試験の裏ワザ
「はい、ウェイル。80万、返すね♪」
「あ、ああ……」
何とも自慢げに札束を机に置くフレス。
壺の取引で大儲けした二人は、すでにプロ鑑定士協会内で大きな話題となっていた。
『今年の受験者に面白い子供がいる、と』
それが試験を続ける上で吉と出るか凶と出るかは判らないものの、少なくとも他の受験者からは徹底的にマークされそうだ。
「リルさん、ありがとうございました。ヒントのおかげです」
ギルパーニャが恭しく頭を下げると、イルアリルマは困った表情を浮かべていた。
「いえいえ、私、結構適当にアドバイスしまして。まさかあんな方法で実現してくるとは思いも寄りませんでした」
「それでも、ヒントのおかげで思いついたんです。感謝してます」
最初こそ自分は大したことなどしていないと、頭を下げられることを拒否していたものの、あまりに熱心にギルパーニャが頭を下げてくるため、素直に感謝されることにした。
「判りました。ではこうしましょう。貸し一つ、てことで」
「はい!」
イルアリルマにその気がなくとも、ギルパーニャにとってはそのヒントが作戦を思いつく決定打となったことには違いない。どうにかして感謝の意を示したかったのだ。
「うう、それにしても第二試験は疲れたよぉ……。どうしてこんなに難しい試験を出すんだか……。合格者87名って少なすぎだよ」
ぐーっとベッドで項垂れながら文句を垂れるフレスに、ウェイルは苦笑する。
「あのなぁ、今回の試験、実はそれほど難しいものでもなかったんだぞ」
「何言ってんのさ! 需要と供給のカラクリに気付かなければ合格できないんだよ?」
「そうだよ。リルさんくらいすぐ気付ける人じゃないと合格なんて」
「それがな。実はこの試験、裏技があるんだよ」
「裏技、ですか……?」
この話にはイルアリルマも興味を示す。
「そうさ。100%合格できる裏技さ」
ウェイルはニヤリと笑うと、机の上に置いてあるフレスとギルパーニャのドッグタグをとってブンブンと指で回す。
そしてドッグタグをそれぞれの持ち主の前に掲げた。
「今回の試験、合格基準は壺を10万で売ったという証書があればいいってことだ。つまり、証書さえ無理やり作ってしまえばいいのさ」
「無理やり作るの?」
「そうさ。やり方はこうだ。まずフレスがギルに壺を売る」
分かりやすく、フレスのドッグタグをギルパーニャの前に。
「ボクがギルに? どうして? 受験者同士でやってもいいの?」
「やってはいけないとサグマールは言ったか? まあ聞け。ギルは壺を受け取り、代わりに10万をフレスに払わなくてはならない。ここでまず10万を払ったという証書を作り、実際に払う」
「うん」
「すると今度は逆をするだけだ」
そして今度はギルパーニャのドッグタグをフレスの前に持っていく。
「今度はギルの持つ壺の一つをフレスに売ってしまえばいい。フレスは今手元にお金がある。それをそのまま返して証書を作るんだよ。簡単な話、取引したってことにすればいい。実際に取引は行われているわけだし、証書も手元に残っている。つまりだ。手元に10万ハクロアと、絶対に裏切らない信頼できる協力者さえいれば、この試験は30分も掛からず合格できるってわけだ」
合格基準は単純に、10万ハクロアで壺を売り、その証書を手に入れるだけである。
その過程について問うことはないし、証書の相手が法人だったり、オークションハウスでなければならないという条件は何処にもない。
そもそも質屋や骨董店などの個人同士の取引も認めているわけだから、この方法を用いることもなんら問題はなかったのである。
「な、な、な……なんですとーーーーーー!?」
「そんな方法があるだなんて……」
これにはイルアリルマも絶句していた。
どうやら思いつきもしなかったらしい。
「……ちょっとそれ卑怯だよ、ウェイル兄……」
「卑怯なもんか。合格出来たらそれでいいんだよ。先は長いんだ。あまり体力のいることをするもんじゃないさ。例えば、皆の壺を買って割ったりとかな」
「うう……」
「成功するかどうかも運だったわけだし、確実な方を取るべきだ」
項垂れる二人にドッグタグを渡してやる。
「……あの作戦、苦労したのに……。そんな方法が……」
寝る間も惜しんで作戦を練り、苦労して成功させた作戦をあっさりと否定されたのだ。
ギルパーニャは床に手をつくほど落ち込んでいた。
「ウェイル! その方法、やっぱり卑怯だよ! 正々堂々とやらないと!」
「おいおい……」
「ボクら、とっても頑張ったんだから! ご飯奢れ!」
「お前が今まで一度でも自分で払ったことがあるか……?」
とはいえ、ウェイルも今回の二人の作戦には舌を巻くところが多かった。
これを労ってやらねば師匠とは言えないだろう。
「ま、まあ、お前らがやったことは、結構凄いことだったりする。正直驚いたよ。成長したなと感じたさ。よし、じゃあ合格祝いにパーっと何か食べに行くか?」
「いくー! ねぇ、ギル、元気出してよ! ウェイルもよくやったって!」
「うん。私の作戦、今思えば最高だったよ。だってウェイル兄のやり方なら、こんな大金稼げないもんね!」
「そうだよ! 300万ハクロア以上稼いだんだよ? 大成功じゃない!」
わざわざ見せつけるように札束をポケットに詰め込む二人。
「よし! ウェイル! ボクが奢ってあげる! 感謝しなさい!」
「リルさんも一緒に来てください。お礼しますから」
自慢げに腕を組むフレスを見て、ウェイルとイルアリルマは顔を見合わせると、
「……はいはい。奢ってもらいましょう」
「御馳走になりますね」
互いに苦笑しながら、さっさと部屋から出ていく二人を追ったのだった。
――●○●○●○――
とあるマリアステルの都市郊外。
「……プロ鑑定士試験ってやっぱりマリアステルであったんだね。てことは、ウェイルはプロ鑑定士協会本部にいる可能性が高いわ。どうする?」
「……いく。……フレス……取り戻さないと……!!」
紫の瞳に影が差す。
何を考えているのかわからない、そんな表情の少女はポツリと呟いた。
「…………フレス…………、もうすぐ……会える…………!!」
それ無表情そのものだったが、フロリアには判る。
この龍は喜んでいると。
少しだけ語尾に興奮していたし、何より口元が少しだけつり上っていたから。
「ねぇ、フレスに出会ったらどうするの?」
「…………どうする……? …………愛し合う……?」
「あらら、そんな関係だったの? まあいいけどさ。私もウェイルに重要な話があるし、明日にでも会いに行こうか♪」
「……明日……。明日ついに……。…………アハ、アハハハハ、アハハハハハハハハハッ!!」
「ちょっと、ちょっと! 急にどうしたの!?」
ニーズヘッグは天を仰ぎ、不気味に高笑いしたのだった。
(……やっぱり不気味だ、この龍……)