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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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フロリアの申し出

 フレス達が第三試験の為、部屋を飛び出した後のこと。


「ウェイルさん!」


 突如扉を開けて入ってきたのはステイリィだった。


「あ、ああ……。ステイリィか」


 疲れもあって、少しばかり仮眠をとっていたウェイルに、肩で息をしているステイリィが叫んだのだ。


「ウェイルさん、起きてください! 大変なんですよ!!」


 ステイリィの真剣な表情に、ウェイルもすぐさま覚醒する。


「何か判ったのか?」


 何か、とは当然フロリア絡みのことだ。

 ステイリィも、そうだと頷く。


「サスデルセルからの逃走経路は、空でした。奴はウェイルの指摘通り龍を連れていますね」


 聞くとサスデルセルに張り巡らされている結界が破られたとのこと。

 上級魔獣でも破壊不可な結界を崩壊させるほどの力を持つ神獣。

 まさしく龍としか考えられない。


「結界はマリアステル方面が破壊されていました。また奴らはラルガ教会に潜伏していた模様でして」

「……あそこか……」


 ウェイルがフレスと共に戦った最初の場所、ラルガ教会。

 バルハー神父亡き後、教会は放棄されたという。


「教会の天窓が破壊されていたようで、どうやらそこから飛び立ったのだと」

「違いないだろうな」


 ニーズヘッグの放つ瘴気を都市内でばら撒くことがあれば、場所が発覚すること必至である。

 ならば建物内、放棄された教会ほど隠れやすい場所はない。


「気を付けてくださいよ! もしかしたら奴ら、プロ鑑定士協会を恨んで……!!」


 その可能性は否定できない。

 クルパーカー戦争での復習として、協会本部に攻撃を仕掛けてくることだって、フロリアなら躊躇わずやるだろう。


「……すぐさまサグマールに連絡を――」


「――それは困るって、ウェイル」


 ウェイルが報告にと立ち上がった時だった。

 ステイリィが開けっ放しにしていたドアから、話の中心人物が入ってきたのだ。


「…………フロリア…………!!」

「ごきげんよう、ウェイル」


 彼女の背後には、紫の髪の浮浪児のような少女。

 闇の神龍――ニーズヘッグだった。


「……クソッ、まさかこんなに早く……!!」


 すぐさま神器『氷龍王の牙』を展開し、刃を構える。


「もう来た!?」


 ステイリィは突然のことに固まっていたが、すぐさま臨戦態勢を整え、ナイフを取り出す。

 武器を構える二人に対し、フロリアの余裕な笑みを浮かべる。

 それどころか、腹を抱えて笑い出す始末だった。


「アハハハハ♪ ウェイル、まさか本気で戦うつもりなの?」


 背後にいるニーズヘッグに目を向ける。

 あまりにも無表情で、かえって気味が悪いほどの少女。

 ぶつくさと独り言を呪文のようにつぶやき、その手をウェイル達に向けた。


「………………フレス…………どこ…………?」


 輝く闇を集め始めたニーズヘッグを、フロリアが制する。


「こら、ニーズヘッグ。止・め・な・さ・い!」


 フロリアの命令に素直に応じるニーズヘッグ。

 力の集中を止め手を下げると、その場にぺたんと腰を下ろした。


「ウェイル、そっちも武器を下ろしてよ。ね?」


 フロリアの頼みを聞くのは癪だが、これを拒否すなわち戦いになることは必至だ。

 そうなれば龍を持つフロリアに勝てるはずもない。

 悔しいが聞かざるを得なかった。


「……何しに来た、フロリア」


 単刀直入に尋ねる。


「話し合いだよ」


 澄ました顔でフロリアは答えた。


「話し合いだと!? お前ら、プロ鑑定士協会に復讐をしにきたんじゃ……!!」

「違う違う! 私、復讐とかそういうの、あまり興味ないんだって。大体イング様も捕まったんだし、私も『不完全』でいる必要もそんなにないしさ」


 その言葉は完全に予想外であった。

 『不完全』でいる必要がない。

 つまりは一体どういうことなのだろうか。


「お前、『不完全』を辞めたのか……?」

「もう。お前って呼ばれても答える気ないよ? 名前で呼んで♪」


 いけしゃあしゃあと言いのけるフロリアに、ウェイルではなくステイリィの血管が浮き出ていた。


(このクソメイド風情が……!!)


