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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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フレスとギルの鑑定譚

 早速鑑定を開始する。

 フレスの方はというと、一度発動を見たことのある神器だ。

 神器であるという証明はすでに済んでいるので、鑑定にはあまり時間が掛からなかった。


「力は本物だとして……、次はデザインの鑑定と年代鑑定かぁ」


 『封印指輪』は大小無数の宝石が散りばめられている。

 中央に爛々と輝くのは、一見するとダイヤモンドの様に見えるが、実はガラス細工である。

 そもそも神器を発動するためには、力が必要だ。

 俗に魔力と称されるが、呼称自体は数多くあり、統一されたものではない。

 このいわゆる“力”と呼ばれるものを神器は敏感に感じ取り、発動の源とする。

 実はガラスには魔力を流しやすい性質があると、最近の神器鑑定士の公式鑑定で明らかになった。

 例えるなら、金属は電気を通しやすいように。

 ガラスは魔力を伝えやすい。そういうことである。

 故にガラスを用いた神器は数多くあり、例えばウェイルが持つ『フロストグラス』もガラス製である。

 ダイヤモンドや、その他鉱石などより、安価で尚且つ使いやすいときたものだから、最近よく用いられている神器には、ガラス製が増えたというのは当然といえば当然ではあった。

 この神器はいわゆるカードリッジ制である。

 一度力を発動すると、中央のガラス玉が粉々に砕け散るという。

 当然、もう一度使うならば新しいガラス玉が必要ということになる。


「ガラス玉は、と。う~ん。本物だよね。そもそもガラスを使ってるってことだから、年代はそんなに古くないか。どんなに古くても300年前程度だよね」


 ガラス細工自体は、そう古い技術じゃない。

 ガラス細工が出来る以前は、神器には鉱物が利用されていた。

 つまり、鉱物ではない時点で、年代はある程度の予測は出来る。


「うん! 一度力の発動も見てるし、本物に間違いはない! ……問題は値段だよね……」


 一応、第三試験の合格条件は100万ハクロア以上の価値のある品を鑑定し、公式鑑定書を作成および、品をプロ鑑定士協会へ持ち込むこと。

 『封印指輪』自体、相当希少な神器であるし、値段が下限を下回ることはなさそうだ。

 しかしながらフレスとしては、自分で値段まできっちりつけてみたいと思っていた。


「うむむむ。100万ハクロアはするとして……。指輪の神器としての観点だけでなく、装飾品としての価値も足さないといけないよね」


 どうしてだか、神器というものはデザインも素晴らしい物が多いのだ。

 力を用いるよりも、装飾品として身に着ける富豪だってたくさんいる。


「よし。もうボクの直観で行く!」


 さらさら、とはいかず不慣れな手つきでペンを走らせ、公式鑑定書を仕上げた。


「えーっと、公式鑑定書は二枚で一組。一枚はアレスに、だよね」


 ウェイルから教わったこともきちんとこなし、フレスは何とか鑑定を終えたのだった。





 


 


 ――●○●○●○――








 対するギルパーニャは頭を抱えていた。


「確か師匠が言ってたよね……。リンネ・ネフェルは四季を題材にした作品群があるって」


 実は師匠について行った出張鑑定先で、その一部を見たことがある。


「あの時の作品は『春』をモチーフにしていた。これは『秋月』だから秋、か」


 そしてその四季を現す作品群は、リンネの作品の中でも群を抜いて人気な代物だ。

 今考えてみれば、サスデルセルで見たリンネの彫刻『冬帳』は(贋作ではあったが)冬をモチーフにしていた。


「これもその一つに違いない。とすれば相当値が張るってことかな……」


 実際の琥珀で満月を表現したこの作品に、ギルパーニャは圧倒されていた。

 惹き込まれる。それは初めての体験だった。


「凄いよ。琥珀の透明度。不純物が全然ない。透き通ってる。中に入った気泡も、それこそ月の模様そっくりでいい味を出してるよ。それに月を写す水面の彫刻だって、穏やかな波一つ一つが丁寧だ。本当に水だと勘違いしそうになる」


