシアへ使いを走らせ、リベアの一族惨殺事件についての詳細な書類を入手し、調査したのです。これがその複写です」

「本当なのか……!?」


 これは貴重な情報だ。

 サグマールも多少は事情を知ってたが、実際にその現場に足を運んだわけじゃない。

 だがこの資料は、惨殺現場を直に見てきた者が書いた書類。

 文面のリアリティが凄まじいものであった。

 流石に書類の原本を持ちだすわけにはいかなかったらしく、ステイリィは、その内容を全てコピーした書類を持ってきてくれたのだ。


「部下のジョバンニが一晩でやってくれました」

「…………そうかい」


 相当の量がある書類だ。

 それをたった一晩でやらせるとかステイリィという奴はなんと横暴な上司であろうか。

 その部下の悲痛の叫びが、安易に想像できる。


「これは本当にありがたい。今度ジョバンニに飯を奢ると伝えておいてくれ」


 書類を読み進めると、気になっていた項目が目に入った。


「リベア家の死亡者リスト……」


 リベアの一族は、全部で12人いるらしい。

 すでに現役を引退をしている当主を含め、死体が見つかったのが8人。

 残り4人は行方不明で、未だ捜索中となっているそうだ。


「この4人、何か接点はあるのか……?」


 性別、名前、担当していた企業。

 それらを示し合わせても、これと言って統一された者はなかった。


「フロリアの話では、こいつらの内1人。いや、全員の可能性もあるが、生きて何かしでかそうとしている」


 一人一人のプロフィールを確認していく。


「当主の長男サバル・ヴィオ・リベア、三男、ジャネイル・ソル・リベア。当主の弟の長男ユーリ・リグル・リベア、最後に次女メイラルド・トヴォン・ヴェクトルビア」


 名前を口に出して読み上げていると、最後に読み上げた名前に違和感を覚える。


「メイラルド・トヴォン・ヴェクトルビア……?」


 そうだ。この名前。何かが引っかかる。


「あの、ウェイルさん。次女の名前が違うのは、別におかしくないですよ? このメイラルドって人、ヴェクトルビア王族の親戚のところに嫁いだみたいですから。ですから名前がヴェクトルビアなんです」


 ウェイルの抱く疑問を解決させようと、ステイリィが詳しい情報をくれる。

 しかし、ウェイルの違和感はそんなことではなかったのだ。


(……メイラルド・トヴォン・ヴェクトルビア……? ……トヴォン・ヴェクトルビア……)


 何度も何度も復唱していく。すると。


「――トヴォン、か」


 そうだ。思い出した。

 トヴォン・ヴェクトルビアという名前を。


「……ハルマーチ・トヴォン・ヴェクトルビア。そうだ、この名前はハルマーチの……!!」


 偶然とは思えぬ一致に、ウェイルは確信した。


「こいつは生きている……!!」


 名前だけの一致ではあるが、そう考えて行動した方が良さそうだ。

 ヴェクトルビアの貴族、ハルマーチ。

 ヴェクトルビアの民なら一度は聞いたことのある名家の者だ。

 セルク作品のコレクターとしても有名で、国王アレスとも良い関係を築いている。

 と、そう民は認識しているだろう。例の事件の後も、未だに。

 何故なら、王都内では、事件の詳しい情報を完全に封鎖しているからだ。

 新聞でも報じられたように、事件そのものがあったことは公開している。

 だが、その内容はというと、嘘もないが真実も少ない。

 犯人のことよりも、むしろ事件を解決した英雄(今回はウェイル)を称える記事ばかり載せられていた。

 もちろん、情報封鎖をした理由について理解できないわけではない。

 貴族が大事件を起こした。

 となれば王都は民の信頼を一気に失ってしまうだろう。

 そして信用は民だけでのものではない。王都と懇意にしている他都市にも影響は出るのだ。

 もっとも影響を受けるのは貨幣である。

 ヴェクトルビアが発行している貨幣と言えば、いわずとしれた『ハクロア』である。

 流通量も多く、価値の高いハクロアを何としても守らねばならない。

 そういった思惑諸々を考慮した結果、事件の犯人であるハルマーチの名前は伏せられたのだ。


「……待てよ……?」


 匂いの濃い疑惑に、胸やけがしそうだった。

 何せ、ウェイルはすでに感づいていたから。

 だからこそ、恐怖を感じる。

 敵の陰謀の深さ、準備の周到さに。


「ハルマーチが暴れたのも…………このメイラルドって奴の仕業……?」


 直接指示したわけではないのだろう。

 しかしながら、流れを作ることは出来る立場にあったはずだ。


「メイラルドって奴が本当にハルマーチと繋がっていたとすれば……王都ヴェクトルビアの事件は、この為に起こしたというのか……!?」


 ウェイルの独り言は、すでに叫びとなっていた。

 興奮が収まらない。

 怒りと、そして驚愕からくる興奮が。


「判ったぞ……!! こういうことだったのか……!!」

 

 報告会で疑問に思っていた事項も、あっという間に溶け去った。


「連絡だ……!! すぐに師匠に……!! ステイリィ、すまないが手伝ってくれ!!」

「えっと、はい!」


(……何を?)


 ステイリィの持ち込んだ資料には、どうしてリベアがレギオンだけに資金を注いでいたのか、その解答が記されていたのだった。

 急がねば、取り返しのつかないことになる。

 ウェイルはとにかく、サグマール、シュラディン、アムステリアと連絡を取ったのだった。


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