子供だなぁ。
「あの~~~、アレスに会わせて欲しいんだけど」
「……なんだと……!? 国王に!?」
フレス達の周辺には、多くの人だかりが出来ていた。
「ねーねー、アレスに会わせてよ」
「だめだ! それにお前は一体誰なんだ?」
「さっきから言ってるじゃない! フレスだよ、フ・レ・ス!!」
「だから何者なのだ!? 別に名前を訊いているんじゃない!」
こんなやり取りが王宮の前で数十分も繰り広げられているのだ。注目もされるわけだ。
「……本当に王様と知り合いなの……?」
心配になったギルパーニャがフレスに耳打ちする。
「何言ってんのさ! ボク、この都市を助けたんだよ? 恩人なんだよ?」
「それ、自分で言うことじゃないよ……」
周囲の奇異な目に慣れていないギルパーニャは小さくなっていた。
それでもフレスはお構いなし。
「もう! アレスと知り合いだって言ってるでしょ!?」
「信じられる訳がないだろう!? 親書や紹介状もなし、王からも何も聞いていないのだ。入れるわけにはいかん!」
「むぅ! この分からず屋!」
「……どっちがだよ……」
「それに今、王は宮殿にいらっしゃらない。入っても会うことは出来ん!」
「なら中で待つからいいよ。入れて♪」
「駄目に決まっているだろう……」
いい加減収拾のつかない言い争いに、兵士達の数が増えてくる。
「何事だ?」
「はっ、この小娘がアレス公に会わせろと!」
「アレスを出せ! 早く入れろ!」
「……全く、こんな小娘の戯言に付き合う必要などないだろう。さっさと追っ払え」
「了解しました。さあ、もう帰る時間だ!」
「嫌だ~~!! アレス~~~!!」
兵士二人に捕まったフレスは、動きを封じされると門の外へ叩き出される。
「こら! もっと丁寧に扱えよ~~!!」
「……フレス、もういいから場所を変えようよ……」
クスクスと笑われることに、ギルパーニャはうんざりしていた。恥ずかしすぎる。
「……いや! もうなんだかアレスに会わないと悔しくて帰れない!」
悔しそうに地面を足で蹴るフレス。
頭から煙すら見えるほど、フレスはプンスカしていた。
その時だった。
「アレス様よ!」
住民の一人が叫ぶと、民衆は一斉にその方を向く。
「アレス様だ!」
「王の帰還だ!」
大きな馬二頭に引かれた、煌びやかな馬車がやってきたのだ。
住民達の声に応えるように、馬車の扉が開く。
その中から厳かに出てきたのは、アレス・ヴァン・ヴェクトルビア。
王都ヴェクトルビアの国王その人だった。
馬車を止めて、地面に降り立った国王は、住民一人一人に声を掛けている。
「フ、フレス……!! 私、アレス公、生で見たの初めて……!!」
ギルパーニャはどうしていいか判らないようだった。
「アレス様―――!!」
「井戸の件はありがとうございました~~~!!」
口々にアレスへの感謝の意を発する住民達。
皆がアレスを称賛する声を高める中、一人だけ別の意味で声を高くする者がいる。
もちろん、それはフレスだった。
「ちょっと! アレス!! 宮殿前で門前払いを喰らったんだけど!!」
「……その声……。まさか……フレスか?」
「そうだよ! ウェイルの弟子のフレス! お久しぶり!」
「おお、フレス。久しいな! 一体今日はどうしたのだ? ウェイルは一緒じゃないのか?」
「ちょっと頼みたいことがあってさ♪ ウェイルとは別行動してるの!」
「ほほう。それで頼みごととは一体?」
「うん♪ ボクと、このギルパーニャのお手伝いをしてほしいんだ!」
ひっそりとフレスの後ろに隠れていたギルパーニャを、フレスは無理やりアレスの前に立たせた。
「ふむ。フレスのお友達かな?」
「親友だよ♪ ギルパーニャっていうの!」
突如国王の前に立たされたギルパーニャはというと、ガチガチに緊張して頭の中も真っ白になっていた。
「あ、あわわわわわ、ほ、本当にアレス公と知り合いだったの!? フレス!?!?」
「だからそうだって何度も言ったじゃない」
「フハハハ、ギルパーニャといったか。そう緊張せんでくれ。フレスの友人となれば、我にとっても友人と同義。友人に緊張されることほど悲しいことはないぞ?」
「そ、そんな無茶な!」
周囲で様子を窺っていた住民も、驚きを隠せていなかった。
何せさっきまで門前払いを喰らっていた二人組が、国王であるアレス公と親しくしていたのだから。
「フレスよ。ここでは人目に付きすぎる。宮殿の中に入ってゆっくりと話をしようではないか。さあ、二人とも、馬車へ」
「うん♪」
「は、はい……。お邪魔します……」
馬車に乗り込み、門の所へとやってくる。
「アレス様、お帰りなさいませ!」
先程の兵士が恭しく頭を下げていた。
「うん♪ ただいま!」
「はい……って、えっ!?」
「さっきはよくも叩き出してくれたね! アレス! この人、ボクに酷いことをしたんだよ!」
兵士はこれ以上なく驚いたに違いない。
何せ王が乗っているはずの馬車に、先程つまみ出した小娘がニヤニヤと笑いながら身を乗り出していたのだから。
「ほほう。君、我が友人を追いだしたのか?」
「あ、アレス様!? いや、私めは任務を遂行したまでで! まさかその小娘……じゃなくお嬢様がアレス様の友人だとはつゆ知らず!! お、お許しを!!」
兵士は涙を浮かべながら、頭を下げてくる。
「ハハハ、いやいや、判っておる。冗談だ。頭を上げてくれ」
「し、しかし!!」
「フレス、もう許してもいいだろう? 彼は自分の任務を全うしただけだ」
「うん! なんか勝った気分になったからいいよ!」
自慢げなフレスに、ギルパーニャの嘆息も尽きない。
見るとアレスも苦笑していた。
「……もう、フレスったら……」
子供だなぁ、とは口にしないことにした。
(フレスは子供っぽい方が可愛いからね)