 一目見た瞬間から本物だと確信は出来ていた。

 しかしながら、実際に詳しく、じっくりと見てみると、その丁寧な作りがとてもよく判る。

 人間が彫刻刀で作り出した、小さな世界。

 見る者をそう錯覚させる彫りに、ギルパーニャは感動すら覚えていた。


「リンネ・ネフェルの題材『四季』。季節は秋。その作品群の一つに間違いない……!!」


 ギルパーニャは、とにかく丁寧にじっくりと鑑定を進めた。

 最終的な鑑定結果を出した頃には、すで深夜となっていた。

 途中、食事ということでフレスがギルパーニャに声を掛けたものの、彼女の耳には届いていなかったらしい。

 黙々と鑑定を続けるその姿に、アレスもそっとしておこうと提案し、二人して席を外していた。

 ギルパーニャは、二人がいなくなったことにさえ気づいていなかった。





 



 ――●○●○●○――








 晩餐に招待されたフレスは、アレスと共に様々な話をしたが、その内容の大半はフレスの親友であるギルパーニャのことについてだった。

 ウェイルの妹弟子であることを伝えると、アレスは想像以上に驚いていた。

 ギャンブルが強いと話すと、アレスはとても羨ましがっていた。

 一通り聞き終わった後、アレスは言う。


「あの集中力は脅威だ」と。


 フレスだって知っている。

 ギルパーニャの集中力がどれほど凄まじいかを。

 何せギャンブルにはとことん強い彼女だ。

 周囲の状況を肌で感じ、空気を読みながら己の選択を信じる。

 集中力なしには為し得ない、博才が彼女にはある。


(ご飯、持って行ってあげよっと♪)


 鑑定を続ける親友の為に、フレスは周囲の奇異な目などお構いなしに、食べ物を盆に積み上げた。


 フレスがお盆をもってコレクションルームに戻ってくると、ギルパーニャは横になってクークーと可愛らしいいびきをかいていたのだった。




 





 ――●○●○●○――









「アレス、本当にありがとう!」

「ありがとうございました!」


 次の日の早朝、二人は城門前にてアレスに頭を下げていた。

 王自ら、門まで見送りまでしてくれていた。


「なに、王都の危機を救ってくれた恩人の頼みだ。どんなことがあっても断れんよ」


 ヴェクトルビアに住まう者の多くはフレスの活躍を知らない。

 そもそもあの事件は、一応大陸中に伝えられたものの、王都にとって都合が悪い真実については一切報道されていないのだ。

 中にはフレスの消火活動を目撃した者はいるが、その数は少ない。

 フレスが英雄であることは、アレスくらいしか知らないし、逆に言えば、アレスだけが知っている。

 王として恩義を感じていたに違いはない。

 でなければ大事なコレクションを、こんな歳行かぬ小娘に貸し与えるはずもないのだ。


「一応、ヴェクトルビア駅までは護衛の者をつけよう。だが、後はお前達次第だ。頑張りなさい」

「うん!」

「はい!」


 預かった品を、大切に抱えるギルパーニャ。

 改めて、アレスへと振り返り、お辞儀をする。


「ハッハッハ、二人とも、合格しろよ!」


 二人は手をあげてそれに答えたのだった。



 その日の午後、二人はマリアステルへと到着。


「これ、鑑定お願いします!」


 一日も余りを残し、二人はプロ鑑定士協会に品を提出することが出来たのだった。


「さ、ウェイルのところへ行こう!」

「ウェイル兄、アレス公のところへ行ったって言ったらどんな表情するんだろうね!」



 驚くウェイルの顔が見たい。

 そんな些細な願いも、実現することが出来ない状況が三人に襲い掛かることになる。




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