 思っていても、現状口には出せない。

 しかしながら顔にはバッチリとでていたので、フロリアも笑いを堪えきれなかったみたいで。


「アハハ♪ 以前会った治安局員さんだね? 私、貴方みたいなブスに興味はないから、引っ込んでていいよ」


 指さして笑ったのだった。

 これにはブチンという音と共にステイリィの堪忍袋も張り裂ける。


「うっがああああああ!! こんのクソメイドがああああ!! 殺してやんよ!!」

「残念だけど、メイドは止めちゃったの。話の邪魔だから、どこかへ行っててよ、ブス。何ならあの世でもいいのよ?」

「上等だコラ、権力の力なめんなよ!? かかってきやが――」

「――ステイリィ、少し黙ってろ」

「アダッ!」


 ウェイルのデコピンは中々強く、鼻息荒いステイリィすらも一発で口を閉じるほどだった。


「ステイリィ。少し我慢していてくれないか。もちろん、こいつらを外に出すような真似はしない。何かあったらすぐに治安局を動かしてくれ」


 これは最低限の保険である。

 ウェイルは、フロリアが話し合いに来たことは嘘偽りない本当のことだと睨んでいた。

 もし復讐に来たのであれば、わざわざウェイルの元へ訪れる必要はなく、直接建物を攻撃すればいいのだから。

 それでも保険は欲しい。

 言い方は悪いが、ステイリィには話し合いを対等にするための武力となってもらおう。


「フロリア、話を聞こう」

「そうこなくっちゃ! さすが私の男、話が判る!」


 再び暴走しそうになるステイリィを何とか宥めて、話をさっさと本題に移させる。


「何を話しに来たんだ……?」

「リベアって言ったら判るかな?」


 その単語に、思わず鳥肌が立った。

 どうして『不完全』からリベアの名前が出てくるのだろうか。


「リベアについて何を知っている?」


 このウェイルの質問が、フロリアの壺に嵌ったらしい。

 何度目かの大笑いをあげ、涙さながらに応えてきた。


「フフ、そ、そっかぁ。プロ鑑定士協会はそんなことも把握出来てなかったんだね! いい? リベアブラザーズは『不完全』のスポンサーの一つだったんだよ? それは今も同じだけどさ! 私がサスデルセルで潜伏できたのも、リベアの協力あってのもの。リベアブラザーズって会社、裏は相当あくどいことやってるんだから!」

「それは知っている。奴隷貿易などに手を染めていたと。だが、そのリベアは一族の惨殺事件によって解散し、今は世界競売協会の管轄になっているはずだ」

「それ、半分正解だけど半分不正解。確かに本社自体は、私達でいうと表の部分は世界競売協会の管轄になった。でもね、裏のリベアはまだ死んじゃいないから」

「裏のリベア……? 死んではいない……?」


 アムステリア宅で聞いた情報に、リベアについて不審な点は数多くあった。

 無論リベアの裏の顔についても議論はした。

 奴隷商売については、ウェイルもよく知るところだ。


「ウェイル。私がわざわざここに来た理由もリベアにあるんだよ? そもそも私がサスデルセルから逃げる羽目になったのも、これまたリベアのせいだしね」

「何があったんだ?」

「裏切りだよ。この際だから全部話してあげる。リベアと『不完全』は良い商売相手だったんだよ。……って過去形で言ったけど、今もね。『不完全』の贋作に必要な材料はリベアが用意していたしね。逆にリベアの仕事も『不完全』が手伝っていた。奴隷貿易についても、都合の良い者を見繕い、罠に嵌めて奴隷にしていたし。話を戻すけど、私はリベアに裏切られたの。といってもリベアだけじゃない。『不完全』自体にもね。穏健派の奴らが、残った私を切ったってわけ」


 『不完全』という組織には、俗に『穏健派』と『過激派』と呼ばれる二つの派閥がある。

 どちらもその名と通りで、『穏健派』は出来る限り表には出ず、裏で活動を行う者達が集まり、『過激派』は、どんな犠牲もいとわず、やりたいことをやりつくすという集団だ。

 部族都市クルパーカーを襲ったのもこの過激派である。

 フロリアは過激派に属していた。

 過激派内で強い発言力を持っていたイングが逮捕された後、過激派の活動は目に見えて少なくなっている。


「穏健派は過激派をとにかく追い出したいんだよ。だから過激派である私を見捨てたってわけね。潜伏先の情報を漏らしたのもリベア。イング様がいなくなった後、穏健派は相対的に力を増したからね。リベアに指示したんでしょうね。私なんて治安局に捕まれば、程度に思われたんだろうね」

 そう語るフロリアは、何故か嬉々としていた。


「お前がここに来ることになった経緯は判った。だが理由は何だ?」

「だから、私、リベアに裏切られ、穏健派にも追い出されて、今行く場所がないんだよ。だったらせっかくだし、ウェイルの手伝いでもしてあげようかなーっと」


 至って大真面目にそう申し出てくるフロリア。

 フロリアの話を聞く限り、嘘はついてなさそうだ。

 しかし、実際に信頼できるかと問われれば、信頼できるわけがない。

 余計なお世話だ、と一蹴しようかとも考えた。

 だがフロリアは間違いなくウェイルの知り得ない情報を知っている。無下にすることもない。


「もっと詳しく聞かせてくれ」

「流石ウェイル、賢い選択!」


 敵に褒められたところでちっとも嬉しくはなかった。


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