上空にて
――上空にて。
「…………どこへ…………いくの…………?」
「それはもう決まっているよ。早速この100万ハクロアを使っておかないとね!」
「…………フロリア…………本当のこと…………言ってない…………」
「うん?」
フロリアは少しばかり驚いていた。
ニーズヘッグにしては珍しく、フレスベルグ以外のことについて言及してきたからだ。
だからフロリアはつい嬉しくなって、口が軽くなってしまう。
「まあね。と言っても、私、嘘は何一つ言ってはいないよ? ただ、少しだけ情報を隠しただけ」
「…………それって…………リベアの目的……でしょ?」
「今日はやけに食いついてくるね。そう、私達、本当は知っていたんだよね。リベアの本当の目的。でも、ウェイルには敢えて伝えなかったんだよ」
「…………どうして……?」
「どうせもうじき判ることだし。それにウェイルなら心配ないよ。私が見込んだ男だからね」
ニーズヘッグとここまで会話を弾ませたのは初めてだ。
「今日はやけに話してくるね?」
「…………どうせ……あの鑑定士の近くには……フレスがいる……。フレスが……酷い目に……あって欲しくない……だけ……。フレスは……私の……だから……」
フロリアは、今初めてこの龍の本質を垣間見た気がした。
ニーズヘッグは、ただ純粋なだけ。それもとびっきりに鮮明、クリアな。
彼女はただ、フレスベルグのことだけを考えて生きている。
およそ理解は出来ないが、する気もない。
途方もない時間の中を生きている龍の精神など、理解出来るはずもない。
フロリアは、仲間の贋作士から話づてで、ニーズヘッグのしたことを聞いている。
その内容は酷く、とても言い表せられない残酷なものだ。
ニーズヘッグの行動原理は、ただフレスに会いたい、彼女が欲しい。それだけだ。
その為ならば、どんなに卑劣なことでも出来る。それがニーズヘッグの純粋さだ。
(危ういねぇ……)
それはまるでガラスの如く透明な精神。
しかし、そういうものは総じて脆かったりするのだ。
(こっちに牙を剥かなきゃそれでいいかな?)
今はただ、フレスを餌に利用すればいい。
「…………結局…………どこへ……いくの……?」
「そうだね、まずは――」
行先とその目的を告げると、ニーズヘッグは一気にスピードを速めた。
その日、マリアステルでは紫色をした龍を見たと、もっぱらの噂になった。